↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生しちゃったので週刊少年ジャンプを作ってみた  作者: 羽越世雌
第2章:海を越える『ジャンプ』と世代交代
PR
20/21

第19話:編集長からの卒業、新しいペンを握る者たち

『世界少年ジャンプ』が東西の大陸を一つに結んでから、幾星霜の季節が巡った。

かつて帝国の冷徹な検閲に怯えていた首都は今や、世界中から集まった多種多様な文化や笑い声が交差する、最も活気あふれる「物語の都」へと変貌を遂げていた。


編集長室の窓辺。

初代編集長であるツヨシは、マグカップに注がれた温かいお茶の湯気を眺めながら、外の賑わいに目を細めていた。


街のあちこちの空には、アルスやルナ、そしてレイをはじめとする次世代の編集者たちが発掘した無数の新鋭作家たちの作品が、色鮮やかな魔法投影となって幾重にも輝いている。もはやツヨシがかつての地球の記憶(ライブラリ)に頼る必要は完全に消えていた。この世界に生きる者たちが、自らの血肉と熱量で描き出すオリジナルは、ツヨシの知っていたどんな伝説をも凌駕するほどの輝きを放っていたからだ。


「……ふう。よくぞここまで育ってくれたものだな」


ツヨシが呟いたその時、部屋の扉がノックされ、アルスとルナが静かに入ってきた。二人の表情には、かつての荒削りな若さではなく、数々の修羅場を越えてきた歴戦の「編集長代理」としての誇りと風格が満ちていた。


「編集長、次号の最終チェックの件ですが――」

アルスが書類の束を差し出そうとしたが、ふとツヨシの机の上を見て言葉を詰まらせた。


ツヨシの手元にあったのは、原稿の赤入れペンではなく、真新しい一冊の「白いノート」と、一本のシンプルな万年筆だった。


「ツヨシさん……?」ルナが不安そうに眉をひそめる。

「そのノートは、いったい……?」


ツヨシはゆっくりと振り返り、二人に穏やかな笑みを向けた。


「そろそろだな、と思ったんだよ」


「……どういうことだよ!」アルスが思わず声を荒らげた。「まさか、あんた、『世界少年ジャンプ』を放り出してどこかに行くつもりじゃないだろうな! まだ俺たちには、あんたの背中が必要なんだ!」


「違うさ、アルス」

ツヨシは首を横に振った。

「俺は、どこにも行かない。この街で、この世界で、ずっと隠居して暮らすよ。ただ……『編集長』の椅子を降りるだけだ」


ルナは息を呑んだ。彼女の美しい瞳に、微かな潤みが浮かぶ。

「私たちがここまで来られたのは、あなたが絶望の淵から私たちを引っ張り上げてくれたからよ。あなたがいないジャンプなんて――」


「俺がいつまでもトップに居座っていたら、この世界はいつまで経っても『ツヨシの模倣』の枠を出られないだろ?」

ツヨシは立ち上がり、アルスとルナの肩にそっと手を置いた。その手のひらは、温かく、確かな重みを持っていた。


「君たちはもう、誰かの指示を仰ぐだけの新人じゃない。世界中の作家の痛みを分かち合い、その才能を極限まで引き出すことのできる、最高の一流編集者だ。……これからの『世界少年ジャンプ』の舵取りは、君たち二人に完全に委ねる。それが、俺の最後の編集長としての仕事だ」


二人は絶句した。しかし、ツヨシの揺るぎない眼差しを受け止めると、やがて深く、深く息を吸い込み、その表情を引き締めた。


アルスは自身の編集者バッジを力強く握りしめ、ニヤリと笑った。

「……しかたねえな。あんたがそこまで言うなら、これからは俺たちがこの世界のトップランナーだ。あっと驚くような面白い企画を次々に出して、あんたをギャフンと言わせてやるよ」

「ええ……任せてちょうだい、ツヨシさん」ルナもまた、涙を拭い、気高い笑みを浮かべた。「私たちが創るこれからの物語は、あなたが教えてくれたどんな奇跡よりも、もっと素晴らしいものにしてみせるわ」


こうして、初代編集長ツヨシは、その重責を次世代の二人に引き継ぎ、正式に「編集長からの卒業」を果たした。


数日後。

編集長室のデスクには、新しい編集長となったアルスとルナが並んで座り、次々と持ち込まれる新人の原稿に真剣な赤入れを行っていた。その背中は、かつてツヨシが自分たちに見せてくれたあの頼もしい背中と、まったく同じだった。


その頃、ツヨシは街の片隅にある、小さくて静かな一軒家の庭にいた。

心地よい日光が差し込む緑豊かな庭で、彼は白いノートを開き、そこに自分のための、誰に見せるわけでもない「まったく新しい物語」のプロットを、ゆっくりと、愛おしそうに書き始めていた。


かつて六十歳の夏、すべてを見失って暗闇に落ちた男は、この異世界の空の下で、最高のエピローグではなく、最高のはじまりを迎えていた。


街の空を飛ぶ『世界少年ジャンプ』の魔法の光は、今日もどこかの誰かのページをめくり、永遠に終わらない冒険の続きを、鮮やかに照らし出し続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。