第25話 隣にいるのって……男?
日曜日の夕方。
俺は重たい足を引きずりながら、人混みを掻き分け、改札を出た。
……さすがに昨日は無理をしすぎた。4年ぶりのバドミントンで、怪我をしなかったのは幸いだけど、朝から全身がバキバキで、身体を少し動かすだけで激痛が走る。しかも慣れない下駄のせいで尚更歩きにくいし。おかげで普段は待ち合わせ15分前に到着する俺が、今日は3分前になってしまった。
「お~い、とーまく~ん」
──その馴染みの少女に、俺は目を奪われてしまった。
お土産屋さんの隣で大きく手を振る三森咲月は、白い花が散りばめられた水色の浴衣を身に纏っていて。いつものツインテールとは異なり、髪を上でお団子に纏めた姿は、とても奇麗で、美しくて……俺には、まるで別人のように映ったのだ。
「も~何してるんですか~? 愛しの彼女をこんなにも待たせて~」
頬を膨らませながらテテっと駆け寄る三森。
なぜか気恥ずかしくて、俺はつい目を逸らしてしまう。
「ねぇ、聞いてます?」
だがその逸らした視線の先に、三森の顔がにゅっと現れる。
だめだ、目を見れない。ドキドキする……。
「……あ、うん。聞いてる」
「あたしに何かないんですか?」
「な、何かって?」
「可愛いね♡ ……とか」
「可愛いね」
「ふ~ん。そんな適当な可愛いねで、あたしの機嫌が取れると思います?」
「えっと……ごめん」
「も~! ごめんじゃなくて可愛いね♡をくださいよ~!!!」
「ご、ごめん」
……今日の俺は、何かがおかしい。
※
「それにしても、人が多いですね~」
「だな。この辺だと一番大きい祭りだし」
祭りの会場である公園に移動するため、俺たちは地下鉄に乗り換えた。
車内には、家族連れやお揃いの浴衣を着た女子高生、大学生っぽいおしゃれなカップルなど、同じく祭りへ向かうのであろう人々が大半を占め、どこか非日常感がある。
そして今もなお、俺は三森の顔を真っすぐに見られなかった。
「とーまくんはお祭りで何が一番楽しみですか?」
「楽しみか。う~ん、なんだろ」
いろんな屋台が並ぶあの特別感ある雰囲気は好きだけど、具体的に何が楽しみかと言われると、パッとは浮かばない。
「三森は何が楽しみなの?」
「そ~ですね~。わたあめ、いちごあめ、りんごあめ……」
「あめ多いな」
「チョコバナナ、ホットドック、焼き鳥……」
「串多いな」
「焼きそば、お好み焼き、たこ焼き……」
「めっちゃ焼くじゃん……というか食べ物ばっかだな」
「逆に食べ物以外に何かあります?」
いやなんかあるだろ。祭りなんだから。
たとえば……あれ、なんかある?
「えっと、くじとかさ」
「はぁ」
わざとらしい溜め息。
でもその表情は、俺のよく知るいつもの三森で、少し肩の力が抜けた。
「なんだよ」
「あたし思うんですけど~。お祭りの満足度が運に左右されるってどうなんですか?」
「どうなんですかって……たしかに外れることはあるけど」
「そ~なんですよ。くじも射的もストラックアウトも外れるんです!」
「あー、うん」
「それならあたしは、不確実な幸せより、小さくても確実な幸せを掴みたいなって思います」
「なるほど?」
深そうではある。
でもたぶん、それっぽいこと言っただけで、実際はただ食べるのが好きなだけなんだろうな。
「あれ? あそこにいるの、花守先輩じゃないですか?」
「……ほんとだ」
車両の丁度反対側に、桃色の浴衣を着た奇麗な女性が立っていた。距離はあるけれど、あんな美少女はそう何人もいないから、花守陽菜で間違いない。
でも。
「隣にいるのって……男?」
「そう、だな」
その陽菜の隣には、俺の知らないイケメンがいて。
──互いに楽しそうに、笑い合っていた。




