第八話『屈辱だ!』
昔の話はこれくらいで良いかな?この場にいる全員が知らない事だし、今わざわざ言う事でもない。
「コウを探してる理由はなんなんだろうね?」
「うーん、口振り的に家族とか家族に近しい間柄ではありそう。それ以上の事は分かんないや、ごめん」
「謝る事ない、それだけ分かってれば上々だよ」
「そうですね、家族または家族に等しい人間なら幸太郎さんの情報は小さい事でも欲しいでしょう。これなら交渉の余地がありますよ?」
「ん?サイモンさん侵入者の人達は家族を探してるだけだよ?そのついでに雛菊達を助けてくれようとしてるんだよね?」
「それは分かっていますよ。しかし何が起こるとも分かりません、用心に用心を重ねて材料を用意しておく事はおかしいことではありません」
「そうなんだ〜」
私も大概疑り深い方だけどこの人も負けず劣らず人間不信拗らせてるよなぁ。
まぁ信じていた人間に裏切られたら人は疑り深くなるってことだよね。
「私が施設長室まで偵察に行って参ります」
「あ、はい!私も見ておきたい」
「おや、柊が一緒とは心強いですねでは行きますか」
「行こう行こう!」
その場にいる人間達に反対される前に行動しようと素早く行動をする私とサイモンさんの思考は一致して、その場をノリで切り抜けようとした。
「ちょっと待ちな!」
うっ、流石にノリではどうにもならないか。案の定2人ともアグリさんに引っ掴まれてその場に正座させられた。
「そんな不満そうな顔しても許しゃしないよ!子供と老人が行って何かあったらどうするんだい!」
「おや?現役は引退しておりますが、まだまだ腕は鈍っていませんよ?」
「私も力では敵わないけど、戦う術はあるよ?」
「誰もあんたの腕が鈍ったなんて思っちゃいないよ!柊あんたも悪巧みは一丁前な事は知ってる。でもね、相手はこの施設の屈強な見張り達をを全員伸して施設長室まで行った奴らなんだ。慎重に行動した方がいい」
「2人がとっても強いのは雛菊達良く知ってるよ?でもだからって快く行ってらっしゃいって送り出せるわけじゃない!2人が怪我したらするのが雛菊達は怖いんだよ……」
アグリさんも雛菊も泣きそうになりながら私達に訴えてくる。マイロくんも真剣な顔で見つめてくるし、クルミさんなんかさっきからボロボロと泣いてる。
相変わらず涙脆いな〜。
そりゃ怖いよね、自分の家族が暴れ回ってる人間のところに行くって言ってるんだから。
私の口から悪い人じゃ無さそうとか、幸太郎さんの知り合いだから大丈夫そうとか確信がない、推測でしかない話全く安心材料にならないもんね。
でも施設が壊滅に向かっている今、その人達に保護してもらうのが1番安全だと私は思う。
幸太郎さんの時みたいにルゥに頼る事は今回は出来ない。
ルゥもルゥで色々トラブルを抱えてて忙しいからいつも助けてもらうわけにはいかない。
それに自分や周りの人達を頼っても解決出来ない時にしか呼ばないと決めている。
マジでヤバいと思ったら呼ばせてもらうしね。
「絶対に危ない事はしないって約束する。声だけでは判断できないから姿を見たいだけなの、少し様子を見たら素早く帰ってくるよ」
「本当に?絶対に危ない事しない?見つからないように出来る?」
「絶対にしない」
「殴り合いとかしちゃダメだよ?約束出来る?」
「全部約束するから……お願い!雛菊お姉ちゃんっ!」
「〜〜っもう!いつも呼び捨てなのにこんな時だけお姉ちゃん呼びなんて都合良いんだから!……無事に戻ってくるんだよ?」
「分かってる!ありがとう雛菊!サイモンさんが一緒だから危ない事なんて何もないよ。みんなの事お願いね」
「それはまっかせて!サイモンさん柊の事お願いします!」
「はい。お任せください、必ず無傷で雛菊の元へお返し致します」
最終的に絶対に見つからないと言う言葉をみんな信じてくれて、送り出してくれた。
雛菊を説得出来たのは、サイモンさんの存在も大きいけど、やっぱり1番は妹という生き物の涙目&上目遣い&お願いポーズに抗える姉は居ないって事!
普段言っていない分余計に効果があったに違い無い。
まぁ、説得出来なくても隙を見て行こうとしてたけど……バレた時大人からも子供からも超怒られたので話し合いで解決したかったんだよね。
幸太郎さんの近しい人間でも発砲音が聞こえたら正直無視出来ない。日本の常識を持っているから拳銃とか剣を持っている人を認識すると警戒度が増して所持している人間がまともな人か確かめたくなる。
日本では持ってるだけでアウトだったけど、この世界は剣や杖、鞭などの武器を持ち歩いている人は多い。町民とかも小さいナイフくらいは持ち歩いているが、大剣や杖などを持ち歩いてるのは主に冒険者だ。
この世界には冒険者ギルドがあって教国を除く全ての国に建設されている。
結構賑わってて面白いところだよ、治安はたまに悪くなるけど…
で、雛菊達とかっこよく分かれた現在の私の格好はサイモンさんに荷物のように抱えられていた。
いや…楽だから良いんだけどさ……最初は走ってたんだよ?でもさっ、ほらっ!アグリさんに老人とか言われていたけど、サイモンさんもまだまだ現役の男性な訳で?子供の私には到底同じスピードでは走り続けられないんだよ……。
サイモンさんの遥か後ろをゼェハァ言いながら走る私を見かねて引き返してきて「失礼します」と一言声を掛けて優しく軽々と担いでくれたサイモンさんは気遣いの出来る最高のイケオジだよ?
でもさ、その時の私の気持ちが分かりますか?
屈辱だよ!体は子供で体力ないけどっ!一応精神的には成人済みの立派な大人なのに!
そんな悔しさを抱きつつ、安定感抜群すぎるサイモンさんの腕の中でそれはそれは快適に運ばれた。