惨 双子の兄妹
――かつて魔王と勇者が対峙した。
『フッ……また勇者を名乗る脆弱な人間が我を倒しに来たかと思えば女とはな』
魔王は女から勇者の証であるカメオを奪いとって城の地下へ幽閉する。
『くっ……殺しなさい!』
『力も富もある最高権力者の妃となれるのだぞ、もっと喜ぶがいい』
やがて魔王との間に男女の双子が生まれた。
産まれた子の世話をする老女が震えながら魔王に告げた。
『あなた方は兄妹なのでございます』
人間と魔族の間に生まれた双子の兄妹である二人は別々に育てられたのだと語る。
『貴方が私の兄なんて……この子達はどうしたらいいの!』
女はその場へ泣き崩れた。
『お前は悲劇を繰り返さぬように我が子を殺すと言うのか……』
どういう因果か同じ男女の双子が生まれ、女は未来を悲観している。
『幸せだと思っていたのに否定されてしまった……』
女はその場にあった騎士の鎧からハルバードを奪って自分へ向けた。
『やめろ!』
魔王は凶器を叩き落とすと、次は窓から飛び降りようとする彼女を抑えた。
『私は沢山の罪を犯してしまった……もう生きていても苦しいだけだわ……』
魔王は静かになった女を抱えて城の薬品棚から瓶を取り出す。
『同じ時に生まれたんだ。死ぬ時も二人でなければならない』
そう言って先に毒を口に入れた魔王は女に毒を飲ませる。
『魔王に毒なんて効くのかしら』
『魔王とはいえ半分は人間……お前もそうだろう』
彼女が毒で死ねば彼も死ぬだろう。
『そうね私達は』
“双子なのだから”
■■
城では魔王の女が映画を鑑賞している。
「うわあああん!」
悲劇のストーリーに号泣している。
「ちょっと魔王うるさいんだけど」
「なに勇者、アンタには血も涙もないの!?」
魔王と勇者は例外なく戦うものだが、男女ということもあり出会った時に魔王から勇者へ求婚したので戦いはなくなった。
「まさか魔王がこんなチープなフィクションで泣くなんて」
「だって、魔王と勇者ってあたりがすっごくリアルなんだもん!」
魔王は勇者の腕をブンブン振り回して、もしも自分達が同じ展開になったらどうしようと涙目になる。
「はいはい魔王は喜怒哀楽が激しいな」
勇者は魔王の頭を撫でて城のキッチンを漁りに行った。
「もしも……だったら、それを知るのは僕だけでいいさ」