第27話 先輩がくれた、第二ボタンです
「なんか……ごめん」
「も~! とーまくん、今日はずっと謝ってばかりじゃないですか~」
頬を膨らませながらも、その瞳は笑っていた。
つられて俺もつい笑ってしまう。
「この2週間、とーまくんは楽しかったですか♡」
「そうだな……」
出会いは全く持って最悪だった。ただ廊下を歩いていただけなのに、三森のせいで理不尽に桐谷くんの怒りを買い、胸ぐらを掴まれ殴られかけた。それ以外にも、三森には何度も何度も振り回されたし。
でも……新鮮だった。一緒に登校したり、放課後に勉強したり、休日にはデートをしたり。それは、俺が人生で経験したことのない毎日で。たしかに迷惑ではあったけど、総じて言えば。
「楽しかった、かな」
「なら良かったです。……あたしにとっては、夢のような時間でしたよ」
「そっか」
感傷に浸っているのか、三森は星空を眺めながら、らしくないことを口にする。
俺も何となく宙を見上げると、天高く、北斗七星が見えた。
「奇麗だな」
「ふふっ。あたしがですか?」
「星も三森も、どっちも」
「ぷっ! 臭い台詞を吐きますね~」
「うるさい。恥ずかしくなるからやめろ」
なんか急に現実に引き戻された気分。
だけど、暗がりに映る三森の横顔は、遠くの明かりに淡く照らされていて。
俺は心から、奇麗だと思った。
「……けど本当に、高嶺の花だと思っているよ」
三森だけじゃない。陽菜も、氷護先輩も。俺には決して届かない存在だ。
どんなに距離が近くなっても、やっぱり彼女たちは高嶺の花で、隣に立つことは絶対にできない。本当の特別な関係には、なれないのだ。
「……中学生の時、あたしには好きな人がいました」
三森が静かに語り出す。
浴衣の袖が、夜風にさらさらと揺れていた。
「でもその人は、あたしのことなんて眼中にもなくて。いつもあたしは図書室で彼を眺めているのに。彼が楽しそうに話すのは、あたしじゃないんです」
「図書室で……?」
「それでもあたしは、彼のことがどうしても好きで。どんな手を使ってでも──奪いたかった」
「……!? それってまさか」
「彼が卒業した後。あたしは本気で変わることを決意しました。彼と同じ高校で、今度こそ隣に立つために。勉強は苦手なので内申点を稼いで推薦狙い。ビジュを上げるために、眼鏡はやめてコンタクト。長かった前髪は後ろに持っていって、スキンケアとかナチュラルメイクも研究しました。それからコミュ力を磨くために、いろんな人に話しかけて、男子と2人で遊んだりもして……そうやって、今のあたしになったんです」
三森はお団子にした髪を解き、その一部を前に下ろした。そして巾着から取り出した丸渕の眼鏡を掛ける。
それは俺の知る三森とは違う、だけど確実に、俺が知っている少女──
「覚えていますか? 先輩がくれた、第二ボタンです」
三森はそれを両の手のひらに乗せた。
この2週間の記憶が、中学の想い出と、次々に接続されていく。
「三森……ど、どうして?」
「花火、始まりますよ」
屋台の方角から一発目の花火が上がり、遅れてドーンと音が鳴り響く。
──俺が思うよりずっと前から、俺と三森は。




