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第28話 これがあたしの、性癖《愛》なんです

 次々打ちあがる花火に、夏の夜空がカラフルに彩られていく。

 三森はそれ以上何も言わず、静かに空を見上げながら、俺の手を優しく包み込んでいる。こんな時、いつもならドキドキして仕方ないのに。なぜだか今日は不思議なくらい、心が穏やかだった。


「奇麗ですね」

「あぁ」


 三森との短い会話も、次の瞬間には花火の音にかき消されている。永遠に続くとも思われる、そんな心地の良い空気感に、俺はただ、身を委ねていた。


 やがて花火は終わり、人々が再び駅へと動き出す。けれど俺と三森は互いに手を結んだまま、しばらくその場を動かなかった。


「……行きましょうか」

「だな」


 2人の間に再び時間が流れ出す。

 三森との最後のデートも、終わりが近づいていた。



 来た時と同じく人の流れができていたので、俺と三森はそれに乗って歩を進めた。

 手を繋いでいてもやはり心は平穏で。身体的な距離の近さにも、少しも違和感を覚えなかった。


「楽しかったかいお嬢さん」

「はい! とっても」

「よかったなー。来年もまた来てなー」

「絶対行きま~す」


 三森が交通整備のおじさんと軽く言葉を交わしている。人見知りの俺は会釈くらいしかできなかったけど。

 地下鉄への入り口も見えてきて、いよいよ終わりだと思うと、なんだか少し寂しい気持ちになる。


「……先輩」


 三森が俺の浴衣の袖をぐいっと引いた。


「どうした?」

「……もう少しだけ、一緒にいて欲しいです」

「う、うん」


 ひとまず人の流れから外れ、近くのベンチに腰を降ろす。


「2週間ありがとうございました」

「えっと、こちらこそ」

「……先輩がど~してもって言うなら、まだ付き合ってあげてもいいんですよ?」


 三森は身体を寄せ、俺の肩に頭を乗せる。


「けど、2週間の約束だろ?」

「先輩はその約束と引き換えに、あたしに何でも一つお願いを聞かせる権利を得ましたからね。先輩に命令されたら、あたしは嫌でも先輩のものになっちゃいます♡」

「楽しそうで何より」

「……な~んか他人事ですね」


 三森は不満げに呟きながら、俺の腰に腕を回し、身体を密着させる。なんだか安心感があって、俺も同じように、彼女の腰に腕を回した。


「だってさ。1年生で1番の美少女と俺が付き合ってるこの状況自体が、普通に考えてあり得ないだろ」

「え~。あたし以上に先輩の隣に相応しい女性もいませんよ~」

「そんなことはないだろ」

「そんなことあるんです! そのためにあたしは今日までいっぱい頑張ったんですから」

「そう、なのか」

「そうなんです! それに先輩には、あたしがいないと物足りなくなる呪いをかけています♡」

「……はぁ」


 相変わらず言っていることは無茶苦茶だ。知らぬ間になんか呪われてるし。

 でもそんなやり取りをどこか楽しんでいる自分もいた。


「後あたし、先輩に一つ嘘をついていました」

「嘘?」

「はい」


 三森はピョンっと立ち上がると、俺に背を向けたまま、顔だけをこちらに向けてニヤッと笑った。降ろした髪がさらさらと靡いている。


「あたしの性癖。覚えていますか」

NTR(寝取られ)だっけ」

「本当はそれ逆なんです」

「どういうこと?」

「あたし好きな人を格下の女にNTR(寝取られ)たいんじゃなくて……大好きな人を格上の女から、NTR(寝取り)たかったんです」


 えっと、それってつまり──


「それがあたしの、性癖()なんです」


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