31.あれ、気付いちゃいましたか?
もしかしたら陛下は一生歩けないかも知れない
ジェイミーを抱きしめて温かい体温を感じるとカートは思い口を開いた。
絶対に漏らしては行けない重要機密だろうにとジェイミーは緊張を覚える。
そんな身体になって漸くエミリー様を側に置く事が許されたのだろう。もっと早くに婚姻していても何の問題も無かった筈なのに陛下の母親が欲を出し反対をしていたのか。
「次の陛下は決まっているの?」
「そんなストレートに聞いてくる奴はお前だけだよ。現状維持出来るように周りを固めているんだ。だから俺にブライス伯爵家の令嬢との婚姻を画策したんだろう。兄上達はブライス家を嫌っているから。」
「嫌いだろうが家柄で結婚するのが王家と貴族なんでしょう?」
「だから俺になんだよ。反抗できる立場じゃないからな。」
確かに愛人の子供なのだから言われたまま受け入れるしかないだろう。
あの娘はカートに御執心のようだしブライス家も庶子とは言え陛下から信頼の厚い者ならばと決めたに違いない。
それとも酸っぱい性格の娘はこれ以上の縁談は望めないと思ったのかも知れない。
「父上が俺ばかり可愛がるから。」
「可愛がるってどんな風に?そこんとこ具体的に。」
「・・・お前は離れて行かないでくれと、父上が名付けた子は俺だけで、小さい頃は離れの屋敷に来ては遊んで貰った記憶もある。愛人の子供なのに学園にも行かせてくれたし、、、あれ?」
「あれ?気付いちゃいましたか?そんなには可愛がられていないでしょう?」
「・・・兄上達がみんなそう言うから・・・。」
「実際執着してるのは貴方のお母さんにでしょう?陛下はともかく他の王子なんて面倒な令嬢をカートに押し付けたいだけじゃない。面倒な仕事もね。」
カートは片手で口元を覆いじっと固まっている。
よく考えたらわかる筈だ。
他の王子達はそこそこ面倒ではなく評判も悪くない家柄の娘と婚姻し面倒な政権から逃れつつも楽な暮らしをしようとしている。
「カート、私と婚約しよう。二人でやりたい事を探そうよ。わたしはまだ将来何になりたいかなんて考えても見なかったけれどこれから探すから。カートはどうしたいの?」
「・・・わからない。何が出来るのかもわからない。陛下を助けたい気持ちもある。」
「・・・やっぱり凄いね。私は自分の事しか考えられないよ。陛下にも可愛がられていたんだね。」
カートは強くジェイミーを抱きしめている。背中の素肌に零れ落ちた涙が伝わり泣いているのだなとわかった。
いつも明るいカートの涙を見るのは自分だけでありたいと心から思った自分に少し驚いたが見た目よりもがっしりした身体に手を回し背中をポンポンと叩きながらどうしたら皆んなが納得のいく結末を迎えられるのかを考えなければと華奢な身体を奮い立たせた。
「どうしたいかなんて直ぐには決められないけれど、ジェイミー。お前と離れたくない。お前とじゃなければ生きて行ける気がしない。だから、、、。」
「だから?」
「勝手に決めていいのかわからないけれど、、、」
「うんうん、けれど?」
お互い抱きしめながらカートを見上げるジェイミーは悪戯っ子のように瞳を輝かせ少女の様な笑みを浮かべている。
「か、か、か、」
「か?」
「結婚しよっか。」
「《か》じゃない!」
ジェイミーはけらけらと笑い出した。
物凄く気恥ずかしい台詞を言った後なのでカートには有り難い反応だ。
「可愛いって言おうとして。」
「可愛いって言って?」
カートはジェイミーの耳元で可愛いよと何度も囁いた。
真っ赤になったジェイミーはカートの後頭部を両手で引き寄せると唇につきそうな距離で言った。
「大好きだよ。」