第23話 一途も一途! めっっっちゃ一途ですよ!!!
バスを降りて3分ほど歩くと、広い駐車場に面した着物屋さんに到着した。店内はたくさんの美しい着物たちに彩られており、その鮮やかさに、俺はつい目を奪われてしまう。
「男物の浴衣は2階ですね~。奥にエスカレーターがあるので、そこから上がりましょ」
「詳しいな」
「よく来るんですよ~。あたし、小さい時からお着物とか大好きだったので」
「へぇ。知らなかった」
少し意外だ。
前に三森とデートした時はフリル付きのワンピースだったし、そういうTHE・KAWAIIな服が好きなんだと思ってた。
「逆にとーまくんはお着物とか着ることないんですか?」
「俺は七五三で来たのが最後かなぁ。浴衣で祭り行ったこともないし」
「お~。じゃあ今回の浴衣デートはなかなかにレアですね」
「まあ、そうだな」
「──あっ、ここです」
エスカレーターで2階に上ると、1階の雰囲気とはうって変わり、渋い色合いの男性用の着物がずらりと並べられていた。
「まずは浴衣と~、それに合わせる帯を選んで~。次に腰紐とか履物を決めましょうかね~」
と、言われましても。
何をどう選んでいいのかさっぱりわからない。大量の浴衣を前にして、完全に思考が停止してしまった。
「さてはとーまくん『俺、浴衣とか選んだことないからわかんないよー』……とか思ってますね?」
「口調に悪意しか感じないけど……まあ、概ねその通りです」
普段着でさえ、俺はユニ〇ロでしか買ったことないのに。いきなり浴衣を選べと言われても、決められるわけがない。
「ふっふ~ん。そんなとーまくんに朗報です」
「朗報?」
「このメンズ浴衣セットを買えば、初心者のとーまくんでも必要なものを一式揃られますよ」
「おぉ」
そんな便利なものが……! それはたしかに朗報すぎる。
比較的デザインはシンプルだが、その辺特に拘りはないし、何より値段がリーズナブルなのがとてもありがたい。
「残念ながらセット物は試着できないみたいですけど……ま、とーまくんならなんでも似合いますよね」
「……それ、本当に言う相手合ってる?」
言いたかないが、俺の顔面は贔屓目に見ても中の上だ。三森や陽菜や氷護先輩のように、何をしても美しく映る素敵な容姿は持ち合わせていない。
「まあたしかに、イケメンではないですけど~。あたしはとーまくんの顔、好きですよ? 誠実さが顔に出ていて」
「女たらしのヤリ〇ン男なのに?」
「またまた~。とーまくんは童貞じゃないですか〜」
「ぬぐっ」
紛れもない事実だが、はっきり言われるとなんか嫌だな。そもそもキス以上の関係は高校生にはまだ早(以下略
「見てくださいとーまくん! きれ~い」
気づけば三森は、成人式向けの特別展示の前で目を輝かせていた。
黄色を基調とした、夏らしい明るい雰囲気の振袖だ。
「やっぱりいいですよね~、振袖って」
「三森は着たことあるの?」
「ありますよ~、中学の卒業式で。お母さんのお下がりでしたけどね」
「へぇ」
中学で振袖は珍しいな。
俺の時は数人しかいなかった気がする。
「いや~、あの時はモテすぎて困りましたよ~。 式が終わった後もひっきりなしに告白されて、なかなか帰れなかったんですよね~」
「だろうな」
それは容易に想像がつく。陽菜も卒業式の時、顔も知らない後輩にまで告白されてたもの。ある意味で美少女の宿命なのだろう。
ちなみに俺は、卒アルに寄せ書きする友だちさえほぼいなかったので、速やかに帰宅することができた。嬉しいなー。
「けど誰とも付き合わなかったんだよな?」
「……好きな人がいたので。あたしに、第二ボタンをくれた人が」
「へぇ」
「彼の横に立つために、あたしは中学で変わったんです」
「そうなのか……」
三森にここまで言わせるとは、どれほどの男なんだろう。
よほど顔が良いのか、あるいはめちゃくちゃ器がでかいのか
「三森ってもしかして、意外と一途?」
「一途も一途! めっっっちゃ一途ですよ!!!」
……やはり信じ難い。NTRを愛する人間だし。
けど、俺も人のことばかり言えないよな。三森との交際が終わったら、俺も決めなきゃいけないんだから。
──誰かを選ぶのか。あるいは誰も選ばないのか。
「明後日のデート、楽しみにしてますね♡」
そう言って、三森は甘えるような微笑みを、俺に浮かべていた。




