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第12話 今日のあたし、可愛かったですか?

「次はどこに行きます?」

「えっと、予定だとパンケーキが美味しいカフェに──」

「あ! あたしお洋服見に行きたいです」

「……デートプランは考えてもらいたいんじゃ」

「女の子は気まぐれなんです♡」

 

 その気まぐれとやらに付き合うのも彼氏の務めらしい。なんだかなぁ。

 そんなわけで、俺たちは駅の方に戻り、若い女性向けの服屋へ。当然だけど、店員も客も女の人ばかりでとても居心地が悪い。三森も俺に構わず服を選んでるし……俺、外で待ってても良いかな。


「大丈夫ですか? 顔が死んでますけど」

「え? あ、うん」

「もしかしてこういう店入るの苦手でした?」

「……女性服の店に入るのが得意だったら逆に怖いだろ」

「それもそうですね~。ところでこれとこれ、どっちが似合うと思います?」


 三森の手には2つのワンピース。右は無地の白いシンプルなワンピースで、まさに清楚系って感じ。左のライトグリーンのワンピースは、オフショルダーで少し攻めた感じだ。

 どちらが好みかと問われれば間違いなく前者。比較的幼い雰囲気の三森だけど、顔だけは本当に整っているので、シンプルに大人っぽい服も絶対に映えると思う。……それと肩出しのワンピースを着た三森の隣を、平常心で歩ける自信がない。


「俺はこっちが好きかな」

「ま、でしょうね~。とーまくんはむっつりスケベのくせにヘタレですから、肩出しは選べませんよね~」

「はい?」

「でも私は緑が好きなのでこれにします」


 ……なら聞くなよ。



 無事、俺が選ばなかったオフショルのワンピースを購入した三森。ちなみに試着もしていたけれど、肩出しの刺激が強すぎてまともに見られていない。そのせいで三森にまたこれでもかと馬鹿にされ……仕方ないじゃん、童貞だもん。

 カフェに行くには時間が遅くなり過ぎたので、そのままディナーへと向かう。電車で2駅ほど移動し、そこから15分ほど歩いて飲食店街へ。そこに並び建つビルの一角に入り、エレベーターで8階まで上がると、『Water Garden』という目的のレストランに到着した。


「良さそうなお店ですね。とーまくん、ナイスチョイスです」

「それはどうも」


 相変わらず目線が上からなのが気になるけど、高評価なのは良かった。

 カップルと夏の虫は光る物が好きなので、夜景が奇麗でかつ高校生が許容できる価格帯に絞ったところ、このレストランに辿り着いたのだ。けどここ、電話でしか予約できなくて……めちゃくちゃ緊張した。噛みすぎて3回は聞き返されたし。


「けどできれば、店の雰囲気くらいは事前に知りたかったですね~」

「そうなのか?」

「そうですよ~。そしたらもう少し大人っぽい服で来たのに」


 ……そこまでは考えてなかった、というか店に合わせて服を選ぶという発想がなかった。

 でもたしかに、フリルの付いたピンクのワンピースに大人っぽさはない。ただそれを言ってしまえば、中学生感しかない普段着で歩いてる俺は、とっととお家に帰った方が良い気がする。


「でも三森の今日の服、可愛いくて俺は好きだけどな」

「──!? ふ、ふーーーん。とーまくんもそういう気の利いたことが言えたんですね~」

「……なんかいつもは気が利かないみたいな言い方だな」


 否定はできないけど。

 

「とりあえず入りましょ。エスコートよろです♡」

「うい」


 三森に促され、俺は重たい扉を押す。

 中には落ち着いたクラシックのBGMが流れていた。


「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか」

「は、はい! 予約していた()()()()()()()()


 あ。噛んだ。


「笹原様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします」

「……ちょっと見直したのに、台無しじゃないですか」


 やめてくれ。俺に女性のエスコートなんて100年早かったんだ。

 己の不甲斐なさに消沈したまま、窓に面した4人掛けのテーブルに案内される。外に目を向けると、ちょうど街の明かりがキラキラと一帯に輝いており、遠くには海も見えた。

 が。三森は外には目もくれず、さっそくメニューをペラペラとめくっている。カップルは光る物が好きだと思っていたけど、彼女の場合は花より団子らしい。


「あたしは生ハムのサラダにします」

「決めるの早いな。というかサラダだけ?」

「ダイエット中なんですよ~」


 そのスタイルでダイエットするんだ。いつもダイエット宣言しては3日で挫折している姉貴が聞いたら発狂しそう。


「とーまくんは?」

「俺は……カルボナーラで」

「注文よろです♡」

「うい」


 手を挙げて店員さんを呼び、長いメニュー名を噛まないよう気を付けて読み上げる。なんとか無事に注文できたので、ふぅと水を一杯飲んだ。


「いろいろツッコミどころはありましたけど、とーまくんが頑張ってくれたので今日のデートは100点です♡ ありがとうございました」

「……それはどうも」


 素直にお礼を言われるとちょっと照れくさい。いや、素直ではないか。しれっと採点されてるし。


「あの、とーまくんってどんな女の子と付き合いたいですか?」

「えっ? 急にどうした?」


 なぜ交際相手とコイバナをしようとしているのか。この問いに「君みたいな素敵な女の子だよ☆」以外の返答あり得る?


「とーまくんの本音が知りたいな~って。あ、別に試してるとかじゃないですよ?」

「はぁ」

「で、どんな人ですか?」

「うーん……尊敬できる人、とか」

「具体的には?」

「勉強できるとか。他人に優しいとか。向上心があるとか──」

「花守先輩のことですね」


 俺の言葉を遮って三森は言った。


「……なんでそう思う?」

「いや、誰が見たってわかるでしょ。両想いだって」

「そ、そっか」


 三森の言う通り、この質問で真っ先に浮かんだのは花守陽菜だった。

 出会ったその瞬間から、俺は陽菜を心から尊敬していて。近いけど、遠くて、絶対に届かない存在。それがわかっていたからこそ、すぐに俺は彼女への想いに蓋をし、()()()()()()関わってきた。だからこそ今、俺は陽菜の好意に対して、どう振舞うべきかわかりかねているのだ。


「……でも、とーまくんに花守先輩は合わないと思います」

「えっ?」

「とーまくんは前にいる人じゃなくて、横にいてくれる人じゃないとだめなんです」

「それって──」

「お待たせいたしました」


 カルボナーラと生ハムサラダがテーブルに運ばれてきた。

 うわぁ、高級感すごいな。大きなお皿の中心に、カルボナーラが小さく盛り付けられている。サラダも同じで、皿のサイズと比較して量が少なく見える。……高級感とは、大は小を兼ねることなのかもしれない。


「カルボナーラにブラックペッパーをおかけしますか?」

「は、はい。お願いします」


 聞かれたのでとりあえず頼んでみる。えっと、ブラックペッパーって胡椒のことだよね?


「ではかけていきますので、途中でストップとお申し付けください」


 と、言われてましても。適量がさっぱりわかりません。店員さんが丁度美味しいと思うところでストップして欲しいのですが……。

 案の定、ストップのタイミングが遅れて胡椒まみれのカルボになってしまった。でもめっちゃうまい! ファミレスで食べるカルボとは味の奥行きが違う気がする。大満足です。


「ねぇ、とーまくん」

「ん?」


 三森は小首を傾げ、悪戯っぽく微笑んでいる。

 そして俺に囁くように尋ねた。

 

「──今日のあたし、可愛かったですか?」


 否定する材料はなかったけれど、肯定するのも少し癪だったので。

 俺はただ、不満げに小さく頷いた。

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