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第七話『数年前のこと 死者の尊厳』


 3人の鬼ごっこは数秒で終わった。

 ルゥは飛行魔法が得意で、飛行補助魔法が付いている箒を使わずに生身で飛んでるから減速機能などが無くて限界まで速度が出せるんだって。

 一緒に飛んだ人は置いて行かれ、背負って連れて行かれると酔ってゲロを吐くとルゥの同僚が嘆いていた。



「まだルゥ呼び出しただけだよ!説明をする暇も無く逃げないでよ」

「いや、逃げるよ。空中に浮いているという事は魔法使いだよ、ね?魔法の使えない人間には容赦がないと有名の」

「…確かにルゥは魔法国の人間だけど、魔法が使えない人間に容赦ないのは一部の過激派で殆どの人はなんとも思ってないよ」

「え、そう…なんだ。私てっきり魔力を持ってない人間ははゴミだと思ってる人ばっかりなんだと思ってた…」



 2人が誤った知識を持っているのも無理はない。

 魔法国は基本的に入出国が禁止されている鎖国された国だ。

 遠い昔は他国とも交流が盛んだったらしいが教国とのいざこざがあり、当時の魔法国のトップが嫌気をさして交流を一切断ち鎖国してしまったらしい。

 それが今も続いていて、学園などの授業では細かい詳細などは書かれていないから魔法使い以外はゴミだと思っているという偏った知識を持っている人は多い。

 教国なんかは完全に魔法国を敵視しているのでそっちと交流があるともっと知識が悪い方向に歪められている人が多い。


 そもそも魔法国って変人が多いからやり方が極端なんだよね。

 魔法をより発展させる為に積極的に他国と関わっていたのに面倒方があると直ぐに辞めた!になるのが魔法使い。

 魔法の研究に関しては試行錯誤するのに人間とのコミュニケーションは行き詰まったら試行錯誤する余地も無く放棄するんだよな。

 

 しかも2人が想像する様な人はそんなに多くない。

 ゴミ扱いしてくるのは中途半端に力をつけている貴族とか商人とか、そこら辺の連中だ。

 基本的に魔法使いは『弱気は助け強気を挫く』精神なので優しい人達しかいない。

 無愛想で口が悪い人間が多いから勘違いされがちだけど…基本は良い人!

 でも、弱者のフリした加害者には厳しくボコボコにして晒し上げにする事が良くあるとルゥが言っていた。

 魔法で嘘なども見分けられるので弱者で無いことも分かるし、恥ずかしい過去も見ようとしたら見えるそうなのでバレたら甚振り尽くされるそうだ。


 

「この私を面倒方に巻き込んだんだ。貴様らはゴミでいいだろ」

「ルゥ、思ってもない事言わないの」

「自分達で解決できない事をその時の感情に任せてやる事のなんたる愚かな事か」

「はぁ〜、嫌味ったらしいけど誰に対してもこれだから許してね!」

「えっと、それは良いんだけどその、ルゥさん?は魔法使いなんだよ…ね、どうしてこの国にいるの?」

「魔法国は入国はもちろん出国も基本的には禁止されてるよね?」



 さっきも言ったように魔法国は入出国禁止。

 でもそれは基本的にが付くし、例外は勿論ある。

 その例外がここにいるルゥなんだけど、本人が言うんじゃねぇって顔でこっち見てるから黙っとこう。



「ルゥの事は今は知らなくて良いよ!それよりも逃げる方法!聞かなくて良いの?」

「聞いたら必ず遂行してもらうぞ」

「柊の提案に賛成出来なかった場合はどうなるんですか?」

「貴様らに選択肢などないだろう。拒否した時点で私は貴様らに手は貸さない。例え柊に願われても、貴様らを助ける事はない。この中で私が信頼しているのは柊だけだからだ」

「……その方法教えていただきたい」



 私は2人に逃げる策を話した。

 まず、逃がす為に必要なのは状態の良い死体だ。

 2人を見つけた時も言ったけど、施設長は何がなんでも諦めない。見つけるまで地の果てでも追いかけ続ける。

 だから必要なのは死体。

 

 2人が脱走してから軽く2、3時間は経ってるけど今だに見つからないのは、施設に監視するプロはいても探すプロはいないからだと私は思う。

 そもそも商品が逃げ出すなんてイレギュラー、長年施設にいるサイモンさんに聞いても初めてだそうで、商品を監視する人間さえ雇っていれば安泰みたいなところがあったらしい。

 しかし、2人は脱走した。

 その場にいる人間を監視するプロはいても、何かから逃げる人間を捜索するプロはいなかった。

 逃げる人間の心理を正確に把握し、理解するそんな人間が施設職員に1人でもいれば2人はとっくに捕まっていただろう。

 

 そもそもの問題として2人がどうして商品保管区域から出れてたのかすら私達は分かっていない。

 扉はカードキーや施設長の許可がないと開く事はないのに2人は出れた。

 施設職員でもカードキーを持っている人間はいないので私はもう1人仲間がいてその人が何らかの方法でカードキーを入手し2人に渡した可能性があるのではと考えた。

 考え…たんだけど、2人の駆け落ちは突発的なものなのでそんな用意周到な事ある?と思った。

 まぁ、こんなの考え出したら無限の可能性が出てきてしまうし、2人のどちらかを問い質さない限り永遠に答えは出ないので直ぐに頭の片隅に追いやった。

 今は2人を逃すことが優先、尋問して時間使うわけにはいかないからね。

 どうせルゥに預けちゃうからそれもお願いしちゃお、プロいるし。


 てことで話は戻すんだけど、この場で死体を用意する事は案外簡単。

 私達商品は清潔な環境で生活していないので病気に罹りやすい、昔よりは減ったけど人が死ぬことは珍しいことではない。

 この国は火葬が主流なんだけど、施設長が土葬の国出身なので施設でも土葬で済まされる。

 森を適当に掘っただけでもゴロゴロ死体が出てくる。

 腐っていたり白骨化しているんじゃないかと思うだろうけど、そこは大丈夫。

 この世界は魔法が存在する世界。

 腐らせないように遺体を綺麗なまま保管する魔道具がある。

 これはもちろんルゥが作った魔道具だ。

 冷凍庫のように冷えてはいるけど凍りはしない、ホルマリン液を使った時のような綺麗な遺体のまま埋まっている。

 こういう便利な魔防具ないの?って聞いただけなのに作っちゃうんだからルゥって本当に化け物だよね。

 亡くなった人達には申し訳ないけど、私は使えるものは何でも使う。

 それが被人道的な事でも。


 2人に作戦の全てを伝えると顔を顰めて悩んでしまった。

 そりゃ悩むよね。

 悩んでる時間なんてないけど…


「質問なんだけど、死体があったとしても顔が全く同じ人を探すのは無理だよね?それはどうするの?まさか、頭を潰す…わけじゃないよね…?」

「もちろん潰しはしないでも顔を変えさせてもらう」

「顔を…変える?」

「整形するってこと?でも、そんな時間…」

「何のためにルゥを呼んだと思ってるの?魔法で変えるんだよ。魔法なら潰す必要はないし、時間も掛からない。何より顔だけじゃなく体も作り替えられちゃうのが良いところ」


 魔法は基本的になんでも出来る。

 人間の顔を変える魔法は魔法の応用で出来るんだって、詳しくは分かんない…昔ルゥに聞いた事あるけど魔力が無い人間が知ったところで無用な知識だろと教えてもらえなかった。



「ここに連れて来られただけでも苦しかったはずなのに、死んでからも私達に使われるって事…だよね」

「そうだよ。でも2人が逃げ切る為にはこれが1番安全で手っ取り早い。死体が出なければ施設長はいつまでも捜索を辞めない。2人だけじゃなくて2人の家族にもその周りの人にも危害を加えかねない。それなら2人が妥協した方がいいでしょ?」



 2人はだいぶ迷っている様だった。

 それはそうだ、自分達の駆け落ちに見ず知らずの人間の死体を使うと言われたいんだから。

 死者の尊厳を踏み躙る最低の行為に加担する事に罪悪感を感じているのだろう。

 しかしそんな事を考えている場合ではないことも2人は理解している。

 だから迷っているのだ。



「私とルゥも長くはここに居られない。施設を出てから3時間は経ってる、これ以上外にいるのはまずい。決めるなら今直ぐに決めて欲しい。悩むだけ時間の無駄」

「……………分かった。その作戦でお願いします」

「柊、巻き込んでごめんね。お願いします」



 作戦を決行するにあたって私は2人に条件を出した。


 1つ、施設外で見た私の言動に関して一切他言しない事。

 2つ、施設が壊滅、または施設長の逮捕等が新聞に載っているか毎日チェックをしてその記事が載るまで家に帰らず、知り合いにも連絡するのも一切禁止。


 2人はこの条件をすぐに受け入れてくれた。



 話し合いが終わったので、早速死体を掘り出して魔法で2人そっくりの姿にして服も同じ物を着せた。

 魔法で大体の事は出来ちゃうから本当に便利。

 私も魔法使いたかったよ……魔力さえあればっどうして異世界に転生したのに使えないんだ!

 


 死体をそのまま寝かせて置くのは不自然なので申し訳ないけれど、崖から落とさせてもらった。

 これなら2人が逃げてる途中で崖から落ちて死んだように見える。

 施設長達が見つけたら回収をするはずだからそうしたらしっかりと供養させてもらう。



「これで準備完了。じゃあ後はお願いねルゥ」

「はぁ?」

「この2人ふわふわしてるから心配なの。魔法国なら安全だし、お母さんもいるから安心でしょ?」

「魔法国が鎖国しているのは知っているだろう」

「知ってるよ?でもみんな人間に興味ないじゃん。それに助けを求めて逃げて来た人を邪険にする様な国でもないでしょ?」

「………………………はーーー、柊最初からそのつもりだったな。……私はこの欠陥人間どもと関わる気はないぞ。お前の母親に丸投げするからな」

「ルゥ、ありがとう!いつも助かってる」



 魔法国は鎖国している、魔法を使えない人間を見下してはいるが、戦い、抗っている弱者にはとても親身であることは魔法使いと関わった事のある人間には周知の事実だった。




「2人とも魔法国では礼儀正しくしておくんだよ……て言われなくても分かってるか」

「うん、なにから何まで本当にありがとう。柊ちゃんには感謝してもしきれない。恩を返しても返したりない。柊ちゃんが困った時は僕が助けるよ、本当にありがとう」

「私もすごく感謝してる。もしこの組織が壊滅する事があったら私達の身代わりになってくれたあの2人のお墓作りに来たいと思う」 

「感謝はしてほしいけど、私は特に何もしてないしやったのはルゥだからそっちに感謝してね。恩もルゥに返してね。でも私にどうしても何かしたいなら、雛菊が困った時に助けて欲しい。それだけお願いしたい」



 私の事はどうでもいい、自分の身は自分で守れるし、最悪どうなってもいい、でもまだ子供の雛菊は1人では生きていけない。

 だから少しでも安全に生きられるようにしておきたい。



「…分かった!ルゥさんにはもちろん、柊ちゃんにも感謝してる。雛菊ちゃんのことも出来る限り助かるよ。でも柊ちゃんの事も助けるから」

「わ、私も!全然力無いし、頭…もそんなに良くないけど、絶対に守るよ」

「ありがとう。でも命とか掛けなくていいからね、あくまでも自分に余裕がある時限定でよろしく」



 私は他人に命を掛けて欲しいとは思っていない。

 そんな事をされたら雛菊は自分のせいだと一生責め続ける。

 雛菊には私のことだけ考えて欲しいの、だから程々に助けてくれれば良いなって思ってるよ。




 

「柊、また何かあったら連絡しろ。今度はオリバーも連れくる」

「了解〜、頼りにしてますよ天才魔法使いさん!オリバーさんに優しくしてあげてね?あと、お母さんにも2人とも元気だって伝えといて」

「…気が向いたらな」

「……ツンデレ」

「なんだそれは」

「今度お願いする時教えてあげる!」



 そんな会話を終えるとルゥは早々に2人を連れて魔法国へと飛び立った。

 転移魔法で移動したけど、あれ酔いが酷いんだよねー。2人の三半規管が強い事を願ってるよ。


 さて、外に出た事がバレる前に商品保管区域に速やかに戻りますか!

 この後外に出た事が雛菊達にバレて軽い詰問が私を待っていた。



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