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第六話『数年前のこと ルゥ登場』


 まず2人を助ける為には誰にもバレずに私自身が施設の外に出る事が必須となる。

 これに関しては正直なんの問題もない。

 殆どの施設職員が2人の捜索に駆り出されている為施設内はガランとしているのだ、なので今の内に外に出てしまう。

 脱走行為は最悪殺されるので誰も逃げないという固定概念が2人の脱走を手助けし、イレギュラーに弱い施設長のパニックに乗じて私が外に出るという行為が完全に見逃されてかなり楽に出れた。

 ただ商品保管区域は地上からとんでもなく離れた地下にあるので普通に移動するだけでも40分くらい掛かってしまうのがとても厄介だった。




 外に出て最初にやる事は2人を探すこと、これに関しても問題なく見つけることが出来る。

 幸太郎さんも結衣さんも頭に花畑を育ててるタイプじゃない、意外に冷静に物事を見ることが出来る人達だ。そんな人達は遠くには逃げない。

 追い付かれると分かっているのに森を抜けることを優先するとは思えない。

 確実に逃げることを考えるなら森に身を隠して捜索の手が緩む瞬間を待つはずだ。

 だから探すのは街とは反対の木々が生い茂る北側。




 数分の捜索で2人の事を見つけることができた。

 ほらね、やっぱり私逃亡者見つけるの天才的に上手いかも。

 私の推測も概ね合ってたしね。



「しばらくはここに隠れて、身を隠しやすい夜になったら一気に森を抜けて隣町まで行こう」

「隣町で少し休んだら日の出前にそのまた隣町に行く。それを繰り返して行くんだよね」

「うん、それを繰り返して僕の実家まで行こう。そこには兄さんもいるからきっと助けてくれる」



「なるほどなるほど、確かに駆け落ちにしては良い計画だとは思うけど、柊的にはあんまりおすすめしないかな〜」

「「!?」」



 2人の作戦を木の上から聞き却下を述べると驚きの表情を浮かべながらこちらを見上げた。



「ひ、いらぎ…?」

「柊ちゃん、どうしてここに…」

「それはもちろん、何の計画も練らないで突発的に駆け落ちをした2人が心配だったからだよ?」



 これっぽっちも心配などしていないし駆け落ちなんて余計な事してくれやがってとしか思っていないので、軽く嫌味を織り交ぜて白々しい嘘を付いた。

 2人は今だに動揺しているのでその隙に用件だけ言ってしまおう。



「夜に逃げるのはとても良い考えだと思うし、日の出前に出発するのも賛成、家に行くのもまぁあり?でも2人は大きな勘違いをしているよ?」

「…勘違い?」

「2人がどこに逃げ込もうとどこまで逃げようと施設長は絶対に諦めない。だって人身売買なんてバレた時点で一発アウトだよ?長年やってる施設長なんて死刑確実じゃない?それなのに施設の場所の情報も商品保管区域の行き方も知ってる貴方達を施設長が諦めると思う?」

「…家に着けばなんとか」

「家に着いたところで施設長は諦めない。2人にかける時間と費用か逮捕と死刑だったら前者の方がマシでしょ?施設職員は例外なく捕まって最悪死刑。そんなの誰だって嫌に決まってる。だから監視の人もお世話してくれる人もみんな必死になって2人を探してるんだよ。……諦めると思う?コウくんのお兄ちゃんがどれだけ凄いのか柊は知らないけど、それでも2人の口を封じて仕舞えばどうとでもなるって考えるのが施設長だよ」

「……」

「ひいらぎ、頭良いとは思ってたけどいつもそんな色々考えてるの?」



 私は基本的に雛菊以外には素を出さないようにしている。

 比較的信頼を置いているサイモンさんやアグリさんにも殆ど見せることがない。

 うっかり出ちゃうことはたまにあるけどね…

 隠している理由は、他人に柊という子供はこういう性格で好きな物はこれで好きな色はこれ、などという事を知られたくないから。

 その小さな情報から私という人間の心の奥底を覗かれてしまうのではと恐怖を感じるから。

 知られたら全部奪われるんじゃないかって信用したらまた奪われる………そう思ってしまう。

 だから本当にこの人になら全て教えて裏切られても後悔がない、という人にしか素を見せる事が出来ない。

 そんな人雛菊とお母さんしかいないんだけどね。




「柊が頭良いのは前からでしょ?そんなに驚く事ないよ!そんな事より2人が安全に逃げられて、かつ永遠に追われない方法があるんだけど……聞く?」

「………一応聞くけど、それってどんな方法?」

「ふふっ、これから2人には……死んでもらおうと思います!」


 

 私がそう言うと幸太郎さんは顔を顰めて結衣さんは真っ青になり震えていた。



「永遠に追われないって、僕達の命を奪うって事?」

「ん?違うよ?いや、そうとも言うんだけど本当に死ぬわけじゃない」

「…じゃあ、どういうことなの?」

「んー、まぁ2人に死んでもらう為には柊1人じゃ限界があるから助っ人を呼ぼうと思う!その人がどんな人なのか理解したら話は簡単だから」



 そう言って柊はポケットから虹色のビー玉の様なものを取り出して、力一杯空に放り投げた。

 空に投げられたビー玉はそのままゆっくりと上がって行き、地面から10m離れた所で静かに弾けて眩い光を放った。

 光が引いて行くと金色の髪に冷たいベイビーブルーの瞳の女性がその場に浮かんでいた。



「柊、私はお前が緊急事態の時に使えとその魔道具を渡したのだ。私に何の関係もない興味もない人間を助ける為ではないぞ」



 男口調とは裏腹にキツめの美人でナイスバディの白衣を身に纏った女性は現れた瞬間に状況を見ていたかのように理解して厳しい目付きで柊を見下ろしている。



「ごめんルゥ、でも2人が生きていないと雛菊が悲しむ。私は雛菊さえ幸せであればいいし面倒方は嫌いだから早く済むようにルゥを呼んだ」

「…はぁ、お前はいつもそれだな。柊の為ならいくらでも手を貸す。雛菊にも借りがあるから今回はその我儘を受け入れてやる。あの傍迷惑なカップルでも何でも引き取ろう」

「ありがとう、ルゥ」

「例など要らん、またお前の好きな物を1つ私に教えろ」

「…えー………すごい嫌だけど、助けてもらってるもんね。…でも好きな物結構教えてるしなぁ〜………あっ生姜焼きとか?」

「ほぉ、生姜焼き。これまた聞いた事がない名の食べ物だ。どんな物だ?」

「どんな物…肉に生姜を磨って漬けて焼く料理だよ」

「生姜を使うのか?あの禍々しい植物を使うとは正気とは思えんな。しかし試してみたい、今度作れ」

「はいはい、この世界の生姜ってルゥが顔顰めるくらいヤバいの?見るの怖くなってきたよ」



 ルゥは私が隠したがっている事を正確に理解して、お願いをすると私が隠している事を1つ教えろと言ってくるのだ。

 金銭は潤沢にあるから要らないと言われるし、私自身を差し出しても必要ないと言われる。

 本当に私の奥底を覗こうとする、私が1番嫌がっている事をするのがルゥは大好きなのだ。



「とりあえずあの馬鹿共を捉えるか」

「馬鹿ども?……あれ?2人があんな遠くまで…」



 どうやらルゥを呼び出した時には逃げ出していたようで2人は遥か遠くにいた。



「ごめん、全然気づかなかった」

「別に構わない。捕まえれば良いだけの話だ」

「………殺さないでね?」

「私をなんだと思っているんだ…殺すわけないだろ。しかし、死なない程度には甚振る。あのゴミ共はこの私の労働を1つ増やしたんだ、当然だろ?」

「ぁ、はい」




 そこからは愛し合うカップルと最強無敵の魔法使いとのそれはそれは短い短い鬼ごっこが始まった。

 

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