第30話 認めなさいよ! 三股してましたって!!!
「ねえ、聞いた? 三森咲月の話」
「めっちゃ可愛い1年生だよね。何かあったの?」
「急に雰囲気変わったんだって。すごい地味になったらしい」
「あぁ、うちも今朝見たけど……あれは間違いなく失恋だね」
「えー、それは無いと思うけどなー。あの娘、男たらしで有名だし。そもそもあんな超絶美少女を振る男いないでしょ」
「いいや。ああいうタイプほど逆に、好きな男には一途だったりするからね。失恋を引きずってもおかしくないよ」
「ほんとにー?」
月曜日の昼休み。
三森イメチェンの噂は、早くも俺のクラスまで伝わっていた。しっかり尾ひれを付けながら。……失恋じゃなくて単なる契約満了なんだけど。
そんな話を聞きながら、俺は朝から机に突っ伏している。昨日は帰りが遅かったのに、姉貴にダル絡みされてほとんど寝られていない。陽菜は今日返されたテストを解き直しに図書室へ行ったみたいだけど、俺は眠すぎてそれどころじゃなかった。
「ぶ、部長!? どうしたんですか」
「笹原斗真いる?」
「笹原くんですか。教室にいると思いますけど……」」
「呼んで」
「え?」
「早く呼んできて」
「は、はい!」
なんか廊下が騒がしい。
……俺、探されてる?
「あのー、笹原くん」
渋々顔を上げると、不安そうに俺を見るイケメンがいた。
中山くん。顔はかっこいいのに、先日の一件から妙にヘタレキャラが染みついてしまっている。
「どうしたの?」
「うちの部長が笹原くんに話があるみたいで……今、時間ありますか?」
「ない」
ある訳がない。吹部の女子、しかもその部長なんて、絶対怖いに決まってるもん。俺はまだ命が惜しい。
「お願いしますよぉ。まじで部長怖いんですってぇ」
「俺だって怖いのは嫌だよ」
「そう言わずにぃ。そこをなんとかぁ──」
「笹原斗真!!!」
俺の名前を吐きながら、いかにも性格がきつそうな吊り目の女子がずんずんこちらに来ている。あれが部長……たしかに怖い。
「な、なんでしょう」
「三森咲月を振ったというのは本当?」
その女の問いに、教室中の目と耳すべてが俺に向く。最悪だ。
「い、いや振ってないですよ。たしかに昨日円満に別れはしましたけど」
「ふうん。じゃあ三森咲月と付き合っていたことは認めるのね」
「まあ……はい。そうですね」
「じゃあこれは何かしら」
彼女は勝ち誇ったように、俺の机にばらばらと写真を撒いた。──前に中山くんが下駄箱に仕込んでいたやつだ。
「三森咲月と交際してたのに、花守陽菜や氷護雪とも楽しくやってたみたいじゃない」
「それは……」
「認めなさいよ! 三股してましたって!!!」
耳に触る彼女の甲高い声が教室全体に響き渡る。少し遅れて周りもざわつき始めた。
「え。三森咲月の失恋相手って笹原斗真なの?」
「なんであの陰キャが……?」
「自分と真逆の人に惹かれる的なやつじゃね」
「そういえばさ。三森咲月ってこの間、2年の彼氏とグルになって1年生の男子を弄んだ話なかったっけ」
「あったあった。その彼氏が笹原斗真ってこと?」
「まじ。最悪じゃん」
光の速さで俺の悪評が広まっている。しかも濡れ衣なのに、一部は事実なので否定し難い……。
「──ちょっと話が違うんじゃないかしら、部長さん」
ざわついた教室がさっと鎮まる。
そして、彼女はこちらにゆっくりと歩み寄り、部長と向かい合った。
「陽菜……」
「あら。笹原斗真の浮気相手がどうしたの」
「……斗真には関わらないって約束よね」
「別に事実確認してるだけですけどー」
「そんな声を荒げて事実確認、ね。好きな人に振られた腹いせかしら」
「そ、それは関係ないでしょ」
陽菜が淡々と詰めながら、部長を圧倒している。
この部長、振られたのか。
「それに三股の話は嘘よ」
「けどここに証拠が──」
「私も氷護先輩も斗真とは付き合っていない、これが事実よ。斗真も咲月ちゃんも認めるはず。他人に非難される筋合いはないと思うのだけれど、どうかしら?」
「ぐっ……で、でも」
「今日は帰ったら? 授業に遅れるわよ」
「ちっ。お、覚えてなさいよ!!!」
悪役みたいな台詞を吐いて、部長は早足で教室を去っていった。
怖かったー。
「ごめんなさい。私の詰めが甘かったみたい」
「ううん。ありがとう陽菜」
状況が呑み込めていないけど、俺の知らないところで色々動いてくれたのだろう。
「……ねえ、斗真」
「何?」
「放課後、あなたに話したいことがあるの。いいかしら?」
「う、うん」
「ふふっ。ありがとう」
その陽菜の微笑みは、心なしか、少し寂しそうに見えた。




