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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第四十六話『子猫』

 桜の下で叫んでいるのは4人、どの人達も箒などを持って何やら慌てている様だった。

 慌てている理由は桜の木の上にいる小さい生き物が原因だろう。



「おーい!子猫大丈夫かー!」

「相当怯えてるからこっち見ねぇな。目瞑ってる」

「とても可愛い子猫だね。怯えずに美しい僕の胸に飛び込んで来てくれないかな?」

「気色悪い事言ってないで脚立とか足場になる物持ってきなさいよ!!」

「取ってくる間に落ちたらどないするん?!」

「全員で取りに行く訳ないでしょバカ!1人が取りに行って、私達は落ちてきた時キャッチ出来るように待機しとくの!」

「脚立ってどこにあんだっけ?」

「知らないわよ!納屋とかにあるんじゃないの!?無かったら先輩とか上司に聞きなさいよ!!」



 4人は揉めていた。

 木の上にいるのは、まだ生まれて数ヶ月ほどの三毛の子猫。

 遠くから見ても小さいし、近くで見たらもっと小さいんだろう。

 細めの木の枝に乗っかって縮こまり動こうとせず、震えているようだった。



「子猫、降りて来られなくなっちゃったの?」

「ん?」

「あら?」

「お?」

「やぁ、可愛い子たち!こんなにむさ苦しい男たちに近づいたら汚れてしまうよ?美しい僕の側におい…ブバッッッ…………」



 雛菊が話しかけると3人は不思議そうな顔をしながら振り返り、1人は何やらキザったらしいセリフを吐いて私達の側に跪こうとしていたが、他3人に蹴っ飛ばされて遠くに転がり気絶した。



「あの人死んだ?」

「ん、死んではない。ここに所属している人間は殆ど丈夫な奴ばかりだ。あんな蹴りくらいで死なない」

「変態を近づけちゃってごめんなさいね?怖く無かったかしら?」

「全然!」

「言葉遣いとか丁寧で良い人っぽかった!」



 蹴っ飛ばされたナルシストは無視して会話を続けると、この4人は湊崎組の若衆で今週は庭掃除の当番だったそうだ。

 先輩若衆に教えられた通り、いつもの様に掃除をしていると頭上から猫の鳴き声が聞こえて来て、上を見上げたら木から降りられなくなった子猫を見つけたんだって。

 見つけた直後に落ち着かせるとか、おやつで気を引いたりすればすぐに降りて来てくれた可能性もあったらしいけど、背の高い木の上に子猫がいると言う事実が4人の冷静さを奪い、1番最悪な大声で「大丈夫かーー!!」と子猫に声を掛けてしまったそうだ。

 その大声にただでさえ怯えている子猫は更に怯えてしまい、近付くだけで後退りしてしまうようになり近づくことすら出来なくなってしまったらしい。

 子猫がいる木の枝は塀に近く、無闇に手を出すと塀の向こう側に落ちてしまう危険性もあるそうで、手を出す事が出来ず、やさしく声をかける事だけしていたそうだ。

 

 さっき優しく声かけてた?大声で叫んでるだけに聞こえたけど、この人達の優しい声掛けってこの声量なのかな。



「このまま放っておく訳にもいかねぇから、そろそろ脚立で捕まえようかって話してたんだよ」

「それって誰が脚立に登って捕まえるの?」

「それはワイらの誰かや!」

「……大声出して怖がられてるのに?近づいたら後退りされるんでしょ?どう近づくの?」

「……そこなんだよなー、子猫の全身から近づいたら飛び降りてやる!って雰囲気満載なんだよ。俺らの方に落ちて来てくれりゃいいけど、さっきは塀の方に飛ぼうとしてたから、今近づくのは怖いんだよな」



 子猫はこの4人の事を身を預けられる安全な人間だとは認識していないんだ。

 完全に敵と思っているわけでもないけど、4人の事を本能的に警戒しているから、近づくと反射的に体が逃げてしまうんだと思う。

 4人の助けたいという想いが、悪い形で子猫に影響してしまっているなという印象。

 


「じゃあ!雛菊がのぼッ……」

「柊が登ってお話ししてくるね!」



 絶対に雛菊が名乗り出ると思ったから遮らせてもらった。そのままの勢いで木に登ってしまう。

 木に登るなんて危ない事雛菊にはさせられない、万が一木から落ちて怪我をしたら私の心臓が止まる。

 下にいる雛菊を見ると、言葉を遮られ私が木に登っている事を頬を膨らませて怒っているけど、これだけは絶対に譲れません。

 睨んでくる雛菊に負けじと見つめ返すと、渋々だけどしょうがないなという顔をして笑ってくれた。

 じゃ、4人に捕まる前に子猫のいる枝まで登ってしまおう。



「登るのやめ!そないちっこい体で危ないで!」

「そうよ!降りてらっしゃい!私達が落ちても擦り傷程度で済むけど、貴方が落ちたら怪我じゃ済まないわよ!」

「ゼンの言う通りだよ。可愛い君と美しい僕は木に登るなんて危ない事、しなくていいんだ。危ない事は全てこのオカマがやってくれるから今すぐ降りておいで」



 2人が純粋に心配している中、自分の持論を展開している変人がいる。



「んだとテメェ?このヤリチンナルシスト野郎がよぉ」

「ゼン、素が出てるぞ」

「あら、まあやだ!言葉を間違えたわ!貴方みたいな脳ミソ無し男に決める権利はないのよ?大体私よりも貴方の方が軽いんだから、貴方の方が適任よ。死んでも悲しくないし」



 確かに筋骨隆々のゼンさん?よりは、細めのナルシストさんの方が木に登るのには適任だろう。

 それでも大人の男性なので私よりはだいぶ重いから、枝が折れてしまうだろう。



「ゼン、君はなんて事を言うんだい!僕は君と違って存在そのものが美しいんだよ!国宝と言っても過言ではない。それがどれ程の損失なのか君に理解できているかい?」

「こいつ何言ってんだ?」

「知らないわよ、あたしに聞かないで」

「国宝は過言でしかないやろ〜」



 息をするようにコントをする4人だな。

 仲は良いのは何となく伝わってくるけど、オカマも悪口だしヤリチンナルシストなんて、とんでもなく飛び抜けて酷い悪口だけど……。

 本人達が全く気にしていないようだから……良いのかな?怒ってるけど、ガチギレって訳ではなさそう。

 それからナルシストさんは…………ナルシストレベル?が天井を貫いてるな。

 自分で国宝って言っちゃう感覚は理解出来ない……確かにイケメンではあると思うけど、死んでも損失にはならないと思う。

 雛菊が死んだら世界の損失になるだろうけど。

 そんなコントを見ていたが、視界の端に映った子猫が今にも動きそうだったからゆっくりと子猫に近づく。

 

 今だに言い合いをしている4人を尻目に、木の細い枝をゆっくりと移動する。

 雛菊は少し心配したような顔をしているけど、大丈夫と言う意思を伝えるためにサムズアップをした。

 その格好が面白かったのか、雛菊はクスリと笑って安心したような顔をしてくれた。

 そんな可愛い雛菊の隣で4人はまだ喧嘩をしているが、本当にやめて欲しい。子猫が怯えて落ちたら私が木登りした意味がなくなっちゃうでしょ。

 子猫がこれ以上怯える前にさっさと片付けてしまおう。



「子猫さんこんにちわ、私の名前は柊です。今から貴方に近づくけど、痛い事も苦しい事も大きな音を出す事もしないから安心してね?」



 子猫がびっくりしないように聞こえる程度の小声で話しかけ、安心させる事を優先させる。

 正直言葉が伝わっているかとかは分からないけど、話しかけずに近づいて落ちたら本末転倒なので慎重に慎重を重ねる。

 話しかけた時に若干警戒したような顔を見せながらこちらをチラ見してきたので、この作戦は間違ってないと思う。

 間違ってはいないけどいきなり近づくのはダメ、数ミリずつゆっくり時間をかけて近づいていこう。



「下にね私のお姉ちゃんもいるんだよ?名前は雛菊。とっても優しくてあったかいお姉ちゃんなんだ。子猫さんもきっと仲良くなれるよ」

「……み」

「ん?ここは怖くて危ないから私と一緒に下に降りて、美味しいおやつ食べたり〜おもちゃで遊ぼ?」

「…みぃ……」



 話しかけながら徐々に近づいて行くと子猫の体の震えが止まり、少しずつ顔を上げて返事をしてくれるようになった。

 順調だ。このまま行けば私が枝の端の方に行かなくても子猫の方から近づいてきてくれるかもしれない。

 試しに手を伸ばしてみたけど、ジッと見つめてくるだけで後退りしたり、威嚇してこないのでワンチャンある。

 近づいてきてくれた方がありがたいけど、固まっちゃって無理かな?

 ナマケモノのような動きで子猫に近づいて、後は説得して自ら来てもらうでもいいし、私が向かえに行ってもいい距離まで縮められた瞬間、下から余計な音が鼓膜を攻撃してきた。



「あぁーーーー!!あの子!もうあんな所まで登っちゃってるわよ!?」

「バッカお前!デカい声出すな!」

「お前らがいっちゃんうるさいねん!黙らんかい!」

「君達3人はいつもうるさすぎるよ?美しくもない声を無闇に響かせて、この僕の繊細な耳に聞かせないでもらいたいな。かわい子ちゃんたちもびっくりしているよ」



「あ」


 4人がこちらに気付き大声を出した結果、子猫が驚き飛び跳ねて、そのまま足を滑らして落下する。

 辺りがスローモーションに見えている中、4人はそれぞれが面白い顔をしていた。

 1人は真っ青な顔をして、1人は唖然とした顔、1人は驚きすぎて変顔になってて、最後の人は何が起こっているのかまだ理解していないような顔をしていた。

 そんな顔を見ながら私は…………余計な事しやがってと心の底から思った。

 こちらに気づいたとしても息を呑んで、声を抑えて黙って見ていて欲しかったよ。

 


 私は唖然とした顔をした子猫を追って木の枝から飛び降りた。

 飛んだ瞬間4人は悲鳴を上げてギャアギャア、右往左往しながら騒いでいて、雛菊は笑顔で私を見ていた。




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