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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第七十話『新しいあだ名』


 雛菊と相談をして本当に嫌悪感しか抱かないし、全身が拒絶反応で鳥肌立ちまくりだけどしょうがなーく、今だけはお父さんって呼んで近づいてあげるよ。

 あんななの呼び名なんてゴミでいいのに、あぁーーー本当に嫌だ憂鬱。

 父親が訪れた目的が手に取るように分かるから尚更。

 多分雛菊も分かってる。


 その事が、1番不快だ。



「おとうさーん!」

「…お父さん!」

「柊!」

「ああーー!2人とも何で来ちゃうんすかー!?」



 しょうがないじゃん、虎徹さん助けないと雛菊が罪悪感とかで泣いちゃうんだから、泣いても良いの?

 雛菊のお願いを私が拒否する訳ないし、私達が出て来た事で話がスムーズに進むでしょ。

 まぁ、余計にややこしくなる可能性もあるけど…………そうなったらそうなったって事で……よろしく。


 父親の前に行きながら、差し出された手を前に私達は止まった。

 申し上げないんだけど、お前みたいな汚い人間に雛菊を抱き付かせたくないし、雛菊が抱きしめてくれる私の体に触れさせる事もあり得ない。

 ……私の名前しか呼ばない父親(ゴミ)にはさっさと退場してもらおう。これで目的も疑いから確信に変わったし?私としてはスッキリしたからもう消えてもらって良いよ。



「お父さんのお声が聞こえた気がして来てみたの!」

「そしたら本当にお父さんが居てびっくり!」

「柊!…ひ、ひな、ぎく?も会いたかったよ!」

「もー!オレどうしたら良いんすか!?」



 それはこっちのセリフかな。ごめんね虎徹さん、困ってる所申し訳ないけどこっちも困ってるかも。

 てか、コイツ雛菊の名前忘れてやがったか?

 シッ……んんっ。危ない危ない、行ってはいけない言葉が出る所だった。

 そんな事をニコニコしながら考えていると視界の端に2つの影が見えた。



「虎徹!お待たせ、瑞生さん連れて来た」

「雨音ぇぇ〜!助かったっす!でも一歩遅くてもう信じられないレベルでややこしくなっちゃってるっす!」

「……あー、この状況を見れば何となく理解出来る。お疲れ、お前残して悪かったな」

「本当っすよ!今度同じ事起きたら雨音が残るっす!オレにはやっぱり無理だったっす!」

「虎徹はコミュ力あるから適任だと思ったんだ、けど相手がまさか押し入ってくるタイプの人だったとは思わなかった。今度は気をつける」

「2人ともご苦労様でした。後は私が対応いたしますので部屋に帰って休みなさい」



 2人は私達を見て戸惑った様な動作をしたが、瑞生さんが手を払うと一礼してその場を去った。

 その際、虎徹さんは言い足らないと言った様子で雨音さんに文句を言っていた。

 文句は正当なものだけど、確かに外面被りまくりの礼儀正しい人間を見たらそりゃ誰だって話の通じるまともな人間だと思うよね。

 コミュ力等なら虎徹さんの方が明らかに高そうだし任せちゃうのも分からなくは無いんだけど、最低でも2人は残った方がいい。

 1人だとコイツみたいに体格差とか見て押し切れると思い。行動してしまう人がいるから。

 てか、多分虎徹さんが残ったのを見て多少態度変えたんだろうな。雨音さんでも微妙な所ではあるけど。



「雛菊ちゃんと柊ちゃんの自称父親は貴方ですか?」

「ですから!本当に父親なんです!」

「…ここでは埒が開きませんね、では組長の所へ案内いたします。こちらへどうぞ」



 瑞生さんはゴネる父親を連れて、組長室に向かって行く。

 父親はその間チラチラと私達を見ていたけど、無言で手を振っていたら諦めて前を向いて歩いて行った。

 そのすれ違いで保弘さんが玄関にやって来た。

 


「お父さん、怒られる?」

「怖い事される?」

「話を聞くだけだ」

「そうっすよ!一応でも2人の父親名乗ってる人っすから殺したりしないっす!」

「顔を変えて父親を装っている可能性を考えて、2人から離しただけだ」

「なら安心!」

「あれ?虎徹お兄ちゃんと雨音お兄ちゃんお部屋帰ったんじゃ無いの?」



 ナチュラルに会話に入って来たから違和感なかったけど、この人達さっき部屋帰ってなかった?

 いつのまにか戻って来たんだろ。



「流石に2人を残して部屋に帰れないっすよ!」

「瑞生さんに言われて1回帰ろうとしたんだけど、やっぱりお前達が気になって帰ってきた」

「わあ!2人とも優しい!」

「ありがとう!柊達全然大丈夫だよ!」



 優しい人達だ。

 頭のおかしい人間の相手をして、瑞生さんを呼びに行くために走って疲れてるだろうに。



「雛菊、柊。2人に頼みがある」

「ん?なあに?」

「頼み事?」

「あぁ、お前らの髪の毛を一本ずつもらって良いか?」



 ………………はい?

 何保弘さんそう言う趣味?こんな割と緊迫している状況で性癖披露するのやめてもらって良いですか?

 張ってた気が解けちゃう所だったでしょ。

 これから戦いなのに変なこと言わないでよ、と考えていた私の思考を読んだのか保弘さんは直ぐに次の言葉を発した。



「DNAを調べるのに使うんだ。変な事には使わないから安心してくれ」

「おぉー!そういうことか、全然良いよ!」

「DNAって親子かどうか分かるやつ?」

「詳しくは違うが今はその認識でいい」

「はーい!」

「了解!」



 なんだ、そうならそうって最初っから言ってくれれば良かったのに。

 びっくりした…危うく保弘さんをロリコン以上の変態と認識するところだったよ。

 助かった、保弘さんが変態じゃなくて。


 雛菊はDNAの事を良く分かっていない……てか私も良く分かってない。

 ざっくりこんなだよ〜って説明は出来るけど、専門家じゃ無いので詳しく教えるのは無理だな。

 論文とかあったらそれ見て勉強しようかな〜ルゥがオリバーさんに教えてもらうでも良いけど。



「DNAってそんなに直ぐ調べられるの?」

「あぁ、そんなに時間は掛からない。京がやってくれるから数分で結果が出るぞ」



 へぇーそうなんだ、凄い。

 前世では最低でも1週間くらい掛かるって友人が言ってたけど、京さん1人でやるから数分で出来るのかな?

 普通なら色んな人が調べるんだよね?順番待ちしないといけないし。

 全て自分の手で行えるのは効率が良くていいなぁ。ま、これも予想の範疇を出ないんだけど、だって専門家じゃ無いからね。




 髪をくれと言われ雛菊と私は1本ずつ抜いて保弘さんに渡した。

 髪の毛を受け取った保弘さんは透明の袋を取り出し、丁寧に1本ずつ別々の袋に入れて私達に礼を言ってから研究所に向かって行った。

 

 保弘さんが行ってしまったのでこの場にいるのは私と雛菊、それから虎徹さんと雨音さんが残った。

 私は特に話すことがないので適当に挨拶をしてさっさと帰ろうとしたのだが、虎徹さんと雨音さんは私達の目線に合わせてしゃがんで来た。

 いきなりの動作に咄嗟に数ミリ後ずさってしまった、バレてないと良いけど。一応玄関の方とか見て誤魔化しておこう。

 雛菊は私の行動に気付いて優しく手を握ってくれている。

 ……情けないですね。



「ひなっち、ひいっちオレあんまり頼りにならなくてごめんなさいっす。2人に助けてもらっちゃったっす」

「全然!雛菊達のお父さんが変な人なだけだから、気にしないで!」

「だめだめ!って止めてる虎徹お兄ちゃんかっこよかったよ!」

「2人ともありがとうっす」



 元気いっぱいの虎徹さんが落ち込んでいるのは、何だか調子が狂うな。



「そういえば!ひなっち、ひいっちって柊達のこと?」

「そうっす!銀次郎さんがヒナヒイってあだ名つけてるのが羨ましくてオレも付けてみたっす!………だめ、っすか?」

「全然!とっても可愛い!」

「ひいっちって初めて付けられるあだ名!嬉しい!」

「よかったっす!2人もオレを好きに呼んで良いっすからね!」

「好きに……こてっち?」

「おぉ〜可愛い!こてっち!って呼んでも良い?」

「全然良いっす!距離が近くなった感じがして嬉しいっすね〜」


 

 虎徹さん、銀次郎さんに影響されてたのか。うーん、銀次郎さんよりセンスがあるね。

 可愛い。と私は思うんだが、どうだろうか?雛菊も気に入ってるし可愛いんでしょう。




「話いいか?」

「ん?どうぞ!」

「雛菊、この間はありがとな」

「ん?この間?なんのことだ?」

「俺が酔っ払った時に介抱してくれたんだろ?瑞生さん達に教えてもらって、俺もハッキリとは覚えて無いんだが…朧げには覚えてて……迷惑かけてごめんな。水くれてありがとう」

「あぁ!あれか!雛菊すっかり忘れてたよ〜迷惑って思ってないよ?あんなにふわふわ酔っ払っちゃう人初めて見た!面白かったから気にしないで!」

「そ…そう、なのか?ふわふわ……面白かったのか、まぁ雛菊が嫌な思いしてないなら良かった」



 雨音さんは頭を下げてお礼を言って、雛菊はそんな事全く気にしていません!って感じでニコニコと笑っている。

 瑞生さん達に教えてもらったって事は殆ど覚えていないんだろう、水の事だけは朧げには覚えてるって感じなのかな?

 覚えていないのに態々お礼と謝罪を言いにくるなんて律儀な人だ。

 でも、雛菊と和やかに微笑み合ってるのはちょっとモヤモヤするかも……。

 いや、2人にその気が全くないのは分かってるんだけど……分かってるんだけど、なんとなく嫌?と思ってる自分がいる。

 微笑ましいともほんの少し、思ってるんだけどね?

 


「俺の事もお兄さんとかお兄ちゃんって付けずに呼んでからで構わない」

「……あまねっち?」

「すーー、そっちの方向はやめてくれ」

「じゃあ雨音くん!」

「雨音くん!」

「それなら呼ばれてもムズムズしなくて良いな、ありがとう」



 その後私と雛菊は自室に戻っていつものようにゴロゴロしていた、数分後DNAの結果が出たと保弘さんが部屋にやって来た。

 本当に数分で出来あがっちゃうんだ、どんな技術なんだろう。

 DNAの結果なんて見なくても、私にとって残念な結果である事には変わらないんだよね。

 だってあれが父親とか普通に嫌でしょ?雛菊とあれが血が繋がっているのも嫌だし。

 でも今は父親を心配していて、父親だと証明できて嬉しくてたまらないと喜ぶのが正解のはず。

 これが割と心に負担が掛かるんだよね。

 自分で選んでやってんのにバカだと思うよね、私も自分で思う。



 

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