第六十九話『招かれざる客』
それから数日が過ぎた。
私達施設組は京さんと銀次郎さん達の努力の甲斐もあり、殆どの子がようやくふっくらとして来て子供らしくなって来た。
クルミさん達もガリガリだったのが平均的な体型になった。
ま、3食昼寝付きおまけにおやつまで付いてくるんだから体型戻らないわけないんだよね。てか前よりもふっくらして来てるんだよな、このまま行くと全員まん丸くなってしまう………早急に運動方法を考えなければ。
銀次郎さん達の料理はバランスのいい食事だから、ブクブク太る事はないとは思うけど動かないのは絶対に良くない。だって取り込んだエネルギーを使ってないんだもん。
ただ、栄養失調を改善する為にカロリーの高い食事を用意してくれていたらしいんだけど、これからは通常のカロリーの食事に徐々に戻して行くらしい。
体型が戻ったからね!
広間で組員達と同じ食べ物が食べられるようになり雛菊は毎日とても嬉しそうだ。
今日もいつもと同じように朝食を食べて食器を片すついでに銀次郎さん達にお礼を言って、調理場を後にしようと暖簾をくぐったら目の前に人が立っていた。
「やっと見つけたわ……あんた達動きすぎなのよ。本っ当、探すの苦労したわ」
「健剛お姉さん!」
「お久しぶりだね!柊達に何かご用?」
「御用がなきゃ態々探さないわよ。総一郎様が呼んでるから着いて来なさい」
「よく分かんないけど、はーい!」
「楽しい事だといいなぁー!」
突如現れたのは健剛さんでどうやら私達を探していたようだ。
でもこの人が直々に来るのは珍しいな、いつも若衆達に頼んでるのは見かけるけど自分で動いてるのは見た事ない。総一郎さんの命令だと自分で動くのかな?
呼び出しの内容は私達に伝えずに総一郎さんの下に連れて行くだけなら健剛さんじゃなくてもいいと思うけど………絶対にお断りだけど、この前みたいに雨音さんや虎徹さんに迎えに来させるでも良いと思うし……よく分かんないなぁ。
私がグルグルと1人で考えている間雛菊が健剛さんと話していたようで、何気に話が盛り上がっていた。
髪の手入れとかネイル可愛いとか、雛菊がキラキラした目で伝えて健剛さんが満足そうに笑っている感じ。
2人の話はどんどん盛り上がっていたが総一郎さんの部屋に着いてしまったので、泣く泣く話を終えたようだった。
あとイメージ通り、健剛さんはしっかりと入室の許可を得てから入る常識的な人の様で、総一郎さんの苦労が1つ増えなくて良かったよ。
総一郎さんの部下は約2名ほど、ノック無しのイキナリ入室する人がいるから苦労してるだろうな。
何弘さんと何翔さんとは言ってないよ?
保弘さんはやってる現場見たけど、日翔さんはまだ見てないからイメージで言ってるだけだし。
あ、名前はっきり言っちゃった。
へへ。
「2人とも何度も何度も呼び出して悪いな」
「全然良いよ!」
「でもどして呼び出されたの?」
「あぁ、朗報だぞ?お前達の母親が見つかった」
「「!!!」」
母親を見つけてくれた………思ったよりも早かったな。
探してとお願いしてからまだ1ヶ月も経っていないのに………総一郎さん自身が優秀なのか、優秀な部下がいるのか。
あ、でも施設を探し出せるくらいだからみんな優秀か。
「お母さん見つけてくれたの!?今すぐ会える?」
「会いたい!」
「今すぐは厳しいな。一応身辺調査も終わって連絡は取ってるんだが、お前らの母親がいたのは魔法国だ。すぐに手続きして出国と言うわけには行かないみたいだからな。数日、下手したら数ヶ月はかかるな」
「……そっかぁ。残念だけどしょうがないねぇ〜、お母さんにだってお仕事とかあるだろうし……雛菊が待ってる!」
「柊も!いつでも待ってるから、必ず会いにきてほしいな!」
魔法国からの出国はルゥかオリバーさんに言えばどうとでもなるだろうけど、そこまで急ぐ必要はない。
今はそんなに危険な状況でもないからね。
まぁ、私達の父親がこっち向かってるってルゥから連絡を受けたばかりだけど、お母さんには是非それが片付いてからこっちに来て欲しい。
むしろ片付いてからじゃないとお母さんが傷つく可能性がある。
総一郎さんの事だ、どうせお母さんの事を調べてるんだから父親の事も当然調べてるでしょ。
保弘さんは私達を可能な限り家に帰すと約束してくれた。帰す為には親などに何の問題もないか必ず調べるはずだ、そうじゃないとまた親に売られて同じことの繰り返しだ。
今度売られたら守ることが出来ない。だって、私やサイモンさん達はいないから、見つけ出して助けられる保証もない。
そんなの王様の命令でせっかく苦労して保護したのに、無駄以外の何者でもないからしないよね。
お母さんの事は一旦総一郎さん達に任せて、父親の対策を練っとかないとあの人は絶対に突然来るはずだ。
お母さんとは会わないことが1番良いけど、会ってしまったらしょうがない……また違う対処をするだけ。
「あ!総お兄さん!お母さんを見つけてくれてありがとう!」
「面倒なお願いしちゃって、ごめんなさい……。でもとっても嬉しい!ありがとう!」
「あぁ、俺らも見つけられて良かったよ。魔法国にいるとは流石に思わなかったけどな。……お前らの母親は魔法国出身なのか?」
「ん?ちがうよ?」
「お母さんはお隣の国出身だって言ってたよ!」
「隣?」
「前にいた住んでた国のお隣って言ってた!」
「お前ら、前はどこに住んでたんだ?」
「教国だよ!」
「毎朝お祈りするの楽しかった!」
教国の話をしたら総一郎さん達はとても驚いた顔をしていた。
まぁ、裁判でも出た名前だから記憶に新しいよね。父親の出身が教国だったから住んでたってだけで深い意味とかはないよ?
神様とか信じてないし、教皇の事も信じて無かったからね。
「教国の隣ってモウニフか?」
「そう!」
「1回行った事あるんだよ!もふもふのお友達がいっぱい出来た!」
「楽しかったねー!」
「ねー!」
モウニフには一度だけ行った事がある。
色々あって父親から逃げて、1ヶ月だけ住んでいた。お母さんの親はとっくのとうに亡くなっているので頼れる人は居なかったけど、見ず知らずの人間である私達をモウニフの獣人達は快く迎え入れてくれて住む場所も貸してくれた。
仕事もしなくて良いと言われていたけど、お母さんの性格的にタダでお世話なるなんてあり得ない、とすぐに働きに出てたけどね。
仕事も紹介してくれて本当に良い人しかいなかった。
「雛菊ちゃんと柊ちゃんのお母さんは獣人なの?」
「ううん、違うよ?お母さんのお母さんのお母さん?が猫さんだって言ってた!」
「お母さんのお母さん………ひぃおばあちゃんとかかな?」
「多分!」
凄くいい国だったけど、結局追いかけて来た父親達に捕まって教国に戻ったんだよね。
そっからがまた地獄の始まりって感じで最悪だったな。
……今地獄の話はしないよ?気分が重くなるからね、思い出したくも無いし。
まぁ余裕が出来て気が向いたらか、必要に迫られたら話すよ。
「魔法が使えないのに入国出来るのね」
「出身でもぉ〜無いのにねぇ〜」
「お知り合いがいるって言ってたよ?」
「お友達にお願いしたのかも?」
それは簡単、ルゥがいるから入れてもらえただけ。ルゥがいなくても疲れ切った人間を迎え入れない程魔法国は冷たく無い。
それに魔法国には悪人かそうで無いかを判断できる魔法とか魔法具があるんだよ、それで判定して大丈夫そうなら入国出来るらしい。
極めて稀ってルゥが言ってたし、例え悪人が間違って入国出来たとしても魔法国の住人に魔法でボッコボコにされて国外に放り出されるから心配ご無用ってオリバーさんが言ってた。
魔法使いっていうと小柄で非力ってイメージする人多いけど、割とそうじゃ無い肉体派の魔法使いも多くいるから調子乗った犯罪者は返り討ちに合うらしい。
取り敢えず総一郎さんの話はお母さんを見つけたと言うだけの様なので、幹部の皆様はお忙しいだろうから早々に帰る事にした。
健剛さんにお忙しい総一郎様の邪魔をせずに帰れと言われたしね。
嫌われてるなぁ、別にいいけど。
組長室から出て自室に向かって歩いていると、玄関の方から誰かが言い争っている様な声が聞こえて来た。
「誰か言い争ってる?」
「敵対勢力との抗争、とか!」
「流石にそれは無いでしょ」
「気になるから見に行こ!」
「危ないかもよ?」
「大丈夫だよ!ちょっと見るだけ!」
なんか、保弘さん達と出会った時みたい。デジャブってやつ?
あの時もこんな会話した気がする。あの時は雛菊と一緒には行かなかったけど、ここの組の場合は離れるより一緒にいた方が安全だ。
陰から見る分には問題ないでしょ。
……それにルゥから手紙が来たばかりで言い争ってる声って、父親の可能性もあるから念の為確かめないとね。
そんな訳で2人でコソコソと玄関の死角になる所から入り口を見たんだけど、嫌な予感的中でしたわ。
厄介事が予定よりも大分早めにやって来た。
私が想像していたのとは違った形で……。
「私は娘に会いたいだけなんです、お願いします!一目でもいいので会わせて頂けないでしょうか!」
「いや〜困るっす!アポも無しに突然来られても会わせられないっすよ!そもそもひなっち達の本当の父親かどうかも確認しようがないっすもん」
「ですから、娘に会わせて頂ければ私が本当の父親だと理解して貰える筈です!」
「いやいや、それが無理なんっすよ!自称父親を名乗る怪しい奴の前に小さい子供連れて来るなんてあり得ないっす!」
言い合いをしていたのは予想通り私達の実の父親名前はドゥエイ……て覚える必要無し!
それの相手をしているのは意外な事に虎徹さんだった。押しに弱そうな人だと思ってたけど、案外しっかり対応をしている。
てかひなっちって何だ?私達のあだ名?じゃあ私ひいっち?語呂悪……この前まで雛菊ちゃん柊ちゃんって呼んでたのに何で呼び名変わった?変な人。
いや、あだ名のことは一旦置いておこう。
今1番気になるのは父親の方だ。
突然来たことが気になるとかじゃないよ?
私達が知っている父親は人に敬語なんて使わない、虎徹さんみたいな子供の様な容姿の人間には特に乱暴な態度で頭なんて下げたりしない筈なのに、今は虎徹さんに深々と頭を下げている。
あいつは目上の人にも目下の人にも横暴な態度をかます、とんでもなく考え無しで命知らずだった筈だ。
私達と離れた後に改心したのかと疑う程だが、残念ながらそんな事はない。
オリバーさんからの定期連絡で性格は昔のまま、ギャンブルに暴力にカツアゲ、犯罪にもガッツリ手を出していると報告を受けている。
まぁ、例え改心していたとしてもあの父親と住むなんてごめんだ。
アイツに着いて行ったら雛菊とは離れ離れになるし、あのゴミ共ももれなく付いてくるんだから、考えただけで吐き気がする。
「君では話にならない!!私が自分で探すから退いてくれ!!」
「ちょちょちょ!勘弁してくださいっす!今上司を呼びに行ってるっすから、ここで大人しく待ってて欲しいっす!」
虎徹さんが1人で対応しているのに違和感があったんだけど、なるほど誰かが幹部を呼びに行っていたのか。
でも、引き止め役ならガタイが良い人間が適任だ、今の様に押し入られてしまっては虎徹さんの様に小柄な人は吹き飛ばされてしまう。
今の父親は小綺麗な格好をしているけど実際はゴロツキみたいなもんだし、力で押し切られたら敵わないと思う。
虎徹さんがどれ程の実力を持っているか知らないけど、本当に小柄だからね。
「柊どうしよう、あれは止めた方がいいよね?」
「…私達が出て行って止まるかは謎だけど、雛菊は助けたいんでしょ?」
「うん、だって虎徹お兄さん困ってるし一応雛菊達のお父さんだし。用があるのは雛菊達、なんだよね?」
「はぁ、あんなのと血が繋がってるなんて最悪。雛菊の視界に入って欲しくないし、入れるもの嫌」
「そんな事言わないの〜あの人が居なかったら、雛菊達は生まれてないんだよ?それだけでも感謝しないと。他の事は恨んでもいい!」
「本当に良い子だ、父親の血流れてないんじゃない?……まぁしょうがないから雛菊の言う通り、私達を作ってくれた事には感謝しとくか」
雛菊が止めようと言うから仕方なく行くだけで、私は正直父親に一欠片の情も抱いていない。
虎徹さんが可哀想すぎるからって理由でも行くだけ。
よーし、とっとと追い出して雛菊とおやつ食べよ〜
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