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第33話 だから先輩は──あたしと一緒になるべきなんです

「急に電話なんてどうしたの?」

「なんですかその言い方? 元カノは急に電話しちゃいけないんですか???」

「そうは言ってないだろ」


 被害妄想がひどいな。

 だが声色から察するに、例によって俺をからかって遊んでいるらしい。


「あ~あ。そろそろ先輩も咲月ちゃん不足だと思ったんですけどね~」

「いや祭り行ったの昨日だし──」

「そうだ! あたしうどん食べに行きたいです、温玉のやつ」


 ……だめだ、何も話を聞いていない。

 というか改めて考えると、三森とデートしたの昨日なんだよな。今日一日があまりに濃かったから、遥か昔のことみたいに思える。


「別に行ってもいいけど……今から会うとなると、結構遅くならないか?」

「あ、大丈夫です。あたし今、先輩の家の前にいるので」

「メリーさんかよ!」


 軽くホラーだ。

 気づいたら俺の背後にいるとかないよね……?



 急いで身支度を整えて外に出ると、三森は腕を組んで家の前に立っていた。あたし今、あなたの後ろにいるの──みたいなことにならなくてよかった。


「女の子をこんなにも待たせるなんて、先輩も随分偉くなったものですね♡」

「……急に押しかけられた割には頑張った方だろ」

「過程を評価してもらえるほど、世の中は甘くないんですよね~。残念ですけど」

「やかましいわ」


 三森は世の中の何を知っているんだよ。


 かくして俺たちは、徒歩で3分の場所にあるうどん屋さんへ。

 案内されたのは窓際のテーブル席。月曜日の夜なので店は割と空いている。俺たちはタブレットで注文を済ませ、うどんの到着を待った。


「そうだ先輩! これ見てくださ~い」

「なに?」

「じゃ~ん」


 そう言って、三森はテストをずらっとテーブルに並べる。

 どれも40~50点台。悲惨な結果だと思うけど、なんでこんなに得意げなの……?


「なんか言ってくださいよ~」

「なんかって……えぇ」


 何を言えばいいんだよ。

 次は頑張ろうね、くらいしか掛ける言葉がない。


「見事全教科で赤点回避したんですよ!」


 三森はふんっと鼻を鳴らす。

 どうやら本当に喜んでいるらしい


「それは……喜んでいいのか?」

「いいに決まってるじゃないですか! 最初のテストはあたし、国語以外赤点で補講地獄だったんですから」

「へ、へえ……」

「一週間前から勉強したかいがありましたよ。やっぱり世の中は結果が全てですからね。咲月ちゃんすごい!」

「まあ三森が満足してるなら……うん」


 ──相変わらず中身のない、なんてことない会話。だけどその空間が、今の俺には、なんだかすごく心地よかった。

 三森と話している時は、背伸びをせず、等身大でいられるような。そんな気がしたのだ。


「……先輩、なんか悩んでます?」


 気づけば三森は、怪訝な顔でこちらを見ている。


「いや、別に──」

「あ~。もしかしてプロポーズでもされました~?」

「ブフッ! な、なんでそれを」

「本当にされたんですか!?」


 三森は言葉通り、口をあんぐり開けて固まってしまった。

 カマかけただけかよ……。


「あのぉ……三森?」

「……先輩、結婚するんですね」

「しないって。そもそも高校生には早すぎるだろ」

「そうですか? 江戸時代なら適齢期ですよ」

「い、今は令和だし……」

 

 自分で言いながら、俺もわかっていた。単純に時期の問題ではない。

 この先も彼女たちの隣に居続けられる確証が、俺にはどうしても浮かんでいなかったのだ。


「あたし、恋愛って対等じゃなきゃダメだと思うんです」

「まあ……うん。そうだな」

「だから先輩は、あたしと結婚するべきなんです」


 眼鏡の奥の優しい瞳は、真っすぐに俺を捉えている。


「でもそれはまだ──」

「花守先輩のことも氷護先輩のことも、先輩は尊敬しすぎてます」

「たしかに尊敬はしてるけど……それなら俺は、三森のことだって」

「それは違います」


 三森はゆっくりと首を振った。


「あたしは先輩に見てもらうために、そうやって振舞っていただけですから。あたしにとっては、先輩こそが雲の上の人でした」

「三森……」

「先輩は何もしなくていいんです。そのままの先輩でいいんです。あたしこそが、先輩にぴったりの女の子なんです。だから先輩は──あたしと一緒になるべきなんです」


 それは今日の俺が受けた、3度目のプロポーズだった。

 けど……なぜかその時だけは、三森の隣に座る未来が、頭の中にぼんやりと浮かんでいた。軽口叩きながら並んでテレビを見るような、そんな光景が。


「──咲月ちゃん」

「あれ、花守先輩? それと……」

「花守教授!」


 俺が思わず立ち上がってしまった。

 だって陽菜の隣にいたのは、俺が最も尊敬する人物、花守陽介教授だったから。

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