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第31話 それでも待ってくれるなら、私は斗真と結婚するよ

 放課後。掃除が終わり、人がいなくなった教室で、俺は陽菜と2人で談笑していた。

 例の部長の件もあってか、ここ最近そっけなかったのが嘘みたいに、陽菜と普通に会話ができている。


「斗真はテストどうだった?」

「7位。いつも通りかな」


 帰りのHRで早くも返された定期テストの成績表。

 高いには高いが、最上位には程遠い。そんな相変わらずの、中途半端な立ち位置だ。


「陽菜は1位だよね」

「ええ、少し危なかったけどね。英語で8点も落としてしまったし……」


 とは言うけど。今回の英語は平均が41点で、俺も75点しか取れていない。9割を超えたのはたぶん陽菜だけだと思う。


「そういえば陽菜。何か話があるんじゃないの?」


 大事な話がありそうだったのに、陽菜は一向に本題に入る気配がない。


「えっと、その……あっ、斗真はさ。咲月ちゃんと花火観にいったの?」

「行ったよ。最後の日だったし」

「本当に別れたんだ」

「うん」


 とはいえ。別れる前よりもむしろ、俺は三森のことが気になり始めていた。最後に告げられた、彼女の本音と秘めた愛。仮に俺が、もう一度彼女と付き合いたいと願えば、たぶんそれは叶うのだろう。不誠実だとは思いつつ、その選択肢を俺は、捨てきれなかった。

 そして気になると言えば、陽菜のことも。


「陽菜は花火行ったの?」

「行ったよ。いとこのお兄ちゃんと」

「いとこ!?」

「うん。毎年夏は一緒にお祭り行くんだー」

「へ、へぇ」


 あの人、彼氏じゃなかったのか……たしかにすごい美形だったし。身内なら納得だ。

 そして──どこかホッとしている自分が、俺は憎い。三森のことも陽菜のことも、きっと俺は誰にも取られたくないのだ。俺は彼女たちに《《恋愛的な》》好意を抱いていて、それなのに、どちらかを選ぶ勇気もない。 

 あの部長の言葉を、今の俺は何も否定する資格がない。最低だ。


「斗真あのね」


 陽菜は少し視線を落としながら、重そうな口を開いた。


「どうしたの?」

「私ね──9月でこの学校、辞めるの」


 えっ。


「ど、どうして」

「秋からドイツの学校に編入するんだ。もう準備も進めてる」

「でもドイツって……」

「前から私、ドイツの大学目指してたんだよね。パパの恩師の先生もいるし、何より哲学の最先端だから。ずっとそこで勉強したかったの」

「そう……なんだ」

「そのために、今から海外の高校で勉強して、もっと語学力を付けたいんだ。そのまま大学にも進学するつもり」

「そっ、か」


 突然のことに理解が追いつかない。いや、脳が理解を拒んでいた。

 だってドイツの高校、そして大学に進むなら、少なくとも6年は海外にいるわけで。もしかしたら、陽菜とはもう会えないかもしれない。そんなの、嫌だ。


「……でもね。私わがままだから、大好きな人を諦めたくないんだ」


 陽菜は鞄からクリアファイルを取り出し、机に置いた。


「今の私の気持ちだよ、斗真」

「これって……こ、婚姻届!?」


 しかも陽菜の欄は既に記入済みで、承認欄の一つには、なんと花守教授の名前が入っている。俺が覚悟を決めれば、すぐにでも提出できる状態だ。


「本気なの?」

「前に指輪を買いに行った時も、私は本気だったよ?」

「け、けど……」

「もちろん斗真とは長く離れることになるし、その間ずっと待って欲しいなんて、強くは言えない。図々しいお願いだってわかってる。……でもね」


 陽菜の蒼い瞳は澄み渡り、強い覚悟を決めていた。


「それでも待ってくれるなら、私は斗真と結婚するよ」

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