第七十四話『決着』
雛菊と一緒にお母さんに引っ付いて、総一郎さん達を真っ直ぐに見つめる。
この人達に出会ってからこんなに真っ直ぐ見たことはないと思う。
だって、みんなびっくりした顔してるから。
いや、私達の行動に驚いてるのかも。
「贅沢なんて出来なくて良い!お母さんがいればいい!」
「ふッ2人とも?どうしたんだ、可愛いドレスや有名店のお菓子を好きなだけ買えるぞ?お父さんの所に来れば好きな物を好きなだけ買えるんだ、欲しい物は全部手に入るんだぞ……」
「そんなのいらない!雛菊とお母さんがいれば他には何もいらない!」
全部要らない、雛菊とお母さんがいないならそんな物に価値はない。
「お母さん、1人で寂しかったでしょ?」
「お母さん1人にしたらまた泣いちゃうでしょ?」
「………ありがとうです、2人とも」
お母さんは強い人だ、でも私達に笑顔を向けて夜1人で声も出さずに泣いている人だ。
そんな苦しい泣き方しないで欲しい、大声で苦しいって泣こうよ、悲しいって言おうよ。
幸せだっていっぱい笑おう。
「おッお父さんだって1人は寂しいよ?おじいちゃんとおばあちゃんも泣いてしまうよ?」
貴方が寂しい?あり得ないでしょ。
どうせ私達を引き取れたら爺婆達に丸投げして、私を引き取って来れた報酬として貰ったお金でギャンブル三昧でしょ?
泣く?雛菊を居ない者として扱うくせに?
奴隷の様に扱っていたくせにッ?
あの情景を思い出すだけで、父親に引き取られた後の事を想像するだけで、腸が煮え繰り返る。
「……お父さん、ごめんなさい。柊まだお父さんのこと怖い……」
「えッ、え?」
「まだ背中が、痛い」
「せ、なか?…………ッ!」
コイツ忘れてたな。
でも良かった、この人に傷を付けられて良かった。
まだ傷が痛くて……跡が残っていて良かった。
こういういざって時の為に消えずに残ってて、良かった。
「ひ、ひいらぎ……おとうさん、は本当に申し訳ないと思ってるんだ。でもあれは事故だろ?……柊が望むなら、一生をかけて償って行く……だから、」
「つぐないなんて、要らない。……柊は一緒にいたくない」
正直あの時の痛みは、苦しみは、大人の精神でも耐え難かった。
もし私が普通の子供だったら死んでいたかも知れない、医者にも生きているのが不思議だ、後遺症が残ってもおかしくなかった…と言われた。
お母さんを庇って良かった、雛菊にかけられなくて良かったと当時ホッとしたのを覚えてる。
私も死ななくて良かった。
2人を置いてけないからね。
「……痛いとはどういう事でしょうか?」
「いや、あの、ちがッ違うんです……ちがう…」
「……私の方から説明しても宜しいでしょうかです」
「……どうぞ」
オドオドと目を泳がせている父親に変わって、お母さんが説明すると名乗り出た。
それはそれは苦しそうに。
「私がいつもの様にこの人に殴られている時、ヒートアップしたこの人が熱湯を私にかけようと鍋を投げてきましたです。……その時に柊が私を守って、熱湯を背中に……浴びましたッ、直ぐに病院に連れて行ったのですが、お医者さんに後遺症が残る事や最悪の場合……亡くなることも覚悟しておいて欲しいと言われましたですッ。私がッ……私のせいッ」
「お母さんのせいじゃないよ。柊がお母さんを守りたくてやったんだよ?お父さんのせいではあっても、お母さんのせいだなんて事は絶っっっっ対にないからね!……これは、勲章だよ?お母さんを守った勲章!」
「…ひ、ひいらぎッ…ごめ、ううん。ありがとうです」
「いひひ」
お母さんはずっと後悔してた、私に庇われた事を。
火傷を負わせてしまった事を。
後悔しないで欲しい……だって私は全く後悔してない。確かに時々痛いし鏡で見る背中はグロかったけど、今は火傷跡を消す為の薬を塗って大分薄くなっている。
それでも完全に綺麗にはならないけどね?
でも、これは2人を守った勲章だから嫌いじゃない跡だ。
そもそも私が殴られてるのをお母さんが庇ってくれて、それに逆上した父親が熱湯なんて持ち出してきたからいけない。
「はぁ、お前ら決まったな」
「あぁ」
「はい」
「おう!」
「おうよ!」
「決まりですね」
「まぁ〜どっちかとぉ〜言ったらぁ〜って感じぃ〜」
「私も消去法ですが、決まりました」
「え…」
私と雛菊が泣き虫のお母さんを撫でて慰めているたら、総一郎さん達の中で答えが出た様だ。
どっちかって言ったらとか、消去法って言葉が若干気になるけどね。
一択でしょ。
「雛菊と柊は母親に引き取ってもらう。自分の女に熱湯かけようとする人間なんて論外だ、子供に一生消えない傷を付けんのもな。お前の親の事も含めて経済的余裕が無くとも2人を心から愛してる方に預ける。お前は火傷の事をずっと言い訳してたが、この母親は火傷の事を泣いて後悔してたからな…」
「まぁ、2人の態度も明白でしたので。全員一致で母親ですね」
唖然としている父親に総一郎さんと瑞生さんは結果を告げた。
明白ってそんなにかな?
でも、父親には抱き付かなくてお母さんには抱きついてるんだからどんな鈍感な人間でも流石に分かっちゃうか。
「…ふざ……る」
「ん?」
「ふざけるなッ!柊ぃッお前は俺の娘だッ!俺の物だ!お前は黙って俺に従ってれば良かったんだよッ!それをお前はッ……お前がいないと、借金がッ」
「静かにしろ」
私に詰め寄って攻め立ててくる父親に、総一郎さんの重く響く声が部屋の中に広がり一瞬で無音になった。
「コイツらは母親を選んだんだ。選ばれなかったお前にもう用はない……とっとと此処から立ち去れ」
「ーーーッ!」
総一郎さんに言われた言葉に顔を真っ赤にした父親は、最後の足掻きなのか足音立て勢い良く襖を開けた。
そんな父親の背中に総一郎さんが追い打ちをかける。
「おい、2度とこの親子に近づくんじゃねぇぞ。もしまた姿表したらどうなるか……お前のその足りねぇ頭でも想像くらい出来んだろ?なあ?」
父親を脅す総一郎さんは本当に迫力満点で、思わず惚れそうになった。
既婚者には惚れないよ?
あ、父親は顔を真っ白にして腰を抜かしながら?出て行った。
父親が出て行くと総一郎さんは私達に近づいてきて頭をガシガシと撫でてくれた。
「雛菊、柊良く頑張ったな!カッコ良かったぞ!」
「ありがとう!頑張った!」
「助けてくれてありがとう!」
本当に、本当にありがとう。本当に感謝してる。
まだ完全に信用出来ないのは申し訳ないけど…………
無理なものは無理なので、しょうがない!
PVが7,000行きました!
ありがとうございます!m(_ _)m




