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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第五十六話『証言・2』




「静粛に」



 ザワザワとうるさかった会場が宰相さんの大声ではない、けれど良く通る声が響いて一気に静かになった。



「お二人は確かにディオナス教国に人と銃を売ったと書いてある手紙を読んだのですね?」

「うん!人と武器を売ってくれて感謝するって書いてあったよ!」

「雛菊達ちゃんと文字読めるよ!お勉強したもん!」

「……あっ、あり得ない…!……雛菊と柊が文字を読めるわけない、わたしは知らない………。うそ……嘘に決まっている!わ、私を嵌めたい、やっ奴らに言えと……そ、そう命じられているに違いない!」



 私達の証言に施設長は顔色を悪くし、息絶え絶えながらも意義を唱えた。

 裁判が始まった時から顔色悪かったけど、自分の都合の悪い話ばかり出て来たからなのか、単純に座っている事がキツくなって来たか声を出す事がしんどくなって来たか知らないけど、裁判が進むに連れて顔色が土色へと変わっていった。

 この人の顔色とかどうでも良いけど、指差さないで欲しいし若干だけど近づくのやめて欲しい。

 雛菊の綺麗な顔にきったない唾が掛かったら可哀想でしょ。



「柊達ちゃんと文字読めるよ?自分の名前も書けるもん!」

「お母さんの名前も書けるよ!」

「うっ、うるぅさいぃ!…は、お前らは黙っていろ!はぁッ……口答えするなッ!」

「では文字の読み書きが本当に出来るのか、この場で試してみましょう」



 試してみようと言った宰相さんは、あらかじめ用意してあったのだろう、側に置かれた大きめのスケッチブックを手に取って素早く何かを書き、私達の方に提示して来た。



「これはなんと書いてあるか、分かりますか?」

「「ご馳走を食べたいですか……?……わあ!食べたいです!!」」

「ふふ、良く読めましたね。それではこちらに貴方方お二人のお名前と何かお好きな言葉などを書いてください」

「はーい!」

「最近覚えた事書こー!」



 宰相さんが手渡してくれたスケッチブックを受け取って、自分の名前を書いたら雛菊に渡し雛菊も同様に自分の名前を書いた。

 私の名前の漢字は比較的簡単だけど、雛菊は画数が多いので少し苦戦していたがとても綺麗に描けていた。

 ちゃんと振り仮名も振ってて気遣いが出来るいい子です。

 私にちゃんと書けたよと自慢げに見せて来て、本当に今すぐに抱きしめてぐちゃぐちゃに頭撫でてあげたい程に可愛い。


 書いた好きな言葉は、雛菊が焼肉や蕎麦など食べ物の漢字やおにぎりとかも書いてた。

 私は最近出会った人達の名前を漢字で書いた、総一郎さんとか、保弘さん、紫さんに京さん全員の名前は書けなかったけど、いっぱい書いた。

 書いたスケッチブックを宰相さんに渡すと、周りの人達に見える様に少し掲げて見えて回っていた。



「この様にこの子達は読む事も、書く事も何の問題もなく出来る様ですよ?」

「ゔぐぅ、そッそんなの!……ょッ読む文字を事前に教えておけば…どう、どうとでも…なる!書くのだってそうだ……。柊はともかく、雛菊が自分の漢字を書けるはずがない………!」



 何を言っても否定する事しかせず、納得する様子が無い施設長に宰相さんは呆れたようにある事を提案した。



「往生際の悪い……。では、貴方が書いたものをこの子達に読ませてみては如何ですか?……お二方、申し訳ございません。たくさんお話をして疲れていると思いますが、もう少々お付き合い頂いても宜しいですか?」

「全然いいよ!」

「疲れてないし、いっぱい書いていっぱい読むよ!」

「感謝致します。では、カミラティ氏こちらをどうぞ」



 私達の承諾なんて取らずに進めてしまっても良かっただろうに、わざわざご丁寧に聞いてくれてこの人は私達が子供だからと蔑ろにしないいい人だな。

 この国のNo.2がマトモそうな人で良かった。

 私達に丁寧に話しかけてくれた宰相さんは、とても面倒くさそうに施設長にスケッチブックとペンを渡していた。

 


「わたしには、奥の手があるんだ……たいじょうぶ、まだやれる。こんな所で死ねないんだよ……だいしょうぶ、雛菊と柊はわたしに従順だった、頭もいい、わたしのさっきの発言で意図を理解して読めないふりをするはずだ。わたしが死んだらお前たちは困るだろぉ?そうに決まっている、ならどうしたらいいか、バカじゃ無いんだ分かるよなあ?」


 

 なんか施設長が小声でブツブツ言ってる……。

 口の動きを読むと大体がお前らは従順だよな、とか洗脳してるんだ大丈夫……的な事を言ってる。

 しっかりと読めるわけじゃ無いから大体こんな感じって曖昧なものだけど、大方あってるでしょ。

 全くおめでたい人だよね、洗脳なんてされてるわけないじゃん。



「…書けたぞほらよんでみろ……」

「私達は、親に捨てられた必要の無い子供です?」

「…私達は、親に捨てられた必要の無い子供です!」

「……よッ読みやがった………」

「…ほぉ」

「あの野郎…」

「おやおや、この状況になってもご自分の立場がご理解出来ていないようですね?そんな事を書いたら更に立場が悪くなるといい加減理解された方が宜しいかと?」



 まぁ、この人が読めることなどを想定して丁寧な言葉書くわけないよねぇ。

 確かに施設長視点からしたらし私達は捨てられたように見えるかもしれないけど、でも私は……私達は自分達の意思で施設に行った、クズの父親を利用して。

 雛菊が首を傾げながら疑問形で言ってたのは、施設長と解釈が違うからだろう。

 雛菊からしたら母親は自分達で逃したし、父親は私達の方から捨てたも同然なんだから。

 私達は誰からも捨てられてない、でもそれはあくまでも私達の間ではって話で、外側から見たら見てられた可哀想ななんだよね。

 はぁ、必要ない子供って私に言うのはいいよ別に傷付かないし、でもさ雛菊に向けて言うのは許せないなぁ。

 総一郎さん達はイラついてあからさまに態度にも言葉にも怒りが出てたし、宰相さんはなんだか愉快そうにニコニコとしながら怒ってるし、今まで一言も言葉を発しなかった国王様は何故か感心したような声をあげていたが、表情は僅かに歪んでいた。

 宰相さんはこれを読んでいて施設長に書かせた感じするけど、それは今は置いておこう。

 施設長に向けている怒りが本心からでもそうでないにしても、貴方達のその怒りに今回だけは全面的に同意だよ。


 本当に、このクソ野郎いつもいつもいつも……イラつかせてくれる。




「今の行動ではっきりと理解いたしました。貴方には全く反省の色が見られない」

「ちっ、違います!これは……ふ、2人が読めないと思ったからこそ書いた物でッ……」

「例えこの子達が読めなかったとしても、周りにいる私達には読めます。貴方が陰湿な人間である事は違いない。はぁ、全く困りました!国王は反省が見えされすれば、重い刑は免れずとも更生の機会を与える事も考えると仰って下さっていたのに、本当に残念でなりません」

「……ッ!そッそんな!待ってくださいっ、ちょっとした出来心だっただけでどうか……どうかもう一度ッ温情をッ……ゴホッゴホッ!」



 こんなクズに更生の機会を与えようと考えてくれていた国王様達はお優しいね。

 それとも施設長を追い込む為の嘘、なのかな。

 どっちにしても可能性を自らの行動で潰してしまった施設長は終わりだ。

 宰相さんに訴えかけようと席を立った直後に、施設長はその場にうずくまり咳き込み始め、最終的に血を吐いてしまったし長くないでしょ。



「施設長、大丈夫かな。あんなに体が悪くなってるって知らなかったよ」

「ね、本当に酷い。でも雛菊は心配しなくて大丈夫だよ」

「心配はしてない!お知り合いだから気になっただけ!」



 心優しい雛菊は、心配してないと言ったけど顔が心配だと言っている。

 まぁ、今目の前にいるから心配しているだけでこの場からいなくなったら綺麗さっぱり忘れてくれたらいいな。

 心配する価値もない、こいつは骨の髄から頭の悪いクズなんだから。


 血を吐いた施設長に国王や宰相さん達は容赦なく、裁判を続行する様で私達は下がって良いと言われた。

 最後に証言台に立ったのは総一郎さん。

 総一郎さんは、売られた人達の行方について話をしていた。

 私が施設に来るよりも前に、それこそ施設設立前から被害に遭っていた人達を探しているそうだ。

 数名は見つけて今は保護し、本人が望み問題がなければ家族の元に帰す事もしているらしい。

 すごい、本当に探し出して帰してくれてるんだ……。

 正直私が施設に入れられてからは、マトモな人にしか売らないようにサイモンさん達とそれなりに頑張ったから探す必要ってそんなにないけど、私やサイモンさん達が来る前はどんな人が経営していたかも分かっていないので、探しようがなかったんだよね。

 ルゥ達にも調べてくれる様にお願いはしていたけど、進みはそんなに良くなかったっぽいし。



 総一郎さんが話している内容に施設長は絶望をした様で、顔に全く生気がない状態で俯いていた。

 血も吐いてたし、死ぬかもっていう恐怖もあるのかもね。

 全員の証言が終わると国王と宰相さんは、容赦なく判決を下した。



「被告人ローグ・カミラティは死刑。己が死ぬその時まで、罪を悔いて神に祈りなさい」

「そ、そん…な……」



 死刑を言い渡されて唖然としている施設長の姿に、私達の後ろに座っていた日翔さんがいつもの間延びした口調で

「てぇかぁ〜、死刑前にぃ〜あいつぅ死んじゃいそうだねぇ〜」

 と何だか楽しいそうに笑っていて、普通に怖いと思った。

 背後にいないで欲しい。



「……もう、もうもう、全部どうでもいいッ!どうにでもなれッ!どっ、どうせおッ俺は死ぬんだぁッ!!ならお前ら全員道連れにしてやるよぉ!!!」



 日翔さんのその言葉が聞こえたかは知らないけど、項垂れていた施設長が急に立ち上がって気持ち悪い笑顔を浮かべながら、大きく口を開けてガチッと音がする程に強く歯を噛み締めた。

 数秒間会場が静かさに包まれたが、何も起きずに施設長は動揺し始めた。



「どッ、どう言う事だ!何故お前らは生きている!何故、死なないッ!…ゴホッ」

「貴方は先程から何をしているのですか?」



 宰相さんは施設長が何をしているのか分からないだろうけど、私達には分かる。

 きっと、私達の頭の中に入っていたマイクロチップの機能……爆発の機能を使おうとしたんだろう。

 ルゥに機能を停止してもらっていたし、そもそもマイクロチップ自体京さん達に取り除いて貰ったから、施設長の今の行動は必殺技を出そうとして上手く出せなかった不発おじさんになっている。

 


「王、発言してもよろしいでしょうか」

「総一郎か、良いぞ発言を許可する」



 国王が許可を出すと総一郎さんは一歩前に出て懐から透明の袋に入ったマイクロチップを出し、会場中に見える様に掲げた。



「それは何だ?」

「これはカミラティの野郎が、施設に監禁されていた人間全員の頭の中に埋め込んでいたマイクロチップだ。取り出して詳しく調べたら、居場所が分かる機能と遠隔操作機能が備わっていた。どれも京達が取り除く前に誰かに、機能を停止されてたけどな」

「頭に…遠隔操作か。なるほどな、それをやったのがカミラティなのか。しかし機能を停止した人間は誰だ、お前の所にいる研究者ではないのだろう?」

「うちのじゃねぇな、誰がやったかの特定も出来てねぇ。この間体内調べたら遠隔操作機能があるっつうから慌てて取り除いたのに機能が無かったからこっちは拍子抜けだ」

「ははッ取り除いたことに意味があるだろう。機能停止をした者の捜索については、引き続きよろしく頼む」

「承知いたしました」



 2人は長年の友の様な雰囲気を醸し出して雑談をし、楽しそうだったが会話を終えると直ぐに冷たい空気を出して施設長を睨みつけた。



「それで?カミラティ、お前は何故死なないのかと叫んでいたがその歯に何か仕込んでいるのか?それに、マイクロチップを見た時から明らかに動揺し始めたな?お前はこのマイクロチップに人を殺す機能が付いていると知っていたと言うことだ。知っていて起動しようとしたな?」

「いえ、そ、それ……は」

「答えられないのか、黙秘や偽証をしてみろ。死刑の日を迎える事なく、今…ここで…お前の首を落としてくれる」

「ひッ…!」



 玉座に座って足を組み、頬杖をついて酷く冷めた顔で施設長を追い込んでいく国王はまるで、物語の中の魔王の様だった。

 


「わ、わたし、わたし…は、おッおれは……」



 追い詰められ過ぎて気が狂ったのか、施設長は俯いてブツブツと呟きながら怪しい足取りで私達が座っている席の前まで歩いて来た。

 私は素早く施設長から雛菊を隠した、隠した代わりに私が前に出たので施設長に肩を力強く掴まれて何故か縋られた。



「ひい、ひいらぎ、たッたすけて…くれ…。おれは、お前らに優しくして来ただろ…?しごとを手伝ってくれた礼に褒美だって、やってやった。なぁ、たのむ……頼むよ、たすけてくれ……ッ」

「優しく、してくれてたかなあ?」

「柊は、施設長が雛菊を殴ったのまだ怒ってるよ!」

「あ!雛菊も雛菊も!柊の事吹っ飛ぶくらい思いっきり殴ったでしょ!おこだよ!」

「ふ、2人を殴ったのは申し訳なかった…。でも、でもな?あれはお前たちが、悪い事をしたからなんだよ……しつけ、躾だったんだ。2人の為を思ってなんだよッ。だから、お願いだッ」



 謝られても許さない。

 躾?歩いている時にいきなり殴る事が躾?

 ご飯食べてる時に熱々のスープ頭からかけるのが躾?

 笑わせんなよ……何も知らない子供じゃない、何も知らない子でも何かおかしいと気づくレベルだろ。

 その全ての怒りを周りの人間にバレない様に、一瞬だけ施設長に向けてを睨みつけて、肩にある手を退かそうと手を上げた瞬間雛菊の方が先に施設長の手を退けた。

 雛菊がそんな事をするのは大変珍しいので、少しびっくりしてしまった。



「ッ施設にいたみんなも悪い人や親に辛い目に遭わされていたから助けてやったんだッ!あの男爵だって、良くない噂を流されていただけで……ほ、本当は心優しい方なんだよ?……引き取った子達がたまたま病気や事故で亡くなってしまっている、だけなんだッ!」



 とんでもない嘘だよ、あんたが取引してたあの肥え太った男爵は子供が怯えて逃げ惑う姿に興奮する、ゴミカス野郎でしょ?



「でも、殆どの人達が施設長達に捕まって嫌々連れてこられたって言ってたよ?」



 ねぇ、施設長。



「それはみんなが怖い思いをしていたから、記憶がこんがらがってそう思い込んでいるだけなんだよ……」



 施設長は見た事あるはずでしょ。



「そうなの?じゃあ、あの男爵さんに買われて行った子達は?手紙を送っても一度も帰ってきた事ないよ?」



 あの男爵の家から出て来た……子供達の姿。



「そッそれは!……男爵家が楽し過ぎてッ手紙を書く事をうっかり、忘れてしまったんだよ!」



 冷たくなったあの子達の顔は、涙の跡でグチャグチャで。



「もし仮に男爵が子供達に酷い事をしていたとしても、おれにはどうすることもできなかったッ!多額の融資をしてくれている人には逆らえないんだッ!それに死んでしまったものはどうしようもない!………おれは、殺してないッ……」



 知っているはずだ。




 体全体を走る鞭の跡を。




 顔にも体にもある火傷の跡や押し印の跡を。




 目がくり抜かれている子を。




 歯が全て抜かれている子を。




 耳や鼻、体の一部がない子を。




 皮膚が剥がされている子を。





 お前が知らないはずないだろ……






 ……だってあの男爵に依頼をされて…………死体処理をしていたのはお前なんだから。


 


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