第四十二話『洋服のお礼』
おじさんの考えと私の疲れた頭とルゥの専門知識で仕上がった薬はまだ安全性が100%では無かったので、火傷跡がある私が実験台として使うことになった。
もちろん私だけではなく、ルゥやオリバーさんも怪我をした時などに使い問題ないかをチェックしていたので、私だけが危険な目に合っていたわけではないから安心して欲しい。
それにルゥから使えと言ってきた訳ではなく、私が自ら志願して実験台になったから、無理強いされた訳ではない。これだけは伝えておかないと雛菊達とルゥが険悪になりかねないからね。
とにかく、100%安全ではないというのは保険みたいなもので、ほとんど安全である事は証明されているけど万が一、0.001%の問題が発生しないとも限らないので治験の期間を設けていると言うだけの話。
この毒草研究をきっかけにルゥと親しくなって、私の問題にも協力してくれる事になった。
私が自ら発見して通報をせずに研究をしていた事を何故か大層気に入ったようで、割と無茶なお願いも聞いてくれる。
本当に良かった、ルゥみたいな天才が仲間になってくれなかったら毒草研究の時点で詰んでたし、幸太郎さんの問題も何も出来ずに終わっていた。
これで私の毒草研究の話は終わり、今まで黙っていてごめんなさいと頭を下げた。
「なるほど、この薬は柊とルゥ様の合同研究によって作られた物だったのですね。であれば、何の問題もないでしょう。毒草とお聞きした時は何事かと心配いたしましたが、安全性が殆ど確認されていると言うならこれ以上の心配は杞憂と言うものです」
「心配かけてごめんなさい。安全性はルゥとオリバーさんがしっかりと確認済みだから、近々街に売り出されると思うよ」
「もう!柊ったら、本当に心配したんだからね!ルゥちゃんかな?とは思ってたけど、先に説明しといてくれると雛菊は嬉しいかな!」
「うん、本当に心配かけてごめん。次からはちゃんと最初に説明する」
余計な心配や気苦労をさせないように言わなかったんだけど、返って心配させちゃった。
前世でもこんな事があったな、私は本当に学ばない人間だ。今度からはちゃんと伝えるようしよう!
「で、柊。薬について詳しく知りたいからルゥさんに詳細情報貰えるか聞いてもらっても良いですか?」
「それは良いけど、詳細聞くならルゥじゃなくてしっかり者のオリバーさんの方がいいと思うよ」
「あーー、そうですね。じゃ、オリバーさんに連絡お願いします」
「かしこまり!」
マイロくんは私の話以外にも、もっと詳しい情報が欲しい様でオリバーさんに手紙を送ってくれと頼んできたので、了承するとそのまま自分の部屋に帰って行った。
私達もサイモンさんの部屋に長居しすぎたので、お礼を言ってから部屋を出た。
「この後どうする?」
「う〜ん、そうだ!紫お姉さんにお洋服のお礼会いに行こうよ!」
「あー、そういえば服選んでくれたの紫さんだったけ。じゃ行こうか!」
「うん!あっ、行く前に折り紙作って行こうよ!お礼に渡せるもの折り紙くらいしかないし!」
「折り紙なんて置いてあったっけ?」
「ふっふっふっー!ジャッジャーン!施設長室から持って来ちゃった!」
雛菊が得意げに懐から出した物は、昔施設長に黙って買ったのがバレて没収された折り紙だった。
懐かしい、とっくの昔に捨てられた物だと思ってたやつ。
「施設出る時に持ち出したんだね」
「そうなの!みんなバタバタしてたし持って来れるかなって忍び込んだらあっさり取れた!仕舞ってある場所は分かってたしね!」
「お〜!雛菊お主なかなかやりますな」
「そうであろ〜!」
という事で、雛菊がパクって来た…もとい拝借して来た折り紙を使って動物や花を折る事にした。
大人に渡すお礼が折り紙ってのはなんかちゃっちい気もするけど、子供のお礼やプレゼントなんてこんなものでしょ。
紫さんは喜んでくれそうな人だし、イメージだけどね。
「こんこんこん!こんにちわー紫お姉さんいらっしゃいますか!雛菊です!」
「柊だよー!いらっしゃいますか〜!」
「は〜い、いますよ。入って来て良いよ〜」
「「お邪魔します!」」
扉の前に立ち元気よく挨拶をすると、室内から入室の許可が出たので遠慮なく襖を開けて中に入る。
「2人ともこんにちは、今日も探検しているの?」
「ううん、今日は紫お姉さんにお礼を言いに来たの!」
「お礼?」
「うん!雛菊達のお洋服用意してくれてありがとう!とっても着やすいし、可愛くて朝起きるの楽しみになったの!」
「柊はオーバーオールがお気に入り!」
「態々お礼を言いに来てくれたのね?こちらこそありがとうっ。みんなに喜んでもらえなかったらって不安だったけど、本当に良かったっ」
「これお礼に作って来たんだ!いっぱい作ったから好きな物を好きなだけ選んで!」
私達にお礼を言われた紫さんは本当に嬉しそうに、顔を赤らめながら微笑んでいた。
そんな紫さんに作って来た動物や花の折り紙を畳に広げて差し出した。
「わぁ、どれも可愛いね。沢山あって迷ってしまうけどぉ〜、この兎さんを貰おうかしらっ。大切にするね」
「喜んでもらえて良かった!」
「そうだ!このライオンさんもあげる!総お兄さんの分!」
「あら、総一郎さんの分まで?ありがとうっきっと喜ぶわ」
正直喜んでもらえるか不安だったけど、紫さんが本当に嬉しそうに笑うから作って良かったと心の底から思えた。
なにより、露骨に微妙な顔とか態度とか出されたら雛菊が悲しむから本当に良かった!
「ふぇっ、まあま〜どこ〜」
「あらあら、起きちゃったのね。ままはこっちにいるよ〜」
「わわっ!赤ちゃんがいたの!?気付かずに大きな声出してごめんなさいっ」
「柊達がうるさくしたから起きちゃったよね、ごめんなさいっ」
「全然っずっと寝ていたからお腹が空いて起きただけだと思うわ。いつもはうるさくしても滅多な事では起きないから」
「そうなんだ!良かったぁ〜」
「起こしたんじゃなくて良かったぁ〜」
私達がある部屋の隣室から紫さんを呼ぶ子供の声が聞こえて来て一瞬焦った。
隣の部屋に赤ちゃんがいるとは思わなかった、寝室になっているのかな?
暫く愚図った声が聞こえた後、隣室の扉がゆっくりと開いて出て来た子は不思議な髪色をしていた。




