3.この三角関係、悪くありませんわ
私は彼の上から物言いに引っ掛かりを覚える。
なに全て終わった風を装っているのだ。
私としては婚約者を支える者としての当然の行い——ではあったものの、それはそれ。
彼らを縛り続けていたしがらみからは解放されたとしても、私の抱えていた不満が解消されたわけではない。
「お兄様。全てお姉様からお話は聞きましたが、ほったらかしにしていたのは良くないと思います」
「——は? はっ。ほったらかし……?」
「そうです。私ばかりにかまけててお姉様を不安にさせるなんて……」
「だ、だって仕方ないだろう。学園内でしかリシェルと話をする機会が無かったんだ……」
あらあら?
思い当たる節がおありのようで、バツの悪そうな回答ですね。
それにリシェルからの追求にはどこか及び腰になっているようだ。
「まあ、酷いですわ! それならそれで私に一言教えてくれておいても良かったのに……! あろうことかアルノート様は全ての原因をリシェルのせいにするなんて!」
「ち、違うっ! そんなつもりは……」
「——そんなっ……! お兄様は……酷いっ!」
リシェルからの鋭い一撃にはアルノートも狼狽えることしか出来なかった。
彼女は咄嗟に、私の中に飛び込むようにして泣きつき始める。
一瞬だけ——てへっ、と私のみに小悪魔的な笑みを見せるリシェルは何とも形容し難いくらい可愛らしい。
観衆に晒された中での名演技と呼ぶべきか。
そして私は王太子を言葉責めにする婚約者として、学内にはまた新たな噂が広がっていくのであった。
あれから何日間か経過した。
学外での接触は派閥争いの標的になりかねないため極力避けていた二人も、今はそのような心配も無用となり一緒に過ごす機会も増えていた。
だけど今、リシェルはお兄様よりもお姉様にご執心みたい。
「——お姉様ぁ〜、お姉様ぁ〜!」
「あんまり引っ付くと歩きにくいでしょうに——」
「良いんですの。これが一番お姉様をそばに感じられるのですから」
いつもピッタリと引っ付き仲睦まじい姿を周囲に見せつけた。
どこかからか見ているであろうアルノートからの視線が痛い。
私にリシェルを奪われたみたいに感じているのでしょうが——だけど、これも私が仕掛けた罰だ。
実を言うと、私は以前からアルノート様に好意を抱いていた。
だから今回の婚約の話が実現した時は、本当に天にも昇る気持ちになるくらい嬉しかったの。
だけど——
リシェルには悪いけど、私は貴女に妬いていた。
アルノート様に浮気相手がいるなんて噂を聞いた時には本当に卒倒ものだった。
負の衝動に駆られそうになった時もあったわ。
でもそれからあなた方の関係及び事実を知ってからも、少しだけ私への配慮が足りない鈍感さはあったけれど。
献身的にリシェルに尽くす彼の姿を見て——“羨ましい”ってそう思ったわ。
いずれはリシェルに対して向けられる感情以上のものを私にも——
今はまだ命じられるがままの、形だけの婚約関係に過ぎないのかもしれない。
それでもいつかは私も、彼に愛していただけるように。
私は磁石のように引っ付くリシェルの頭を撫でつつ、ゆっくりと歩みを進める。
だけど今はまだ、終わらせてしまうのは惜しいと思うの。
せっかく可愛い妹まで手にいれたのだから。
今はこの擬似的な三角関係をもう少し楽しんでからでも、遅くはないでしょう。
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