第六十七話『安心してほしい』
「ふあ〜……柊もう眠たいから、お部屋お部屋戻るね?総お兄ちゃんおやすみ〜」
「あぁ、おやすみ。良い夢を見ろよ」
柊が部屋へと消えた後、総一郎は縁側に座り込んで月を見上げていた。
「良かったんですか?文通の許可なんて出して。手紙を事前に確認したところで、暗号なんて使われたら意味ないですよ」
「……やっぱりいたな海斗」
「柊ちゃんが夜中に頻繁に起きている事は把握していたので」
柊はこの組に来てから夜中に起きて、よく縁側に座っていた。
その現場を仕事帰りの海斗は見ていたようで、その日から柊を自ら観察したり……仕事の時は黒衣達にお願いをして監視していた。
それなのに……
「はぁ、お前柊のあれ知ってて俺に黙ってたな」
「何か事情があるのは明白でしたので、それに柊ちゃんからは出会った当初から敵意は感じませんでした。疑いや警戒に近い感情は感じてましたけど」
「確かに柊からは敵意はねぇな。でも、敵意や殺意がなくても俺らの敵だった人間は大勢いただろ」
「そうですね〜、ですが僕がちょっとでも敵意などを見せたらあの子は絶対に心を開いてくれません」
「……そうなんだよなぁ〜」
総一郎の悩みもそこにあった。
総一郎や幹部連中は柊に会った当初から、違和感を感じていた。明るさで隠しているが常に気を張っているような、強張っているような雰囲気に気付いていた。
普通の人間では気づかないような違和感に幹部達は気付いた。
それに気付いたのは先代組長の教えがあるからだ。
総一郎は小さい頃から、幹部達は組に入ってから周りの人間にどうみられているか、そいつらがどんな目をしているかを意識しろと言われて来た。
その点で言えば柊は前世の記憶はあれど、平和な日本で育ち優しい姉夫婦と過ごして居たから視線を隠すのは下手な方であった。
雛菊の目は最初から警戒心ゼロで直ぐに懐いたというのに、柊の目は大人と同じように警戒を解こうとはしない。
行動は雛菊と同じように快活な年相応の少女にしか見えないのに目が全くそうではない…………実際若衆達は、柊の事を雛菊と同じ元気な子供と信じて疑っていない。
しかし、柊は時折子供とは思えない……重々しい顔を見せる。
それの原因を施設長……ローグ・カミラティにあると総一郎達は考えていたのだが、カミラティが消えても尚時折見せる顔は変わらない。
「早く安心して気を抜いて欲しいんだけどなぁ」
「今は難しいでしょうね。僕達ではなく外の人間に頼っていますし」
「………海斗、知ってるか?柊ここに来てからまともに寝てねぇんだと」
「えぇ、黒衣から聞いていますよ。鳥が来るのは稀なのにいつも外に出て空を見上げていると」
「京に相談したらあのままだと体を壊して死んじまうってよ。あの様子だと数年はまともに寝ていない、なのにあの元気は異常だとも言ってたなー」
「言ってましたね」
そう、柊は母親を逃してからまともに寝ていない。
母親がいた頃は、前世の自分より年下といえど親という存在は安心出来る様で何も考えずに眠っていた。
けれど母がいなくなり、親が父親だけになってから……施設に入れられてからは特に寝ようと努力をしても寝る事が出来なくなってしまった。
今は雛菊を守らなければという気力だけで立っていると言っても過言ではない。
もちろん気絶したら元も子もないので、一睡もしていないという訳ではない。
気絶は回避する程度に深く眠る事はなく、浅い眠りや目を瞑ると言った事を続けているだけ、しかしそれは大人でも辛いもの子供の体には悪影響を与え続けている。
総一郎達はそれもどうにかしたいと思っている。
「取り敢えずアイツらの母親を見つけて、組に来てもらうか。母親がどんな奴か分かんねぇけど、まともな奴なら柊が安心して寝れる様になるかもしんねぇし。少しでも信用してくれるといいんだけどな」
「そうですね。その為に2人には酷ですが、あの子達の父親を利用させてもらいますか」
「あぁ、アイツらは辛えだろうが利用出来るもんは利用しねえとな」
そんなやりとりをして2人はそれぞれの部屋へと戻って行った。




