第10話 お付き合いするなら結婚の覚悟を持ちましょうよ!!!
……桐谷くんと佐藤さんに事情を説明するため、俺たちは近所のファミレスに移動した。
金曜日の放課後ということで、店には多くの学生が訪れており、同じ制服もちらほらと。つまり、我が校のトップ美少女が並ぶこのテーブルは、必然的に周囲の注目を集めてしまうわけで。
「(なぁ、あれ氷護雪だよな)」
「(三森咲月と花守陽菜も……三大美少女勢揃いじゃん)」
「(なんの集まりなんだろ)」
「(アイドル結成とかじゃね!)
「(アイドル? なんで)」
「(だってほら。なんかイケメンもいるし)」
「(根拠薄いな。それにぱっとしない男もいるじゃん)」
「(きっとプロデューサーだよ)」
「(そうかなぁ)」
……俺Pだったのかよ。この癖が強すぎる美少女たちを、立派なアイドルにプロデュースできる自信がないのだが。
「それで結局、笹原さんは三森さんと付き合ってるんですか?」
正面に座る桐谷くんが、厳しい表情で俺に尋ねた。
ちなみに席は通路側から、陽菜、三森、俺。そして向かいには氷護先輩、佐藤さん、桐谷くんという順だ。つまり壁際の俺に逃げ場はない。
「まあ……はい。一応」
「がっつり付き合ってますよ~♡」
三森が甘えた声で俺に抱きついた。が、すぐに怒りの陽菜が引き剝がす。
……胸、柔らかかったな。
「では、花守さんとはどういう関係なんですか?」
声も表情も、先ほどより明らかにイラついている。テーブルを挟んでいなければ確実に殴られていただろう。
「どういうって、普通に友だ──」
「普通に浮気相手ですね、はい」
「なんですって!」
「やっぱり……!」
「まあまあ。2人とも落ち着いて」
興奮する陽菜と桐谷くんを、佐藤さんがなんとか宥める。さっきから三森のムーブは俺を陥れるものばかり。これはあれだ。仲間の顔をした敵、フレネミーに違いない。
そしてメロンソーダを無表情でチューチュー吸っている氷護先輩は、何を考えているのかさっぱりわからない。
「笹原斗真……2人も彼女いるんだ……良いね」
フッと氷森先輩が笑う。いやなにも良くないですよ?
「──コホンッ。じゃ、じゃあ雪先輩とは?」
「えぇっと、氷森先輩のことはまじで知ら──」
「私の……運命の……ご主人様……」
「何を言ってるんですか!」
運命も主人もまったく身に覚えがない。なんで誰も助けてくれないの……。
「つまり笹原さんは、3人もの女性に思わせぶりな態度を取っているわけですね?」
桐谷くんの身体がわなわなと震えてる。
違うの。思わせぶってないのにめっちゃ絡んでくるんだって。
「あの~桐谷さん?でしたっけ。ちょ~っといいですか?」
「なんですか、三森さん」
唐突に三森が口を挟んだ。
なんで自分に告白した人の名前をうろ覚えなんだよ。記憶してやれよ。
「たしかにとーまくんは最低です」
はい?
「こ~んなに可愛い彼女がいるのに、平気で浮気するし、都合の良いセ○レまで作るクソ童貞です」
ちょちょちょっ!!! 言いすぎだって。もはやこいつが一番敵じゃん……というか最後の矛盾がひどくないか? セ○レがいるなら童貞じゃないだろ。
「ならやっぱり──」
「でもこれ、とーまくんとあたしの問題です。外野は黙っていてもらえますか?」
「なっ……!?」
おお、ついに言った……!
問題が拗れている原因の9割は三森だけど。
「……わかりました」
「う、うん」
「でもこれだけは言わせてください。笹原さん」
すると桐谷くんはドーンと立ち上がる。
そして周囲の注目も集めながら、彼は俺に訴えた
「お付き合いするなら結婚の覚悟を持ちましょうよ!!!」
「け、結婚⁉」
「はい。男なら、一人の女性にすべてを捧げるのが当然でしょう? あらゆる時間を彼女のためだけに使う。他の女性に触れない、話さない、距離を取る。自らの生涯をパートナーの幸せに尽くす。そうあるべきですよ!!!」
「は、はぁ」
純愛至上主義とでも言おうか。どうやら結婚前提の交際しか認めないのが、彼の流儀らしい。たぶんこれ、ずっと彼女作れないタイプだ。
「とりあえず座ろうか、桐谷」
佐藤さんに優しく促され、桐谷くんは腰を下ろした。
「……桐谷のそういうとこ、私は好きだけどな」
皆があっけにとられて沈黙に包まれる中、そう呟いた佐藤さんは、イチゴソーダをズズッっと吸った。
「ま、明日からテスト前で部活休みだし。笹原くんも、ゆっくり入部のこと考えてくれたら嬉しいな」
「あ、はい」
「桐谷はそれでいい?」
「はい……みなさん、お騒がせしました」
興奮したことを反省しているのか、桐谷くんは申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。それに続いて頭を下げる佐藤さん。姉と弟みたいでちょっと微笑ましい。
……桐谷くんは人のこという前に、まず身近な好意に気付くべきだと思う。