Re:2
俺がそれに気づいたのは、ある晴れた日のことだった。多分、『あの日』から1日たった次の日だったと思う。
「チリリリ!!・・・・」
俺、進藤鵠の安眠を妨げるのはもちろん目覚まし。しかも、そんじょそこらのやつじゃない。何者をも寄せ付けないその大音量は、まさに・・・・・何だろう。正直どうでもいい。俺は眠たいんだった。
ちなみに、俺は朝が弱い。つまり寝起きが悪いという意味である。冬ともなれば余計に起きる気がしない。この暖かい羽毛布団にハンバーガー。多分かなり美味しいですよ、お客さん。
俺がいい感じで安眠していると、いつものように邪魔者がやって来る。足音は明らかに二拍子のリズムを奏でている。と言うか、五月蝿い。
「コォーラァー!何時まで寝てんのよ! さっさと起きろー!」
あいつだ。
「ほんと、何でそんなに寝れんのかしら。毎日起こさないといけないこっちの身にもなれってんのよ。」
いつもの台詞、と言うか文句を言いながらドアをノック(フルスイング)する。
「起きなさいってば!遅刻するでしょ!」
俺の両親は仕事で海外に行っており、一人っ子の俺は両親の友人の家に居候している。と言っても隣の家だが。
つまり、俺を起こすのは母親ではなく・・・。
「聞いてんの?起きろっつってんのよ!」
勝手にドアを開け、部屋に入ってきたあいつは、俺のお気に入りハンバーガーにかかと落し。ふかふかでもこもこが売りのハンバーガーがその衝撃を吸収してくれるわけも無く・・・。
「っぐふぁ!」
「あ。」
腹を押さえて悶絶する俺を見て、どうやらちょっとやり過ぎたと思ったらしい。
「おま・・・っか、馬鹿かよ。」
かすれた声でそう言う俺を見下ろしながら、苦笑いを浮かべている。
「あはは、ごめんごめん。痛かった?」
全く悪びれる様子も無くそう言ったのはあいつ、長谷川日向。
「まぁ、いいじゃない!朝からかわいい私の笑顔が見えたんだから!」
「はいはい。」
「ムカッ! いいからさっさと起きる。遅刻するわよ。」
日向は無理やり俺の布団を剥がすと、その場に座り込んだ。既に着替えを済まし、準備万端整っている。
渋々ながらも覚醒した俺は、制服に着替え始めて気が付いた。
「お前、何でいんの。着替えるんだけど。」
言われて日向は、初めて気づいたように怒鳴った。
「う、うるさいわね、分かってるわよ!」
そう言いながら部屋を出て行き、後ろ手で強くドアを閉める。
「・・・何だ?」
あくびを噛み殺し、手早くTシャツに袖を通しながら、俺は考えていた。
最近のあいつは少し変だった。何と言うか、今まで以上にふとした時目があったり、行動や会話に違和感を覚える。
(何かあったのかな。反抗期か? もしや非行に走ったとか)
そんな下らないことを考えながら、着替えを終えた俺は朝食を食べるため、階段を下りていった。
キッチンに近づくにつれて、食欲をかきたてる匂いが漂ってきた。
キッチンでは日向の母親、陽子さんがコーヒーを入れていた。日向の家族は、父親の伸一さん、母親の陽子さん、姉の絵亜さん、日向の四人家族だ。伸一さんは雑誌の出版社に勤めていて、既に出勤しており、絵亜さんも学校に行っているようだった。
「おはよう鵠くん。時間、あまり無いけど、どうします?」
「おはようございます。すいません、飲み物だけでいいです。」
俺はそう言って、テーブルの上にあるオレンジジュースを一気に飲み干した。
もちろん腹は減っていたが、時間的にそうも言ってられない。
「そう。もっと早く起きれば、ちゃんと食べられるのに。」
頬に手を当てながら、どこか悩ましげに言う陽子さん。こうゆう仕草は見た目に若く、おとなしい美人お嬢様タイプの彼女には良く似合っている。名前のとおりポカポカした人だ。
「あはは・・。」
乾いた笑顔で答えていると、玄関から怒ったような声が聞こえてきた。
「早くしなさいよ! 本当に遅刻しちゃうじゃない!」
どうやら本当に怒った声で日向が急かしてきた。
「今行く!それじゃ、行ってきます。」
空腹感はあるものの、遅刻はまずい。よくテレビで遅刻しそうな人が、パンを咥えて走ったりしているが、そんなことはしない。というか、普通ありえないと思う。
「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね。」
ぽかぽかした笑みを浮かべ、控えめに手を振ってくれた陽子さん。そんな仕草もよく似合う。青い包みに入った弁当を鞄に入れ、玄関に向かう。既に靴を履き、立ったまま待っていた日向は、やはり怒っていた。
「遅い。遅い遅い遅い遅い。」
「・・・・・。」
(何でこんなに怒りっぽくて乱暴な日向が、あんなにおしとやかで優しい陽子さんの娘なんだ。)
そう思いつつ、日向の顔をジッと眺めていると、
「ん?な、何よ?」
その視線に気づいた日向は、ドモリながら目を逸らした。
「いや、人類の神秘について考えていたわけだよ、うん。」
「はぁ?何言ってんのあんた。まだ寝ボケてんじゃないの?」
「うぅ〜ん。人間って不思議だ。」
腕を組みながらそういった俺に、日向は呆れつつ玄関のドアを開けて外へ出て行った。
「バカなこと言ってないで、さっさと行くわよ!まったく。」
振り返ってそう言う日向に、
「分かったって。早く行こうぜ、遅刻するだろ。」
「あんたのせいでしょうが!」
そう言い、後について外へ出て行った。
当然ながら、外は冬の朝。べらぼうに寒い。そこに立っているだけで一日のやる気を失いそうだった。
学校までそう遠くはないが、今日は走らないとダメだろう。朝から無駄な体力を消耗してしまう。これで体力回復のための昼寝は決定されたようなものだった。
まぁ、今日もなのだが。
どうもです!
速度がまちまちですが、頑張ってます。
読者の皆さん、読んでくれてたらうれしいです。
とりあえず、登場人物の紹介など・・・。
進藤 鵠17歳の高校2年生
長谷川 日向幼馴染
長谷川 伸一日向の父親
長谷川 陽子日向の母親
長谷川 絵亜日向の姉
今回はこのくらいで。
詳しくはまた後ほど。
それではまた。