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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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七十二話『変わらない強さ』


 部屋に入って来たお母さんに私達は勢いよく抱きついた。

 ここに総一郎さん達がいるとか、そんなのどうでも良かった。

 ずっと会いたかった…数年焦がれ続けた母がいる。それだけで心から泣きそうだ、幸せだ。

 雛菊も幸せそうに泣いている。

 この人の腕の中にいるだけで……幸せ。



「2人とも会いたかったです」

「雛菊も会いたかった!嬉しい!」

「柊も、会いたかった!」

「おや?」



 あ、恥ずかしい…ッ。

 お母さんの前では自分の事私って言うから、今柊って言ってることが恥ずかしい。

 お母さんも不思議そうに見てたけど、一応何で外で自分の事私って言わないのかとかは説明してるから大丈夫、なはず。

 でも恥ずかしい。



「お初にお目に掛かります。雛菊と柊の母、一花(いちか)と申します。私にも2人を引き取ると言うお話し合いに参加させて頂きたいです」


 

 お母さんは抱きついている私達を座布団の上にそれぞれ丁寧に座らせて、自分は畳の上で綺麗に正座をし深々と頭を下げて自己紹介をした。

 自己紹介ついでに私達を引き取りたいと意見まで言って。

 

 健剛さんはなんだか疑っている様な視線を向けてくるけど私達2人の懐き様と、父親とは違って瓜二つの顔や髪色を見れば親子だって分かるでしょ?

 誰かが化けてたらって考えるかもしれないけど、この人は本物だ。

 雛菊が引っ付いて離れないからね。

 私も、離れたくないし……。

 いや流石に今は引っ付いてないからね!



「……君はいきなり来て何を言ってるんだい?2人を引き取るのは私ともう決まる所だったんだ」

「いきなりではないのです、私は2人と会う約束をしていましたです。アポ無しで相手に迷惑をかけているのは、貴方の方ですよ?」

「ッ……随分と生意気な口を利く様になったな。アポの件は此方の方々に本当に申し訳ない事をしたと思っているよ。だが、仕方ないじゃないか何処かの恥知らずが何も知らないこちらの方々を言葉巧みに騙して、子供を引き取りたいと厚かましくも願い出る可能性があったからね。2人を捨てたくせに、そんな事言わないと思っていたよ」

「……」

 


 

 瓜二つかどうかは関係ない。

 この母親がまともな人間かどうかを探ってるって感じだね。


 あと父親の言ってる事は事実だ、お母さんは私達を置いて逃げた。

 私達が説得して逃したと言っても信じては貰えないし、信じてくれたとしても置いて行った事実は変わらない。

 ルゥに無理やり連れて行ってもらったって言えたら1番楽なんだけど、言うわけには行かないからね。

 だから総一郎さん達は探ってる。

 どちらに預けるのが正しいのか、安全か。

 私達が幸せか…………はたまた、自分達にどんなメリットデメリットがあるか。


 そんな事……この人達は考えないか……。



「確かに、私が2人を置いて逃げたのは紛れも無い事実なのです。2人に説得をされてこれ幸いと逃げた」

「違うよ!お母さん泣いてたもん!」

「幸いなんて思ってないでしょ!」



 お母さんはこれ幸いと逃げてない。

 ルゥに連れられてずっと私達の方に手を伸ばしていたし、暴れてたし、泣いていた。

 演技なんかじゃ無い、実際魔法国に入国してからルゥから届く手紙にはお前の母親が帰らせろとうるさい、雛菊と柊は無事かとうるさいと文句が書かれていた。

 


「逃げた?…ハッ違うだろ?君は2人を捨てたんだ!」

「いいえ、捨ててませんです。貴方に殺されるのが怖くて逃げた……でも凄く後悔したです。2人を連れて逃げれば良かった、置いて来なければ良かった……酷い目に遭っていたら、殺されていたらどうしようって怖くて毎日眠れなかったです。後悔しました、この子達を想わない日はありませんでしたです」



 わたしも、私達もお母さんを想わない日は無かったよ。

 ずっと心配してた、私達に譲って全然ご飯食べてなかったからガリガリで心配だった。

 父親が金を使い果たしちゃうから、私達の食費とか服代とか稼ぐ為に寝ずに働いてて心配だった。

 私達と離れてからちゃんと食べてるのかなとか寝れてるかなとか、ルゥ達からの手紙で知ってたけど心配だった。


 良かった…顔色も良いし、体型も普通に戻ってる。

 良かった。



「この期に及んでなんて白々しい嘘をッ……」



 そう苛立ちを募らせ声を荒げる父親をお母さんは無視をして、総一郎さん達を見つめた。



「どんな苦しみにも耐えて見せます。2人を何があっても守っていきます、もう2度と置いて行ったりしない。2人ともを大事に育てます。1人だけを大切にする貴方達とは違ってです」

「お前ッ!」

「私が2人を引き取ります。引き取らせて下さい」



 お母さんはいつもの少し不思議な敬語を話さずに正しい敬語で話し、真っ直ぐに前を見て。

 総一郎さん達に深々と頭を下げた。



「どうか、お願いいたします」



 その姿は本当に堂々としていて、眩しかった。

 昔、私達を守ってくれたお母さんそのもの、何も変わってなんていない。

 本当は臆病で泣き虫のクセに、私達を守ろうと強くあろうとする。

 私が憧れて、守ろうと決めたお母さん。






 

 

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