第28話 これがあたしの、性癖《愛》なんです
次々打ちあがる花火に、夏の夜空がカラフルに彩られていく。
三森はそれ以上何も言わず、静かに空を見上げながら、俺の手を優しく包み込んでいる。こんな時、いつもならドキドキして仕方ないのに。なぜだか今日は不思議なくらい、心が穏やかだった。
「奇麗ですね」
「あぁ」
三森との短い会話も、次の瞬間には花火の音にかき消されている。永遠に続くとも思われる、そんな心地の良い空気感に、俺はただ、身を委ねていた。
やがて花火は終わり、人々が再び駅へと動き出す。けれど俺と三森は互いに手を結んだまま、しばらくその場を動かなかった。
「……行きましょうか」
「だな」
2人の間に再び時間が流れ出す。
三森との最後のデートも、終わりが近づいていた。
※
来た時と同じく人の流れができていたので、俺と三森はそれに乗って歩を進めた。
手を繋いでいてもやはり心は平穏で。身体的な距離の近さにも、少しも違和感を覚えなかった。
「楽しかったかいお嬢さん」
「はい! とっても」
「よかったなー。来年もまた来てなー」
「絶対行きま~す」
三森が交通整備のおじさんと軽く言葉を交わしている。人見知りの俺は会釈くらいしかできなかったけど。
地下鉄への入り口も見えてきて、いよいよ終わりだと思うと、なんだか少し寂しい気持ちになる。
「……先輩」
三森が俺の浴衣の袖をぐいっと引いた。
「どうした?」
「……もう少しだけ、一緒にいて欲しいです」
「う、うん」
ひとまず人の流れから外れ、近くのベンチに腰を降ろす。
「2週間ありがとうございました」
「えっと、こちらこそ」
「……先輩がど~してもって言うなら、まだ付き合ってあげてもいいんですよ?」
三森は身体を寄せ、俺の肩に頭を乗せる。
「けど、2週間の約束だろ?」
「先輩はその約束と引き換えに、あたしに何でも一つお願いを聞かせる権利を得ましたからね。先輩に命令されたら、あたしは嫌でも先輩のものになっちゃいます♡」
「楽しそうで何より」
「……な~んか他人事ですね」
三森は不満げに呟きながら、俺の腰に腕を回し、身体を密着させる。なんだか安心感があって、俺も同じように、彼女の腰に腕を回した。
「だってさ。1年生で1番の美少女と俺が付き合ってるこの状況自体が、普通に考えてあり得ないだろ」
「え~。あたし以上に先輩の隣に相応しい女性もいませんよ~」
「そんなことはないだろ」
「そんなことあるんです! そのためにあたしは今日までいっぱい頑張ったんですから」
「そう、なのか」
「そうなんです! それに先輩には、あたしがいないと物足りなくなる呪いをかけています♡」
「……はぁ」
相変わらず言っていることは無茶苦茶だ。知らぬ間になんか呪われてるし。
でもそんなやり取りをどこか楽しんでいる自分もいた。
「後あたし、先輩に一つ嘘をついていました」
「嘘?」
「はい」
三森はピョンっと立ち上がると、俺に背を向けたまま、顔だけをこちらに向けてニヤッと笑った。降ろした髪がさらさらと靡いている。
「あたしの性癖。覚えていますか」
「NTRだっけ」
「本当はそれ逆なんです」
「どういうこと?」
「あたし好きな人を格下の女にNTRたいんじゃなくて……大好きな人を格上の女から、NTRたかったんです」
えっと、それってつまり──
「それがあたしの、性癖なんです」




