第24話 ……弱いね……やっぱり……可愛い♡
つらい。
きつい。
苦しい。
「……17……5」
でも──楽しい。
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「おはよう……ご主人様」
「あ、んっと、おはようございます」
土曜日の朝。
テストも終わったし、久しぶりに昼までゴロゴロしようとしていたら、玄関のチャイムが鳴った。
父と母は早くに家を出たし、姉は昨日の飲み会からいまだに帰らないので、俺が行くしかない。急いでジャージに着替えてドアを開けると、同じくジャージ姿の氷護先輩が立っていたのだ。
「あの、どうしたんですか?」
「……私と……試合……しよ」
「はい?」
「……近くの体育館……空いてるから……バドミントン……しよ」
なぜ急に?
たしかにお互い今すぐ運動できそうな格好だけど。というか部活はどうしたんだろ。
「俺、4年くらいバドしてないですよ?」
運動と言えば、休日に外を走るくらいで、ラケットを握るのは本当に中学校以来。練習相手にもならないと思うけど。
「……大丈夫」
「何が?」
「……ちゃんと……準備運動すれば……大丈夫」
えぇ……。
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「……20……6……マッチポイント」
14点差。
技術云々以前に、体力がまったく追いつかない。前から奥、奥から前へと振り回され、死にそうなくらいに苦しい。でも──そのきつさが、懐かしくて心地よい。
「……」
氷護先輩がしなやかにラケットを振り上げる。バック奥へのロングサーブ。俺は重い足を必死に動かし、落下地点へ。
「はっ!」
そして俺も、相手のバック奥へクリアを返す。速く中央に戻らないと。
「……」
しまった。反応が遅れた。
フォア前に落とされた鋭いドロップ。だめだ届かない。
いや──届け。
「ぬおぉぉっっっ!!!」
膝を打ち付けながら、腕を限界まで伸ばし、ぎりぎりでシャトルの感触が手に伝わる。
「……」
だが、なんとかネットを超えたシャトルは、氷護先輩によって無慈悲にも大きく後ろに返される。
俺はもう、立ち上がる気力さえなかった。
「……21……6……ゲーム」
完敗。
そりゃそうだ。むしろ全国レベルの選手から6点も取れた俺が偉い。ほぼ氷護先輩のミスだけど。
「……ふふっ……最後足……動いたよね……甘え」
「はぁ……はぁ……無理ですって……はぁ……体力の……はぁ……はぁ……限界」
「……弱いね……やっぱり……可愛い♡」
「はぁ……可愛く……はぁ……はぁ……ないです」
「こういう……ご主人様も……悪くない」
氷護先輩はいつになく嬉しそう。満足はしてもらえたらしい。
けど俺は身体が固まってしまい、声もうまく出せない。
「……でも……私が追いかけてた……笹原斗真はもう……いないんだね」
「あの、ごめんなさい」
「……ううん……吹っ切れた。……今のご主人様には……大事な人が……たくさんいる。……だから……一番じゃなくていいから……これからもご主人様として……私を……罵って欲しい」
「いや罵りはちょっと──」
「それは……だーめ……♡」
コートに倒れた俺の顔に、氷護先輩は唇を近づける。その整った顔立ちは、滴る汗の輝きでさらに魅惑的に映る。
俺の身体はまったく動かず、回避する術はない。
「……フッ」
「──!」
「……ふふっ……なんてね♡」
だが氷護先輩は俺の耳にフッと息を吹きかけ、顔を離した。
「からかわないでください……」
「……叱ってくれても……いいんだよ?」
「困ります」
「……ふふっ……ははっ」
普段はあまり感情が表情に出ない氷護先輩が、珍しく口を大きく開けている。不本意だが、よほど嬉しいらしい。
「……じゃあ私……部活行くから……またね」
「あ、はい。頑張ってください」
そうして、氷護先輩は部活に向かった後も、俺はしばらく起き上がることができなかった。
明日絶対筋肉痛だよ……祭り行けるかな。




