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異世界に転生しちゃったので週刊少年ジャンプを作ってみた  作者: 羽越世雌
第1章:異世界ジャンプ編集長(仮)への道
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第5話:声が物語を変える――アンケートという名の魔法

広場を埋め尽くす魔法投影による『異世界少年ジャンプ』の連載は、街の風景を完全に塗り替えた。だが、ツヨシには一つ懸念があった。この街の人々は、物語を「与えられるもの」として受け取っているに過ぎない。読者がただの観客である限り、漫画はいつか消費され、飽きられる運命にある。


「もっと、彼らを物語の当事者に引きずり込まないといけない」


ツヨシが取り出したのは、工房の片隅に積み上げられていた小さな『魔石』の欠片だった。かつて魔法のインクを定着させるために使った魔石の余りだが、これに一つだけ、特別な細工を施すことにした。


「ミナ、ルナ、ちょっといいかな。読者一人ひとりが、自分の『想い』を作家に直接ぶつけられるシステムを作りたいんだ」


ツヨシが考案したのは、雑誌の巻末に付録として封入する『感情共鳴魔石』だった。読者は、今週号を読み終えた直後、その魔石に指を触れ、物語への熱量を念じる。すると、その感情の波長が魔法の波動となって編集部へと届けられる。


「読者の感想が、作家のペン先を自動的に導くガイド線になる……? そんなこと、可能なの?」ルナが驚いたように杖を握り直す。


「可能だ。かつて俺のいた世界では、読者の声が作家を追い詰め、同時に最強のインスピレーションを与えていた。読者の熱量が高いほど、作画の細密度や魔法の威力が向上する。いわば、読者が物語を育てる『育成システム』だ」


創刊第3号に、この魔石を付録として付けた。最初は戸惑っていた読者たちだったが、ある少女が『異世界少年騎士団』のラストでピンチに陥ったアルスの姿に心を震わせ、思わず魔石に強く願いを込めた瞬間、異変が起きた。


工房の編集テーブルの上に置かれた原稿用紙の余白に、キラキラと輝く光の粒子が集まり始めたのだ。それは文字や絵ではなく、読者が抱いた「アルス、負けないで!」という熱烈なエールが結晶化したものだった。


「これは……すごい……!」アルスは驚愕し、ペンを手に取る。

その光の粒子が、アルスのペン先を通った瞬間、彼が描く剣の線に今まで以上の輝きとスピードが宿った。読者の想いが、そのまま絵の力となって具現化したのだ。


これを見た街の人々の反応は早かった。翌週から、街の郵便ポストは『想いを込めた魔石』で溢れかえった。人々は競うように自分の感情を魔石に込め、順位を付けた。


ここでツヨシは、さらなる大胆なルールを導入した。

「順位が低い作品は、魔法の維持に必要なエネルギーが供給されず、物語が街の空から消えてしまう」


それは残酷な「打ち切り」の宣告だった。だが、このルールが導入された瞬間、街の空気は一変した。作家たちは読者の顔を想像しながら、魂を削ってネームを切るようになった。読者もまた、自分の推し作品を存続させるために、誰よりも熱心に物語を読み込み、感想を送るようになった。


街の図書館で一人、その様子を窓から眺めていたガストーレは、手に持っていた歴史書をワナワナと震わせた。

「バカな……! 学問という秩序を、あんな無学な民の『気分』で左右させてはならん!」


ガストーレは、アンケートの結果を改ざんしようと画策した。大量の偽造魔石を闇市で調達し、自分の推す高尚な説話集の順位を工作で1位に引き上げようとしたのだ。


だが、ツヨシはその工作を予測していた。彼はあらかじめ、読者の「純粋な熱量」だけを感知するフィルターを魔石のシステムに組み込んでいた。偽造された魔石からは、一切の感情が放たれない。結果として、ガストーレが送り込んだ大量の票は、システムに弾かれ、何の効果も発揮しなかった。


逆に、ランキングの最下位に落ちたのは、ガストーレが推奨していた『退屈な教訓譚』だった。その作品の魔法投影が街から消え、空が少しだけ寂しくなった瞬間、街の人々は歓声を上げた。自分たちの意思で、自分たちの見たい物語を選び取ったという確信が、彼らの顔を誇らしげに輝かせていた。


工房の中で、ツヨシは窓の外の夜空を見上げた。かつての自分が、日本の雑誌の巻末ハガキに、震える手で感想を書き込んだ時のことを思い出す。


(ああ、そうか。この熱狂こそが、俺が最後に諦めかけていた『生きた物語』の正体だったんだ)


読者の声が作家を強くし、作家が描く物語が読者を強くする。そんな循環が、魔法という媒体を得て、この異世界に定着しつつあった。


「さあ、次のエピソードはどうする? アルスとルナのコンビネーション技、読者の期待を超えるなら、今度の戦闘シーンはあそこまで派手にやらないとな」


ツヨシは新しいペンを握り、ニヤリと笑った。二十代の肉体と、六十年の経験、そして何万人もの読者からの「想い」。そのすべてを背負って、ツヨシの『ジャンプ』は、誰にも止められない速度で次のページへと跳躍し始めた。


図書館の奥でガストーレが何を企んでいようと、もはや物語の力には敵わない。ツヨシは確信していた。この街の少年たちは、もう二度と、退屈な歴史書だけで終わるような大人にはならないのだと。

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