3.お祭り
田舎で生まれ育ったラスティとジェイミーだが父親の仕事であちこちに出掛けることも多く都会もお祭りもさほど珍しくはない。
だが子供達だけで出歩けるのは初めてなのでラスティは少し浮かれていた。
「ニーナの服可愛いね。」
ラスティが突然褒めたのでニーナの頬は赤くなってしまった。
「似合う?これラスティのお母さんがくれたのよ。親戚から服が沢山届いたからサイズが合うのならあげるって。」
「あー、たまに届くんだ。お下がりの服とかさ、新品のが多いけど。ピンクのワンピース似合ってるよ。取っておいてもジェイミーはピンク着ないだろうし。」
ピンクの髪にピンクの服が変とは思わないがきっとジェイミーが嫌だと言ったのだろう。彼女はいつも男の子が好む色ばかり着ているからだ。
「ありがとう。こんな素敵な服はじめて。」
「そうか?いつもいい服着てるじゃないか。ニーナの母さんお洒落だもんな。」
甘酸っぱい二人の間でジェイミーは大人しくキャンディをちびちび舐めていた。
お祭りは明かりで髪が目立たなくて好きだ。今日は頭の高い位置にふたつのお団子がついたような髪にして貰っている。
服は紺色のワンピースで肩紐をリボンで結び裾がふわっと膨らむ可愛いデザインだ。
「ジェイミーのワンピースも素敵ね。リボンも紺色だけど生地が違うのかしら。あ、よーく見ると水玉なのね。可愛いわ。」
まだ12歳のニーナがとても大人びて見えた。
歩いているとどんどん音楽の音が大きくなり人があちこちで踊っている。ニーナはジェイミーの手を取り踊りを教えてくれた。
「あ、俺それなら踊れるよ。」
ラスティはニーナの手を取り軽快に踊り始めた。上手くはないが二人とも楽しそうだ。
ジェイミーは母親の言い付けを守り踊る二人の側を離れないようになるべく近くにいた。
「あっ、いやだわ。手が滑ってしまったわ。ごめんなさいね。」
ジェイミーは熱い麺を肩からかけられてしまった。実際はそんなに熱くは無かったのだが小さな白い肩は赤くなっている。それにワンピースも汁まみれだ。
手が滑った女は元男爵令嬢のクラスメイトとその姉だった。
「ごめんなさいね、躓いてしまったのよ。服を着替えに帰った方がいいわ。」
どう考えてもわざと熱い汁物をかけてきたのだがジェイミーのワンピースは濃紺なので目立たないしジェイミーも一言も何も言わない。
ラスティは怒鳴るよりも腕を組み何も言わずに睨みつけている。
「その女ふたりは躓いたりしていないぜ。俺たち見ていたから本当だ。こそこそ話した後に思い切りぶちまけたんだ。何をそんなに恨まれているんだ?」
見知らぬ少年達はジェイミー達を取り囲み元令嬢も逃げられる状態ではない。
「あー、このおちびちゃんが可愛いから?それともこの彼が好きで嫉妬してるとか?それにしてもこんな小さい子を虐めるのって鬼畜すぎだよな。」
「火傷したら責任取れるの?火傷は一生残るから責任重大だし罪も重いの知ってる?」
「医療費は請求しなよ。通院費もね。」
見た事もない少年四人は令嬢姉妹を言葉で追い詰めている。
ジェイミーにとってはヒーローのようだ。
四人ともラスティとニーナくらいの歳だろうか、端正な顔立ちをしていて雰囲気が良く似ている。
背の高さはバラバラだが姿勢や所作や身なりの良さで裕福な家の子供なのが伺えた。
元男爵家の令嬢姉がそれを感じ取ったのか下手くそな泣きの演技で謝ると妹を連れて逃げて行った。
「なんなの、あれ。謝るだけ?責任とれって聞こえなかったのかな。」
「おちびちゃん肩を冷やした方がいいよ。痛くない?」
「痛くないです。」
「あ、喋った。ちゃんと人間だった、ははっ。」
「あれ?髪がピンクだ。」
四人の少年はアイスクリームを食べながらジェイミーの頬をつついたがジェイミーは何も答えない。代わりにラスティが答えた。
「あの、ありがとうございました。あの二人はクラスメイトなので親に言います。」
「うん、それがいいよ。この子カツラ?お祭りにはピッタリだね。」
「はしゃいでんなぁ。ピンクなんて。」
「じゃあ俺たち行くからさ。服を変えてあげなね。」
地毛ですと訂正する必要もないだろう。
裕福な子供とは接点もないのだから。
よく似た四人は地味な服装をしていても目立つのか通り過ぎる女の子が顔を赤らめて道を避けているのが見えた。