11 忘れられたほうが
親戚か兄弟でもいれば、丸投げして逃げることも考えた。
しかし、大公の一人息子である自分が本当に、女一人から逃れるのために逃亡する事は難しい。
後継者として期待している公国民の事は嫌いではないし、あいつさえいなければ……
「姫が訪ねてきたそうですよ」
「神様ってものがいるなら、忘れてくれたままがよかった!」
今日まで何もなくわりと平穏だったのに、今日嫌なイベントが起きたのも、神の気が向いた結果だろう。
そうだ……指輪でも送ろう!
「手紙の返事がないから、直接聞きにきたわ!」
返事がない時点で察してもらいたいのに、相も変わらず、強引である。
「あ、今から出かけるので帰ってもらっていいですか……」
今日こそは本気でヤツを片付ける。たった今そう決めた。
「せっかく来てあげたのに!」
「そっちが勝手に来たんじゃないですか」
「どうされたんですか……ぼっちゃま、相手は王妹ですよ?」
仮にも穏便に同盟を維持する必要のある相手、相手は王政で、こちらは公爵。奴が本気で国を潰そうと思えば明らかに負ける。
それでも、自分で断ろうとしてもポジティブなヤツには言葉が通じない。向こうから諦めてもらうにはどんな愚かな行動でも取るしかない。
「すみませんが指輪を買いにいくので」
「えっ!?サイズは……」
そうだ……自分がもらえると勘違いしろ。
これで、今日こそやつに引導を渡す。
「アイレア」
指輪を買いにⅭ国へ向かう。
「あれは……」
強そうな銀髪の美少年が、黒髪の少女を背負って病院へ向かっていくのが見えた。
「人間が魔族を助けているなんて……」
「……まあ、C国は確か魔王と勇者が停戦協定を結んだと聞くし……」
「……そうなんですね」
指輪は後にして敵情視察にでもいこうと思う。それを察したのか、アイレアがこちらを見ていた。
「先に彼らの動向を探りに行かれるのでしょう?」
「ああ」
「彼らは……どこだろう」
「君達」
きょろきょろとしていると、背後から少年が声をかけてきた。
「いや、何やら病院に駆け込むのをみかけて」
「へー」
「えっと……お連れさんは大丈夫ですか?」
「まあ……今のところは安定しているらしいから」
ぽかんとしていると、ナースが彼に話しかけた。
いったいどんな重病かと他人事ながらハラハラしていると、それは取り越し苦労だったことを思い知る。
「いやーアイツが例の勇者Cで、俺よりガキなのにもう父親になるのか……」
「すごいですね……」
「……人間と魔族が結ばれるなら、人間同士の俺達が結ばれないのはおかしいよな」
「そう……ですね……」
いつも感情の起伏が少ないアイレアが、珍しく驚いた表情になる。思えばアイレアは俺のことを好きなのか?
俺はクッソナへの当てつけや逃避を抜きに彼女のことが好きだ。だが、いつも俺が俺が、と一方的に思ってばかりだった。
「確認なんだが、いつも逃亡訓練に付き合わせてるが、迷惑だったりしないか?」
「そんなことはありませんよ」
アイレアはクレープ屋をみつけて、キッチンカーは初めて見たと言って買いに行った。
遠のく彼女の背を見つめながらつい先ほど、男同士の話だといって勇者Cが忠告してきたことを思い出す。
『キミだって魔族を連れているじゃないか』