7.カート
貴族の子供とはこんな低俗なのか。
ジェイミーの持ち物は頻繁に捨てられたり汚されたりした。誰がやったのか見当はついているのだが証拠はなく文句を言う事も出来ない。
カート王子は気が付けば注意をするのだが意地悪は狡猾に行われるのであまり役にたっていない。カートに夢中になっている女の子が何人かいてカートがジェイミーに優しくする度に意地悪は増えていく。だからカートにも話しかけないでくれと頼んだ。貝になるのは得意だから気にしないでと。
空気の様に知らん顔をして無視していた癖にある日女の子にしては低い声の令嬢が話しかけてきた。
「あの子の汚れた教科書が翌日には新品になっているのは何故ですの?カート様が用意なさっていますの?」
「僕ではありません。何度も教科書を申請するので見かねた教師が大量に発注したと思われます。」
聞こえていた令嬢達がビクッと肩を振るわせたがその令嬢は薄ら眉毛を動かしただけで更に聞いてきた。
「では鞄や制服なども教師が新品と取り替えていますの?見たところノートやペンなども新しいようですわね。」
実際はカートが見ていて兄王子に報告をすると制服から持ち物に至るまで新しくなる仕組みなのだが言う必要はないだろう。
「さあ?教師か学園長に聞いてみてはいかがです?教科書などは学園長室に予備があると聞きました。ところで犯人は知っていますか?先日第三王子様に聞かれたのです。」
「何をでしょう?」
令嬢は少し怯んだ様子を見せた。
「王子のクラスの令嬢が妹達がジェイミーに悪戯をしていると話していたのを聞いたそうでそれは誰なのかを調べているそうです。」
「・・・私は知りませんがもし見つけたらくだらない事はやめるように話しておきますわ。」
この日から持ち物が無くなるのはピタリと止んだ。
だがお嬢様は次の手を考えてきたようでジェイミーが誰かの愛人の子だとか犯罪者の子だとか街で頻繁に起こっている盗みはジェイミーの仕業だとかの噂が流れた。
ジェイミーは大きな溜息を漏らした。
教室ではいつも独りぼっちのジェイミーだが最後まで教室に居なければならない。
「よ、ジェイミー。帰ろうぜ。今日は母さんも馬車に乗ってるんだ。」
「どうして?お買い物でもするの?」
王都から離れた街に住んでいたジェイミーは寮を嫌がった為に現在は陛下の愛人であるカートの母親の住む離宮で暮らしている。
もちろんカートも一緒だ。
離宮とは名ばかりで平民が住むにはちょっと贅沢なくらいの家だった。
「何か美味しいものを食べようって言っていたよ。母さん最近占いに凝っているからカードとか買いたいんじゃないかな。」
「水晶が欲しいって仰ってた。」
「えーー、まあ王家から貰ったお金だしな。俺はいつか王家から出て、もう出されてるみたいなもんだけど、国を出るんだ。」
「嫌いだから?」
「王家の金で生きていきたくないんだ。母さんも働きたいんだけど許してもらえないから。母さんは今も陛下に呼ばれてる。愛人の役目なんてもうしなくてもいいのに。」
カートのお母さんはとても綺麗な方だ。
カートの黄色っぽい金髪ではなく輝くような淡い金色をしていてグリーンの瞳がとても美しい。
子供がいるようには見えないくらい若々しいので陛下に一番気に入られていると聞いた。
「私の新しい噂話で陛下の幼い愛人ってのがあるの。だから今日大きいクラスの男の子に下の毛もピンクなのか聞かれた。六歳に聞くなんて馬鹿なのかな。いつ生えるんだろう。母さんは髪と同じ色だったよ。」
「俺の母さんも金色だったよ。ジェイミーがピンクかどうか俺にも見せてね。」
「うん。カートのも黄色なのか見せてね。」
幼い二人は少々変わった約束をしながら母親の待つ馬車へ向かった。
誰も居なくなってからでないとジェイミーは帰れないのだ。
人気者のカートと同じ家に住んでいるなんて知られたらどんな噂が撒き散らされるのか。
(今日も女の子からプレゼントを貰ったはず)
そのプレゼントはカートの鞄の奥底でぺしゃんこになりくしゃくしゃの答案用紙と共に数ヶ月後に母親の手で発見されるのだった。