第四十七話『若衆4人組』
「いやあぁぁぁぁーーーーー!!!!」
「子猫と子供受け止めろーーー!!」
「受け止めちゃダメ!!受け止める方が危ないから!」
「何言うとるんや!受け止めなあの子死んでまうで!」
「木から飛び降りるくらいで柊は死なないよ!ちゃんと着地出来るし!……柊が雛菊とお母さん置いて死ぬ訳ないもん」
「なんて?」
私は誰かを助ける為に自分を犠牲にしたりしない、助ける事ができる可能性があるならするし、しないと雛菊が助けようとするから私が代わりにやってるだけ。
でも、可能性がゼロなら雛菊を絶対に止めるし私も助けようとしない。
子供の小さい体で出来ることなんてたかが知れてるんだから、無理なんてしない。
今の私の最優先人物は雛菊とお母さん。
その後に自分。
2人が安全圏にいないなら……他人は見捨てる……それが親友や恋人であったとしても、私は見捨てる。
私が安全で無かった場合もそう。
だって私が死んだら、雛菊とお母さんが悲しむからね。それに私が死んだら雛菊とお母さんを守る人がいなくなる。
私が死ぬのは、2人を死ぬ気で守ってくれる人が現れた時だ。
私は落ちながらこのくらいの木の高さなら余裕で安全着地出来るなと思った。
雛菊、ナイス判断。下に人がいると邪魔だったから止めてくれて助かったよ。
受け止めようとしてたら子猫も私も、受け止めようとした人間もタダでは済まなかっただろう。
私は子猫を空中で捕まえて腕にしっかりと抱いたら姿勢を整え、正しい体勢で着地を決めた。
我ながらパーフェクトだね。
「わあ!危なかった!」
「……はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜良かったあぁぁ!本当に心臓止まるかと思ったわよ!」
「キャッチしに行かんくて良かったな!ありゃ顔面に蹴り入れられとったわ!」
「僕は信じていたよ?僕の美しさと同様に、柊ちゃんも当然無事だとね」
「キショ………。雛菊だったか?お前が受け止めるなって言った時は何考えてんだって思ったが、教えてくれてありがとな。受け止めてたら怪我人が増えるところだった」
4人は安心して腰を抜かす人や笑っている人と性格が色々で、この人達が仲良さげなことが不思議でならない。
「どういたしまして!柊は基本的に何でも出来るから手助け要らない事の方が多いんだよ!」
「柊なんて全然すごくないよ?雛菊だって一度見たものとか忘れないでしょ?そっちの方がすごいよ〜」
「貴方達小さいのに凄いのね〜」
「雛菊は何もしてないよ?」
「したやないか!俺らに助言してくれたやろ?充分すごいわ、ちっこいのに度胸がすごい!」
「度胸?……度胸だって!初めて言われたね!」
「ね!褒められた!」
4人に褒められて雛菊は顔を赤らめて照れていたけど、少しドヤ顔もしていた。器用だね。
「あ!柊、腕から血が!」
「え?あ、本当だあ!全然気づかなかった。飛び降りた時に木で擦っちゃった!」
「結構血ぃ出とんなぁ、消毒した方がええんと違う?」
「そうね、早めに消毒しないと膿んできちゃうから私達の部屋に行きましょう。救急セットがあるわ」
「本当!?ありがとう!」
雛菊に言われるまで怪我していることに全く気が付かなかった。
よく見ると結構パックリ切れてるから応急処置程度じゃ綺麗に塞がらないかも、でも縫うのは嫌だから…………黙っとこ。
雛菊は着地した時は笑っていたけど、今は心配そうに痛そうに私の腕を見ている。
大丈夫と伝えたけど、それでも不安そうなので今度からは怪我もしないように気を付けよ。
それにしても怪我って気付かないうちは全然痛くないけど、気づいちゃうととんでもなく痛く感じるんだよね。
今まさにその状態、涙出てきた………精神的にはいい歳した大人だけど、子供の体だから精神も引っ張られて子供の様に泣いてしまいそうになる。
流石に号泣はしないように我慢してる。
「おい、行くぞー」
「うんッ〜〜〜〜〜〜ッたぁ!?」
「わあ!柊大丈夫?!」
「だいじょうぶ」
急いで一歩踏み出したせいで転んでしまい、抱えている子猫を庇う為に右腕を下敷きにしてしまった。
怪我をしたのが右腕だったので、とんでもない激痛が走って……………もうむり。
「イダイ」
「痛いね!頭なでなでしようね!」
「ひっく」
「まぁ、危ない事したんだしその痛みは自業自得よ!本当に私心臓止まっちゃうかと思ったんだから!」
「心臓に毛ぇ生えてるカマが何言ってんだ?止めても止まんねぇだろお前の心臓は」
「あぁ?か弱いレディーに向かって何だその口の利き方はよぉ!」
「ゼン、また出てるで?」
「あらも、やっだぁー!」
「このオカマの事は気にしなくていいよ?子猫を助けた勇気ある行動の勲章!可憐な生き物はリボンやフリルだけでなく、傷さえも美しい。僕の体に傷は似合わないけれど」
「キモ」
ゼンさんはオカマと言われるとドスの効いた声で怒っていたけど、カマと言った人はまるで気にしていないようだった。
あらやだ〜と体をクネクネ動かしながら照れている姿は不思議と様になっていた。
服もメイクも女性的だからかな?体のガタイはとんでもなくゴツいけど。
ナルシストさんは自分だけではなく全ての人を愛する博愛主義者なのかな?
ゼンさんの事は雑に扱ってるのは友達だから?
ていうか、元はと言えばゼンさん達4人が大声出さなかったら子猫もびっくりして落ちることなく、捕まえる事ができたんだよ?
自業自得って言うかあんたらのせいなんですけどぉ?登った事に関しては私が全面的に悪いですけどね。
「ほな、消毒行くで〜」
「ッッ〜〜〜!!」
怪我で思ったように動けなかった私は、ゼンさんに抱えられて部屋まで連れて来られた。
ゼンさんは振動を出さないように静かに素早く移動をしてくれて、大声を出された時余計な事をしやがってと思った事をほんの少し申し訳無いと思い、心の中で誤った。
ごめんねゼンさん。
「うわあ〜、柊痛そう!大丈夫?」
「いたい」
「もっかいなでなでする?」
「……おねがい」
「痛くても我慢よ!もうすぐ終わるから頑張りなさいね!」
「そうやで!後は包帯巻いて終わりや」
「この程度の傷ですんで良かったな」
この程度って、確かに頭打ったり?死ななかっただけマシだとはおもうけど、痛い事に変わりはないからね?
精神は大人寄りだけど体年齢に引っ張られて、大泣きしそうで怖い。
こうして子猫を助けた勲章の傷を容赦なく手当され、恒例の自己紹介タイムが始まった。
「俺は貝矢未来、よろしくな」
「未来お兄さん!」
「お兄ちゃん、よろしく!」
「お兄さんだのちゃんだのはいらねぇよ。未来って呼べ」
「じゃあ未来くん!」
「未来くんよろしく!……未来くんって顔と名前が合ってないね!」
「ブハッ!」
「……結構ズケズケ来るじゃねぇか?柊。似合ってねぇのは自覚してるよ、ただな?俺は生まれるまで女だって診断されてたんだよ。で、生まれたらこんな男で?せっかく考えた名前が勿体無いって事で未来になったんだよ。男でもいる名前だから変でもないだろ?」
「変だなんて言ってないよ!いい名前だよ!」
「雛菊もとってもいい名前だと思う!」
「ふぅ、ありがとな」
ちょっとぶっきらぼうなオレンジ頭の青年が未来さん。
最初は合ってないと思ったけど、暖色のオレンジの髪とぶっきらぼうな態度とは裏腹によく微笑む雰囲気が、未来と言う名前にぴったりだ。
「はいはいはーい!次は俺や!芦間ひかるです!気軽にひーくんって呼んでな!」
「「ひーくんよろしくね!」」
「いやー、素直でかわええなぁ〜」
関西弁の気の良い元気な兄ちゃんがひかるさん。
薄紫の髪をオールバックにしているが、可愛い顔をしているからアンバランスだ。
それにしても、この世界にも関西弁ってあるんだな。でもこっちには関西なんて地域名ないだろうし、ここでは何弁になるんだろう?
「あっ因みにこの喋り方は俺の地元の方言で関西弁言うねん!地元の名前が関西って言う訳じゃないんやけど、何故か昔から関西弁言うらしいわ!俺のひぃじーちゃんなんてごっつ訛り酷いから何言うてるから分からへんのよ」
「方言なんだ!ひーくんのひぃおじいさん会ってみたいな!」
「柊達が住んでた所にも訛ってて何言ってるか分かんない人いたよ!その人の奥さんが通訳してくれた!」
やっぱり関西弁って言うんだ、関西がある訳ではないのに関西弁。
………これは書庫で見た神話が信憑性を帯びてきたかも?
「はいはい、訛りの話は後回し!次は私よ。武田善之烝です!でもこの名前全っ然可愛くないから、ゼンちゃんって呼んでね!」
「分かった!ゼンちゃんよろしくね!」
「ゼンちゃん可愛い!髪も綺麗!」
「あら〜嬉しいわっありがと!」
「かわいこぶるなよ、気色悪い」
「あ”あ“?」
性格と格好とレモンイエローの髪は可愛いんだけど、時折するドスの効いた声と顔が怖い青年………女性の善之烝さん。
カラフルで長い髪の毛をふわふわに巻いて、可愛くアレンジしている善之烝さん……前世の私よりも女子力が高い。
前世の私、健剛さんにも負けて善之烝さんにも負けているのか……思った以上にショックかも。
2人とも名前ゴツくて女子力なさそうなのに!
「やっと僕の番だね!こんにちわ、小さく可憐なお嬢さん方。相野恋と言います。美しく恋多き僕に相応しい美しい名前でしょう?そして、この美しい僕に朝から出会えた事に感謝してもいいんですよ!僕の美しさに見合う可憐なお嬢さん方?そしてっ!ッぐふッッ〜〜〜…………」
「えっと、よろしくね!恋くん!」
「あははっ!変なお兄ちゃん!」
「こいつには必要以上に近づくな。病気移されるぞ」
「病気?お風邪引いてるの?」
「そうよ?妊娠もさせられちゃうから近づいちゃだめよ!」
「子供の前で下ネタ辞めんかい!ホンマ汚らしいわ!……けど恋ならなんやかんや言うて責任とって結婚とかしそうやけどな?」
「責任取ったら良いって話でもないでしょうよ」
「……あははっここって変態だらけ!」
さっきと同様に背筋が寒くなるマシンガントークを繰り広げた恋さんは、未来さんに絞められて床で伸びている。
調理場以外で変態に会うとは思わなかったけど、ロリコンと違って実害がありそうなので積極的に近づくのはやめておこう。
流石に子供に手を出す人ではないと願いたいし、無理矢理する様な感じの人ではなさそうだけど、念には念を……ね。
恋さんは黒髪ロングヘアで髪を後ろでポニーテールにしているイケメンの青年。
自称するだけあってキラキラタイプのイケメンだ。
そして、曝け出すタイプのナルシスト。
「てかお前ら噂の施設から保護された子供だろ?何でこっち側来てんだよ」
「こっち来たことなかったから、探検しにきたの!」
「お昼の時間になったから、お弁当食べれる場所探してて桜の木が見えたから食べようとしたら、未来くん達を見つけたの」
「じゃあまだお弁当食べれてないのね。……私達もお花見に参加していいかしら?」
「良いよ!お弁当沢山あるからみんなで食べよ!」
「おおきに!遠慮なく頂くわ!」
「馬鹿が遠慮しろ、広間ちけぇんだから飯取りに行くぞ」
「あぁ〜〜!!」
「先に食べてて頂戴ね!」
「はーい!」
「いってらっしゃい!」
雛菊の申し出に遠慮なくおかずを食べようとしたひかるさんは、未来さんに殴られ引き摺られて行き、その後ろをもう復活した恋さんと善之烝さんが笑いながら追って行った。
正直、お弁当の量は本当に多いので食べてもらっても構わなかったんだけど、遠慮する気持ちも分かるのでしつこく薦めるのはやめた。
私達は縁側に腰掛けて、お弁当の風呂敷を解いて4人が帰ってくるのをのんびりと待った。
先に食べてていいって言われはしたけど、別に次を急いでいるわけではないから待とうと雛菊と決めた。
数分後お盆いっぱいに料理を乗せ、それを両手で器用に運ぶ4人が帰ってきた。
すごい、サーカスのピエロみたい。
「たいりょーだ!!」
「いっぱい!そんなにお腹に入るの?」
「むしろ足りねぇ。文哉さんに怒られたからこれしか持って来れなかったんだよ」
「前にお昼ご飯大量に食べて足りなくなった時の文哉さんの顔、今でも忘れられられんわ」
「僕の美しさには食事も大事なのに、文哉さんは意地悪をするよね?」
「そうなんだ〜大変だね!」
雛菊は恋さんをスルーする事を覚えたらしい。
大変良いことです。
銀次郎さん達が作ってくれたお弁当は定番の卵焼きや鶏肉の塩焼き、大きな鮭おにぎりとおかかのおにぎりも入っていた。
フルーツなども入っていて、贅沢なお弁当だった。お腹いっぱい心もいっぱい。
私達の体調なども考えてくれているようで、野菜などもいっぱい入っていた。
揚げ物などの胃に負担がかかる系の食べ物は、綺麗に避けられていた。
で、お弁当をゆっくりのんびり食べている私達の横で、掃除機のようにご飯を食べている男達4人は本当にすごい。
4人の胃袋はブラックホールなのかな?
持ってきた両手いっぱい、お盆いっぱいの料理はあっという間に食べ尽くされ、私達が食べ切れなかったおにぎりやおかずもピカピカに片付けられた。
善之烝さんや未来さんはガタイが良いからそれ相応に食べるのは理解できるんだけど、比較的小柄なひかるさんや細身の恋さんも2人と同じ量をペロリと完食していて、体の構造が本当に気になって仕方が無かった。
4人が食べ終わるのを、雛菊と一緒に映画を見るように楽しんで見ていた。
因みにガサツそうに見えて案外気の利く4人は広間に行った際、子猫用のご飯も持ってきてくれたので、子猫もお腹いっぱい食べて今は縁側で大の字になって寝ている。
最初の警戒心はどこへやら、無防備すぎる寝姿だ。




