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第五話『数年前のこと 幸太郎という人物』


 はぁーー!久しぶりに全力疾走したーー!

 子供達と遊ぶ時は手を抜いてるからあんま疲れないけど、やっぱり全力はしんどい……

 子供の体だから疲れを感じない筈なのに精神が大人だからなのか、何故かめちゃくちゃ疲れるんだよね。



「はぁーはぁーッサァイモン…さん!」

「おや?柊そんなに急いでどうしたのですか?一先ず水を飲みなさい」

「…ぷぁはっ!ふぅー。施設長室に侵入者、みんなの避難急いでお願いしてもいい?」

「…なるほど承知いたしました。マイロにも伝え迅速に取り掛かりますね」

「お願いします!あと、お水ありがとう!」



 サイモンさんは私の少ない報告に疑問を投げかける事なく素早く動き出した。

 必要なことだけ言えばすぐに動いてくれるの流石、普通何で施設長室まで侵入を許しているのかと詰める所なのにそこは置いておく事が出来る冷静な人だ。

 サイモンさんとマイロくんは大人達の誘導、アグリさんとクルミさんは子供達の誘導。

 みんな誘導に取り掛かるまで早いな。

 子供達も素直に避難してくれるから大助かりだよ。


 そんな感じで誘導は思っていたよりも早く終わった。

 しかし音は鳴り止む事はなく、むしろ激しさが増している。

 今も1回拳銃の発砲音が聞こえた。

 音の発生源が近かったのかデカい音が耳を破壊した。

 マジで鼓膜破れるかと思ったよ、もーう!ちゃんと音量注意って書いておいてよー!注意喚起がないと突然爆音は回避無理だからぁー!

……………………………

はは、誰も突っ込んでくれない虚しさよ………



おふざけはここまでにして、これからどうするかを6人で話し合うことになった。

 呑気に話し合ってる場合かとも思うけど、侵入者は施設長室から動く気配が今のところないのでこの際に決めてしまおうと思った。


「で?こっからどうすんだい?隠れてやり過ごせるのかい?」

「うーん、難しいかも…私達の事探してるっぽいし」

「探してるって…今度は違う施設に売られるって事?」

「いや、柊の口振りからしてそれは無いんじゃ?僕達を捕まえる為に来た人間なら隠れる事を選択せずに徹底抗戦するでしょ?」



 クルミさんの心配はごもっとも、しかし侵入者達に売られる心配はない。

 私が何でそんなに危機感がないかをサイモンさんとマイロくんは察しているみたいだった。



「マイロくんの言う通り売られる心配はない。それに会話を聞いてる感じ私達を連れて行くのは二の次っぽいんだよね」

「というと?」

「侵入者達には探し他人がいる。数年前にこの施設で働いていた幸太郎って人間を探してるんだって」

「「「「「!!」」」」」


 みんなが驚くのも無理はない。

 ここにいる人たちは売買組織にしては長くいる古株の面々なのだ。

 施設にいる期間が長ければ長いほど、施設職員との関わりも増えていく。

 その中でもアグリさんとクルミさんは複雑そうな顔をしている。

 それはそのはず、侵入者達が探している幸太郎という人物は2人と共に子供達の面倒を見ていた商品世話係だったから。

 


 幸太郎さんはとても明るい人で自己紹介でコウくんって気軽に呼んでね!と言ってくれた、その頃の施設職員にしては気さくな人だった。

 幸太郎さんは施設長が裏社会に流した求人を見て応募してきたと言っていた。

 その頃の施設はアグリさんとクルミさんを中心に子育て経験のある人達数人で何十人と言う子供の面倒を見ていた、もちろん私達も手伝ってはいたけどそれでも手が回らないほどに大変だった。

 なんせ最低でも3時間で起きてしまう赤ちゃんが何人もいたのだ、みんな寝不足になりながら世話をして日中は普通に業務をさせられて、正直アグリさんとクルミさんは限界だったと思う。

 施設長に訴えた事はあったけどもちろん受け入れてはくれなかったので、全員で何度も暴言を浴びせられたら殴られながら交渉を重ねたら渋々求人だけは出してくれたのだ。

 しかしその求人は裏社会に出ている求人にしては重労働の割に低賃金すぎると誰も雇われてくれる人は現れないというおまけ付き。

 いつも死ねよこいつって思ってたけど、この時程殺してやると思った事はなかったよ。

 そんな求人に快く応募してくれたのが幸太郎さんだった。


 幸太郎さんは初日から子供達と一緒に走り回って遊んでくれてたし、夜のミルクタイムも率先してやってくれた。

 寝ぼけてふらふらしながらしっかりとミルクはあげていて雛菊と爆笑したのを今でも覚えてる。

 お風呂に入っていない不潔な私達を何の躊躇もなく抱きしめてくれて、笑顔で頭を撫でてくれるような優しい人。



 そうそう、言ってなかったけどこの施設には新生児も連れてこられてるんだよね。

 地球でも子犬とか子猫とかって高く売られてたでしょ?それと一緒で生まれたての方が親の事を覚えてなくて面倒事が少ないし、連れ去ってくるのは小さいから楽なんだけど、常に側に人がいるから大変って事で高値で取引されて効率が良いと施設長がニヤニヤしながら言ってた。

 気持ち悪いね!


 中には親や親戚に売られて来た子もいるけど、本人にわざわざ伝えたりしないし、これからも知る事はない。

 歴代の赤ちゃん達は無事にまともな人間に引き取られて今は幸せにスクスクと育っていると報告が来ているので心配することもない。


 で、幸太郎さんの事なんだけど本当に良い人で自分の食事とか…石鹸とか私達に頻繁にくれていた。

 施設職員のご飯ってその日に入った新鮮な物だから栄養もあってお腹壊すこともないから本当に感謝しかなかったよ。

 石鹸も体をを拭くことしか出来なかった私達からしたら頭も体も清潔に保つことが出来て病気にも罹患しずらくなった。

 子供達も幸太郎さんの事が大好きで大人達も信用していた。


 それから幸太郎さんには施設に来た当初から気になってる人がいて名前を結衣さん、グレージュの髪と瞳を持つ顔に傷がある幸薄そうな女性。

 結衣さんは最初幸太郎さんを警戒して避けていたんだけど、幸太郎さんがめげずにアタックを続けて結衣さんが諦めて会話をする様になっていた。 警戒していた事を忘れるくらいに2人は仲良くなっていって、結衣さんは幸せそうに笑う様になった。

 でも正直、2人で駆け落ちする度胸はないと思ってたよ。私の考えが甘かった。 

 結衣さんがある商人に売られると決まったその日に2人は脱走を謀った。



 結衣さんを買ったのは悪徳と噂が絶えない商人で、女を何十人と囲って体罰やらなんやらやりたい放題している人だった。

 マユちゃんの時にしたように出来なかったのかと思うかもしれないけど、止めようとした時には時既に遅し、というか施設長が私達にわざと情報を回さなかったというのが正しい。

 結衣さんは顔に傷がある為中々買い手が付かずに1年程5号棟に入っていた人なのだ。

 施設長は特に5号棟の人達を疎ましく思っているのでどれだけ条件が悪くても売る事が昔からあるとサイモンさん達古株組が言っていた。

 

 把握したのが遅かったけど、私の方でも破棄できる様に動いている矢先に2人が脱走したので、正直に言うと余計なことしやがって、という思いが最初に溢れた。

 勝手に出て行ったのだからこれ以上世話する必要はないと見殺しにする気まんまんだったんだけど……雛菊はずっと2人を応援していたし、脱走したって聞いた時も心配そうな顔して祈ってたから?2人の事はどうでもいいけど、本当に死んだら雛菊が悲しむと思ったから?しょうがなーく!逃げる手伝いをする事にした。


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