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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第五十四話『早まった裁判』

 私は施設長の事を特別嫌いではなかった。

 なんの感情もない、本当に無だった。

 殴られても何も感じないし、怒鳴られても、目の前で泣かれても何も感じない。

 ずっとそのはずだったんだよ?私達に害を及ぼさなければ、でも貴方は契約を破ったんだよ。

 

 たった一つそれだけ守ってくれていればいい契約を。


 だから、決めたんだ。

 

 排除しようって。




 

 手術が終わり、宴も終わって心配事が1つ減った私達はいつも通りの日常を過ごしていた。

 その日もいつものように広間で朝食を食べていた、すると海斗さんが少し慌てた様子で広間に入って来て、私達を見つけ駆け寄って来た。



「2人とも見つけた!手術終わって間もないところ申し訳ないんだけど、裁判が急遽早まって今日やる事になったんだ。今から行けそうかな?」

「平気だよー!」

「柊も大丈夫!」

「ありがとう、ごめんね。裁判って言っても判決は決まっているような物で、罪状を読み上げて証人が証言して判決言って終わり、みたいな感じだから気楽にね!僕はマイロくん達を呼んで来るから先に玄関に行ってて!」



 海斗さんはいつもよりも早口で話して、すぐ様広間を駆け足で出て行った。

 私達は残りの朝食を食べ終えて、歯磨きをしてから玄関の方に向かった。

 玄関を出ると門の前に1台の車が止まっており、車の側には車体に寄っ掛かりながら煙草を吸っている総一郎さんが私達に手招きをしていた。

 おお、流石車体に寄りかかってるのも煙草吸ってるのも様になってるな。



「急で悪かったな、雛菊もだが柊なんてつい数日に目覚めたばかりだってのに」

「全然問題ないよ?」

「柊が目を覚ますまで延期になってたよね?ごめんなさい」

「いやいや、本当に急遽決まったんだよ。元々1ヶ月は先の予定だったから柊が気にする事じゃねぇ、だから謝んな」



 急遽決まった理由を一向に説明されないけど、車の中でみんなが集まってから一斉に説明するのかな。

 で、取り敢えず車に乗ってろと言われたので乗り込もうとしたら車内には既に人が乗っていた。

 運転席は誰も乗っておらず、助手席に健剛さん、真ん中の座席が丸々誰も座ってなくて、1番後ろの席に日翔さんが座っていた。

 


「健剛お兄さんと日翔お兄さんも一緒に行くの?」

「当たり前でしょ」

「そうそうぅ〜当ったり前ぇだよぉ〜僕たちはぁ総一郎ぉ様の側近だからねぇ〜」

「そうだったんだ!雛菊達どこに座ったらいいの?」

「僕のぉ隣座ってもぉいいよぉ〜」

「本当に?じゃあ遠慮なくお邪魔します!」



 正直日翔さんの事ちょっと苦手だ、何考えてるか分かんないし、観察する様な……探る様な目を向けられるのも思わず反応してしまいそうになるからやめて欲しい。

 関わり合いにはなりたくないけど、雛菊は警戒してないし、私が下手に動揺したらあっという間に見透かされそうだから冷静に、雛菊と同じテンションで隣に座ろ。

 雛菊が警戒0なら大丈夫でしょ、あくまでも私がなんとなく苦手意識待ってるだけだし。





「お待たせしました!4人連れて来ましたよ」

「ご苦労様、突然ですまねぇな。詳しい事は車の中で説明するから取り敢えず乗ってくれ」



 車の外で海斗さんと総一郎さんの会話が聞こえて直ぐに車のドアが空き、見知った4人が入って来た。



「アグリさん?」

「ベニおじさんもいる!なんで?」


 

 呼ばれていたのはアグリさんとベニさん。

 マイロくんとサイモンさんが来る事は知ってたけど、2人は予想外だった………いや、私達よりも古株のベニさんと子供達の世話の統括をやってるアグリさんを連れてくるのは、良く考えれば妥当か……。



「なぁ海斗、俺乗り込みたいんだけど席足りなくね?」

「僕も触れませんね」

「あれ、1番後ろの席空いてませんか?」

「はーい!雛菊達が乗ってます!」

「詰めれば2人座れるよ?」



 この車は8人乗り、今いる人間の数が10人なので2人余ってしまう。

 余ったうちの1人が総一郎さんってところが、不憫で面白いよね。

 詰めたら乗れるけど、組織のトップが1番後ろにすし詰めにされるって誰かに見られるの威厳的にどうなんだろう?

 本人は全く気にせずに乗り込もうとしてるけど……。



「総一郎様こちらにお座りください」

「あ?健剛良いのか?」

「はい、私はこちらに座りますので」



 素早く総一郎さんに助手席を譲った健剛さんが座ると言った席は私が座っている所。

 え、私降ろされるの?そんなに嫌われてたのか…?

 と思っていると総一郎さん同様、余っていたマイロくんに雛菊を抱かせて日翔さんの隣に座らせ、私をガシッと抱き上げて私が座っていた席に健剛さんが座り、その膝の上に私を座らせた。



「これで解決です」

「うらやま……っ…んんッよし、それじゃ出発しますよ」



 いや、解決でもないし……よしでもない。とんでもなく気まずいし、うらまやまってなんですか海斗さん?もう殆ど言ってる様な物ですよ、それ。

 てか、自分の事良く思ってない人間の膝の上なんて安心できる要素どこにもないんですけど?

 アグリさんの膝の上に空いてるじゃん!

 チェンジでお願いします!!!



 そんな私の思いは誰にも届く事は無かったし、言葉にする事もなかったので、裁判が早まった理由とアグリさん、ベニさんが呼ばれた理由の説明に入ってしまった。

 ………チェンジ……。




 

「原因不明の体調不良ですか?」

「そうだ、数日前からどうも様子がおかしいらしい。顔色が真っ青で頬がこけ始め、髪も白髪になって一気に老けたらしい」

「捕まった事による過度なストレスとかですか?」

「さぁな、俺にはさっぱり分からん。王宮お抱えの医者もストレスじゃないかと言ってたそうだが、昨日とうとう吐血したらしい。感染する物では無かったのが不幸中の幸いだな」



 裁判が早まった理由は施設長の体調不良。

 王宮お抱えの医者以外にも王都内の殆どの医者に見せたそうだが、結果は皆同じ原因不明だったらしい。

 今にも死にそうな施設長の様子にこのまま死んでもらっては堪った物ではないと急遽裁判をすることが決まったそうだ。

 じゃあ、アグリさんとベニさん2人が呼ばれた理由は?



「で?オレが呼ばれた理由はなんだよ。マイロとサイモンは分かるが、オレは長く居ただけのおっさんだぞ?」

「あたしゃこん中じゃ、施設にいた期間は比較的短い方だし子供達の面倒見てただけだよ?連れて来られた理由がいまいちわっかんないね」

「ベニシオさんに来ていただいたのは施設に長く居たと伺ったからです。施設内の事は貴方以上に詳しい人間はいないとサイモンさんにお聞きしました」

「おい、サイモン。オレは言うほど詳しくねぇぞ?」

「私よりは詳しいでしょう。もう車に乗ってしまったんですから、文句を言わずに大人しくなってなさい」

「へいへい」



 確かにベニさんは施設の事を誰よりも熟知している。

 いっぱいある地下室も迷う事なく案内できるだろうし、施設長の悪巧みも把握しているだろう。

 


「アグリさん、貴方について来てもらった理由は子供達の世話の統括をしていると伺ったからです」

「統括ってそんな大したもんはしちゃいないよ、子育ての経験があるから若いもんに指示出してただけのお節介ババアさ!」

「世話をしていた、指示を出していたと言うのが重要です。子供達がどんな扱いを受けていたのか、貴方は1番近くで見ていたはずです。その貴方の証言が必要なんです」

「まぁ、あの子らがどんな扱いを受けていたかは事細かい話せるよ。任せときな」




 なるほど、サイモンさんやマイロくんやベニさんは施設や売買の事には詳しいけど、子供達の事は殆どノータッチだったから詳しく知ってるアグリさんが必要だったのか。

 私達だけが証言をしても子供だからと信じてもらえない可能性がある。

 しかし、大人のアグリさんが証言した後に言えば信憑性がちょっとは増すんだと思う。

 私達が連れて来られた理由なんて周りの同情を誘う為以外にないでしょ。





 それから体感で1時間くらい車に揺られ着いたのは、オレンジと白を基調にした温かみのあるとんでもなくデカい城だった。

 大きすぎてずっと見上げてたら、首が逝かれそう。



「すっごく大きいね!」

「綺麗なお城!」

「でしょぉ〜僕もぉここ大好きぃ〜」

「無駄話してないでさっさと行くわよ」

「はぁ〜いぃ〜」

「「はーい!!」」



 裁判はもう始まるそうなので、呑気に城を眺めている時間はなく私は総一郎さんに、雛菊は海斗さんに問答無用で掴まれて抱えられた状態で移動した。

 一言声を掛けるだけで掴まないで欲しいよ、何事かと思うじゃん!雛菊が楽しそうだから別に良いけどねっ。



「謁見の間に到着しました。あんた達騒ぐんじゃないわよ」

「はぁーい!」

「分かった!」

「……小声にしてるのは偉いけど、本当に分かってるのかしら」



 騒ぐなと注意をされたので、小声で返事をするが健剛さんは信用していないらしく、疑いの目で見て来てため息を吐きながら目の前の重厚な扉を開けた。


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