第六十八話『見分けられる人に』
昨日は最悪だった、当然監視されているとは思っていたけどまさか組織のトップである総一郎さんが接触してくるとは。
全くの想定外。
めっちゃ難しいけど当分手紙は送れない、やり取りは普通の手紙に暗号を散りばめる様にする事を手紙に書いてルゥに送らなければならない。
今でも十分に怪しいけど、内容が少しでも分かる手紙を送ったり送られたりすると1発で私が真っ黒だとバレてしまう。
はぁーー、面倒だ…面倒全部だるい……………よし今日は一日中寝てよう。
この考えがフラグを立てたのか知らないけど、私は数秒後に叩き起こされることになる。
「ひッーいッーらッーぎぃー!わたしとあそべー!」
「ふみぎゃあッッッッッ!」
「あごめん」
朝っぱらから部屋の扉を乱暴に開け、私がぬくぬくと寝ていた布団の上に元気にダイブして来たのは、ソヒョンだった。
「……ソヒョン……早くおりてあげないと…………柊が潰れちゃう……」
「えー、大丈夫だよな?な!柊!」
「……大丈夫ではない。でもソヒョンは軽いからまだマシかも……だからって次もダイブしようとか考えないでよ?普通に死んじゃう」
「りょうかいだ!」
「ルオシーも心配してくれてありがとね」
「……全然……柊が潰れなくて……良かった……」
私の上を陣取っていたソヒョンを止めたのは、のんびり部屋に入って来たルオシー。
2人とも施設に居た時よりも大分顔色が良くなって、なんなら少し肉が付いて来て健康的な子供になりつつあった。
湊崎組の人達には感謝感謝だね。
「2人とも朝からどうしたの、何かあった?」
「何があったとかではない!ただ、健康的な生活に飽きた!なんか面白い遊び教えろぉー!」
「……ソヒョン以外の子達も……みんな暇してる………安静にしてなきゃいけないのは…分かってる……でも…本もないし……暇潰せる…体を動かさない遊びが……ない」
ソヒョンとルオシーの言葉を聞いてそうかと思った、私は書庫の本があるけど子供達が遊べるおもちゃとかがなかった。
オリバーさんにお願いした絵本などは届くまでにまだまだ時間が掛かるだろうし、今すぐに遊べるものがないな。
しかし、施設にいた数年で地球の有名な遊びは教えてしまった、そもそも私は遊びに詳しくは無いので有名なもの以外分からない。
「う〜ん……暇つぶしかぁー」
「なんでもいいぞ!つまんなくてもいいんだ!新しい何かをやりたい!」
「新しいものなんて思い浮かばないよ。もう、鬼ごっことかかくれんぼじゃダメ?」
「…‥かくれんぼこの前までしてた……でも危ない場所も多いからって……ダメだって…」
「鬼ごっこもクルミにダメって言われたぞ!廊下に高そうなツボがあって、それを割ったら大変だからって!」
「そうかあー」
振り出しに戻ってしまった。
もう、定番のクイズとかでいいかな。
「じゃあ私がクイズ出すからそれでいい?」
「うーん、まぁ仕方ないな!それで我慢してやる!」
「大分偉そうだな」
「雛菊も起こして一緒にやるぞ!」
「あ」
そういうと私が止める間もなく、私にした時と全く同じ様に布団で寝ている雛菊にダイブして起こしていた。
で、ルオシーに止められるところまで私と全く同じ流れだった。
私と雛菊は朝の支度を終わらせて、子供達が集まっているという部屋に赴いた。
因みに今日の服はチュニックワンピースです。
見せパン履いてるから本物の下着は見えないよ?……こんな子供の下着なんて不審者とか変質者とか異常者以外見てもなんとも思わないと思うけど。
部屋に着いたら早速プチクイズ大会を開催した、景品などは御座いません。
私が問題を出して行き、答えが思いついたら挙手をしてもらい名前が呼ばれたらその人に回答権が発生するルールにした。
名前を呼ばれる前に答えを言った場合は子供達全員からのくすぐりの刑に所する事となった。
私はなぞなぞの定番、入り口は1つ出口は2つこれなーんだを問題で出し、雛菊がズボンと元気良く答える。
あとはローテーションで問題を出して、それを何往復かした……子供達は飽きる事が無いのか全く終わる気配がない。
「なーんや楽しそうな声聞こえる思たら雛菊ちゃんと柊ちゃんやないの、何しとるん?」
「あ、ひーくん!今みんなでクイズ出し合ってるの!ひーくんこそ何してるの?」
「健剛さんに捕まってしもうてお使い頼まれたんよ。あの人は俺ら下っ端をようこき使うさかい!……これにしてもクイズか、おもろそうやな!俺も混ぜてくれへん?」
クイズをして数十分経った今、急に襖が開いてひかるさんが顔を出し雛菊と会話をしながら部屋に入って来た。
ひかるさん、さては保弘さんと同じ人種だな……楽しそうな声がしてもノックなしに開ける事ないよ、ないよね?
突然入って来たひかるさんに人見知りが激しい数人の子供達が怯えた様に人の影に隠れたり、身を縮ませて固まったりとしてしまった。
その子供達の様子にひかるさんは申し上げなさそうな顔をして、やっぱりお邪魔やし帰るわ!と部屋を出て行こうとしたのを雛菊が止めた。
「みんなひーくんの事まだよく知らないから隠れてるだけだよ!一緒に遊んだら、慣れてくるから一緒に遊ばない?少しだけでもいいから!」
「せやけど…」
「みんな良いかな?ひーくんは殴ったり怒鳴ったりする大人じゃない、大丈夫な人だよ」
「優しい人だから大丈夫!」
雛菊と私の言葉に子供達は困惑と疑い、恐怖や興味そんな表情や言葉を並べてみんなでコソコソと話している。
「本当に大丈夫なのかな?」
「ひなぎくとひいらぎはだいじょうぶって………でも、こわい」
「2人が言うなら大丈夫だろ!それにみんなで飛びかかったら余裕で勝てる!」
「……飛びかかったら危ないから………まずは周りにある道具を投げて応戦しろ………って柊が言ってたよ……」
「じゃあそうしよう!」
話し合いが終わったのかソヒョンとルオシーがこちらを振り向いて、コクリと1回頷いた。
その合図を見て私と雛菊はひかるさんの手を引いて、遊びに参加させる。
「せっかく人数がいるからトランプでもする?」
「いいな!ジジ抜きやろうぜ!」
「わたし……神経衰弱……やりたい」
「はいはい!雛菊は大富豪やりたいよ!」
クイズ大会は一旦中断して大人数で出来る、トランプ遊びに切り替えた。
みんなそれぞれの好きなトランプ遊びを言って行き最終的にジャンケンで決めることになった。
じゃんけんで決まった遊びはジジ抜き、ソヒョンが飛び跳ねて喜んでいた。
最初こそ大人の男性がいる事の緊張でみんなぎこちなかったけど、ひかるさんの柔らかい言葉やニュアンス?緩やかな雰囲気に段々と緊張が解けていった。
ひかるさんの激しくない動きも良かったのかも。
みんな猫みたいだね。
ひかるさんは懐いて側にいる子供達に嬉しそうな顔を向けているし。
「ひかる!次はこれで遊ぶぞ!」
「……これ……これも………やる?」
「待ちいや!ひかるさんは1人しかおらへんねんで!」
子供達がひかるさんを取り合っているとひかるさんが来た時と同様に襖が勢い良く開き、何事かと顔を上げたらとんでも無くブチギレた顔の未来さんが立っていた。
チラリとひかるさんの顔を伺うと、素晴らしくてスタンディングオベーションしたくなるほどのやっちまった顔していた。
わお、すごい。人の表情って無限大だね。
「み、未来……」
「お前何してんの?」
「ち、違うんだ未来。一旦話を聞いてくれ……」
なんか、浮気したのがバレた人みたいな発言。
「お前こんな所で何楽しそうに遊んでんだよ。俺らが寒い外で凍えそうになりながら仕事してる中?あったかい部屋で大層なご身分だな?」
「ちっちがうんや!交流というかやな!この子達の事を少しでも知って仲良うなって、安心して欲しかってん!」
「もっともらしいらしい事言って、ただ遊びたかっただけだろ!仕事サボってんじゃねぇ!」
「ひぃーーーー!堪忍やで未来ー!」
言い訳を言ったけれど未来さんは聞く耳持たず、ひかるさんはヘッドロックを決められていた。
私達が安心する様にと気にかけてくれていたのか。
遊びに参加したのは普通に偶然だろうけど。
「未来くん違うんだよ!雛菊が遊ぼって言って引き止めたの!」
「ひーくんは悪くないんだよ!帰るって言ってたのを柊が引き止めたの!」
「………2人が引き止めたのは、こいつが仕事だと知らなかったからだ。知ってたら引き止めてなかっただろう?こいつが一度でも仕事だと言ったか?仮に言っていたとしても、仕事があるんだと上手く断るのが大人だ」
「………どうして………だめ?……大人は……遊んじゃいけないの?」
大声で怒っている未来さんに子供達は怯えていたけれど、ルオシーは流石に肝が座っていて自分の疑問を未来さんにぶつけていた。
ソヒョンを背に庇っているのに聞いているって事はよっぽど気になったんだろうな、いつもならソヒョンが隠れたら怖がらせない様に隅で静かにしてる事が多いんだよね。
「遊んじゃダメってことはない。でも俺達大人は仕事をしてその対価に金を貰ってる。それなのに仕事をサボって遊んでいたら、俺達を雇ってくれてる総一郎様……ここの組長な、その人を裏切る行為なんだよ。助けてくれて、信用してくれて、目をかけてくれてる人を裏切るのはダメだよな?」
「……うん……助けてくれた人には……精一杯の恩を……返したい。……お兄さんも……命を…助けてもらった…?」
「そうだ、俺達は総一郎様に助けてもらった恩を返して行きたいんだ」
「……そっか……私も……恩を返したい。……お兄さんと私……仲間だね……」
ルオシーの疑問に未来さんは丁寧に説明して、ルオシーも納得していた。
ルオシーは私と雛菊に感謝していると言うことが良くある、全く気にしなくて良いと言っても自分がやりたい事だからと一歩も引かない。
未来さんも真面目でルオシーと似ている所がなくはないから、仲間認定したのかも。
警戒心が強いルオシーにしては珍しい。
ソヒョンは怯えていたけどルオシーと未来さんの会話を聞いて落ち着いたのか、会話の途中でルオシーの背中から出てきて話を聞いていた。
「ひかるは見つかったかなー!」
「見つかったならさっさととっ捕まえて、お仕事再開するわよ〜!」
未来さんと一緒にひかるさんの捜索をしていたであろう恋さんとゼンさんも、襖から顔を覗かせた。
ゼンさんは4人の中で1番体が大きいから、その巨体に子供達が少し怯えていたり、女性口調に不思議な顔や混乱している顔をしていた。
「あら!可愛い子が沢山いるわね」
「本当ですね〜僕より可愛らしさは劣りますが、とても可愛らしいと思いますよ」
「あんたより100億倍可愛いわよ」
子供達を視界に入れた途端、目の色を変えて凝視する恋さんとゼンさんに子供達は再度固まってしまい、部屋の隅に逃げていた。
来るならいっぺんに来て欲しい、怯えて慣れて怯えて慣れては可哀想でしょ。
「お前らねっとり見んじゃねえ!変な目で見るから怯えてんだろ!」
「侵害ね!可愛いものをそういう目で見てるだけよ!」
「僕より劣っていても可愛い事に変わりはないんです。じっくり見るのは当然ですよ?無論無断で見ているのですから、美しい僕の事もじっくりたっぷり見ていただいて構いませんけどね?」
「………どっちでもええけど、子供達が怯えとるからやめたってな?」
騒がしくなってきたな、ゼンさんのガン見は目が決まっててちょっと怖いし、恋さんの視線は思考が読めて嫌だな。
可愛い……けど僕の方がもっと可愛く美しい!と目が言ってる。
ひかるさんを誘っといてなんだけど、そろそろお昼の時間だし帰ってくれないかな。
「おっと、騒がしくして悪かったな。お前達も怯えさせたよな、すまん。もう帰るから安心してくれ」
「……平気……知らない人に……びっくり…してるだけ……」
「そうそう!一緒に遊んだら最後、2度と離して貰えないくらい引っ付かれるよ!」
「未来くん達のケンカ面白かったから大丈夫!」
「……知らない人じゃなくなれば、隠れる事がなくなるって事か」
「喧嘩が面白いってひいちゃんの感性どうなってるのかしら?」
「誘ってくれてありがとうな!また遊びに来るさかいそんときは宜しゅう!」
「うん!ひーくんまたね!」
「今度はお仕事サボらないでみんなで遊びにきてね!」
「……今度……ひーさんと………遊びに来て……クイズ一緒に……やろう」
「俺か?クイズはあんま得意じゃねぇけど、それでも良いなら喜んでやる」
「ひかる!…今度は鬼ごっことか、しようぜ!」
「楽しみにしとるわ!」
ひかるさんは子供達に挨拶をしながらゼンさんに引き摺られて行った。
ルオシーは未来さんの事が気に入ったのか、珍しく自分から遊びに誘っていて、ソヒョンもひかるさんに懐いて……知らない人達に怯えながら頑張って顔を出していつもの様に明るく振る舞い手を振っていた。
他の子達も未来さん達が来てから隅にいたけど、ひかるくんが帰るとなったら出て来て大きく手を振っていた。
今度はサボらずに未来さん達を連れて遊びに来てくれるといいね、子供達が組の人達に懐く事は悪いことではないから。
家族の元に帰れる子もいれば帰れない子もいる。
その子達が徐々にでいいから外の人は怖くない、自分より大きい人は怖くない、サイモンさん達以外にも怖くない優しい大人がいる事を知って欲しい。
優しい人と優しくない人の見分け方も教えていかないと、また悪い人達に利用されちゃうからね。
ここは良い教材だ。




