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4.王宮

ダニー・トラックスは王宮から呼び出しがかかっている事に頭を痛めていた。

あくまで彼の持論であり偏見だが貴族や王族と関わってもいい事などひとつもない。

双子の兄のライナス・トラックスは同じ顔でも性格が違う。彼なら上手くやるだろう。


「ライナス、僕はやっぱり行きたくないよ。よくない予感がするんだ。」

「ダニーは相変わらず心配性だなぁ。いいよ、おちびちゃんを迎えに行ってそのまま王宮に行ってくるよ。お前は何かあるといけないから外に出なくていいぞ。」

「ジェイミーくらい迎えに行くよ。」

「いいよ、通り道だし。約束していた渡す物もあるしな。じゃあな、行ってくるよ。」


ジェイミーはいつもならニーナかラスティと帰ってくるのだが上級生の二人は今日学年集会がある為遅くなる。

だから父が迎えに行くはずだったのだ。



叔父のライナスは父親とそっくりだが性格は全く違う。

飄々として常に面白いものを探しているような好奇心に満ちた目をしている。


「よっ、ジェイミー。久しぶりだな。お前の父さんの代わりに迎えにきたぞ。このまま王宮へ行こう。ほら、お前が欲しがっていた新しい釘を沢山持って来てやったから。これはお前用の軽くて使いやすいトンカチだ。もう指を打ち付けるなよ。」

「わぁ、嬉しい。ありがとう叔父さん。あのね、木箱の巣を作るの。」

「そうか、鳥の巣か?木は誰かに切ってもらえよ。お前の柔らかい皮膚に棘が刺さるといけないからな。」

「大丈夫よ。父さんが分厚い手袋をくれたし小さなノコギリも作ってくれたの。」

「ふはっ、小さな道具はあいつのお得意だからなぁ。お前もラスティも何でも工夫して作るのはトラックスの血が流れている証拠だな。」



お喋りしながらゆっくり歩いていたのだが途中で王宮へ向かう荷馬車を見つけて乗せてもらう事が出来た。

この国に自動車が来るのはまだまだ先になりそうだなと叔父さんは呟くと溜息を吐いた。


「俺は陛下に会ってくるからな。お前はあの侍女が面倒を見てくれるそうだ。その服じゃ中に入らない方がいいから裏庭にいてくれ。いいな、知らない人だらけだがついていくなよ。足に根を生やして裏庭にいろ。」

「了解です、叔父さん。」


ジェイミーは今日もラスティのお下がりのクリーム色のシャツと濃いグリーンのズボンを身につけている。

色合いが水仙の花みたいだとラスティは笑ったがジェイミーは気にしない。前に緑のシャツに白っぽいズボンを着た時に大根かよと笑われたから組み合わせには気をつけているのだ。


侍女の若いお姉さんはジェイミーと手を繋ぐと裏庭に連れて行ってくれた。


「ジェイミーっていうのね。私はアイビーよ。座ってクッキーを食べましょうよ。裏庭なんて今日は誰もこないから。」


アイビーは侍女の制服の襟のボタンをひとつ外して首を緩めた。


「この制服首がきついのよ。修道女みたいじゃない?きっと何百年も変わってないんだわ。侍女の制服なんてどうでもいいんでしょうね。」


ジェイミーが明るく笑うとアイビーは嬉しそうにクッキーをわけてくれた。


「ピンクの髪は染めているの?」

「ううん、トラックス家にはたまにピンクの髪の子が産まれてくるの。おばあちゃんのおばあちゃんがピンクだったって。」

「ふぅん。ジェイミーが男の子の服を着ている理由が何となくわかるわ。髪のせいで意地悪な女子に虐められる?」


ジェイミーは目を丸くしてアイビーを見た。


「どうしてわかるの?」

「私の赤毛も同じだからよ。赤くなくない?オレンジに近いわよね。むしろ赤茶じゃないかしら。意地悪な女なんて何処にでも生息するのよ。学校を出ても職場にもいるわ。意地悪女はばあさんになって棺桶に入っても意地悪なままよ。」

「病気は治らないのね。母さんが意地悪は病気だって言ってたの。」

「それよ!馬鹿と性格の悪さにつける薬はないのよ。ね、三つ編み解いてもいい?あとでまた編んであげるから。」


ジェイミーは頷いた。

解かれた三つ編みは綺麗なウェーブがついていてアイビーはきゃあと言いながら抱きしめた。


「可愛いーー!服を変えたいわー。こんな事何万回も言われたでしょ?」

「意地悪と同じくらいは聞いたと思う。」


その時背後から話し声が聞こえて来た。


「あー!ピンクちゃんだ。どうしたの?王宮になんて。」


振り向くとお祭りで会った身なりの良い四人の少年のうちの二人が立っていた。なぜ覚えていたかというと割と特徴的だったからだ。

アイビーは咄嗟に立ち上がり頭を下げている。

ジェイミーもそれを見て頭を下げた。


「顔をあげていいよ。ピンクの髪はカツラじゃなくて染めているの?」

「その服まさか実は男とか?」

「あの、この前はありがとうございました。この髪は地毛です。男の子ではありません。」

「へえ、珍しいね。異国の血が混じってるのかな。」


多分混じっているのだろうがジェイミーには良くわからない。


「母上が見たら速攻でドレスを着せるな。」

「間違いない。一時間後には茶会の席に座らされているだろう。しかも膝に乗せられてな。」

「下手すればリボンだらけだぞ。」


ジェイミーが何故ここにいるのかを話そうとしたが上手く話せずにアイビーが説明をしてくれた。


「トラックス家か、有名だよね。陛下が貴族籍を与えたがっているけれどなかなか首を縦に振らないって聞いたよ。トラックス一族の女性を妻に迎えようとしたけれど唯一の女性は他国へ嫁いでしまったそうだ。」

「君は王子様と結婚したい?」

「わかりません。まだ六歳だから。」

「え?六歳なの・・・小さいから四歳くらいだと思ったよ。」


失礼な人だ。それを言うなら少年達も裕福には見えても王子様には見えない。

アイビーがそっと教えてくれなければ失礼な事を言ってしまうところだった。


「あ、お迎えじゃない?俺たちも行かなきゃ。またね、ピンクちゃん。きっとまた会うよ。」


軽薄そうな少年はジェイミーにウインクを投げて去って行った。自分こそ女の子のような顔をして背も低いくせにとジェイミーは思う。

もうひとりは背は高いが垂れ目で下唇が厚くなんとなくアヒルに似ている。真ん中でぱっくり分けた髪を何回もかきあげる仕草が気に障る。



「ジェイミー、楽しかったわ。先程のお二方は第三王子と第四王子よ。たしか十二じゃなかったかしら。他にも大勢いらっしゃるから覚えきれないわ。さ、三つ編みにしておいたわよ。また来る事があったら私を指名してね。」


ジェイミーがぎゅっと抱きつくとアイビーは頬にキスをしてくれた。

もう二度と王宮に来る事もないだろうし王子に会う事もないだろうと思ったのだがーー。


一週間が過ぎた時ジェイミーは貴族の通う王立の学園の制服を着せられ門前に立たされていた。

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