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第三話『余計な事』

 

 伯爵家と手紙のやり取りをしてくれているサイモンさんはとても優秀な人なのでこちらがあれこれ言わなくても理解して行動してくれる。

 のでマユちゃんの事はお任せで大丈夫。

 念の為マユちゃん以外にも売買される予定の子がいないか確認してみたが今のところはいなかった。

 ふぅ、一安心。



 そうして伯爵と手紙のやり取りを交わすこと数日。

 伯爵夫妻はマユちゃんを引き取りにやって来た。

 もちろんマユちゃんには事前に夫妻のことを話しておいて引き取られる事も了承をしている。

 昨日も質素だけど出来る限りのお別れ会をした。

 夫妻は前回訪れた時のように、高級だが派手ではない服装で商品保管区域まで赴いてくれた。

 普通は施設長室の隣にある応接間で待ってもらうんだけど、夫妻が迎えに行かせてほしいと自ら望んで来たそうだ。



「おひさしぶりです!まゆです!これからよろしくおねがいします!」

「あらまあ、ご挨拶出来て素敵ね。畏まらなくていいのよ?私の事はお母さん…いいえ、家族として仲良くしてくれると嬉しいわ。貴方の事をこれからたくさん教えてほしいの」

「何でもいい楽しい事、嬉しかった事、もちろん悲しい事も気軽に相談できる関係になっていけたら良いと私達は思っている」

「私達の息子も家で貴方の事を心待ちにしているわ」

「はい!いっぱいお話しします!お兄ちゃんも、いたらいいなぁっておもったのでとってもうれしいです!」




 マユちゃんは少し硬さがあるけれど、夫妻の方は穏やかに接しているから徐々に硬さは取れて行くだろう。



「じゃあマユちゃん伯爵家に行っても元気でね?お手紙書くよ」

「うん!マユも書く!」

「マユちゃん寂しくなるけど、元気でね!風邪とか怪我しないように気をつけて!」

「うん!ちゃんとうがいするし、まわり見てきをつける!」



 マユちゃんは夫妻に寄り添われながら最後まで笑顔で手を振っていた。

 手を振るマユちゃんを見る夫妻はとても微笑ましそうに見つめていた。

 それを見て伯爵夫妻に引き取って貰えて良かったなと思う。


 しかし、これからも動向は見守って行く。

 監視とまでは言わないけど、いくら伯爵夫妻が領民からも使用人からも評判が良くて息子にとっても良い親だったとしても、自分の子ではない人間を育てる事にストレスを感じる事がないとは言いづらい。

 最初は優しいけれど後々虐待に発展してしまう事は悲しい事に珍しくはない。

 息子さんもマユちゃんを心待ちにしていると言っていたが、本心はどうか分からない。

 ので、程々に目を光らせ続ける。




 マユちゃんが施設を去ってから数週間が経っていつもの日常を柊達は送っていた。

 マユちゃんからの手紙も早速届いた。

 伯爵家に無事に着いて盛大に歓迎会をされたそうだ。

 お風呂もメイドさんに入れられて磨かれて、ふわふわの可愛いドレスを来させてもらったと手紙からも嬉しいという感情が伝わってくる。

 伯爵夫妻の息子さんにも、もみくちゃにされるくらい抱きしめられたと書かれていて少しホッとした。

 手紙はみんなも読んで私と同様に安心した顔をしていた。



 手紙に浸っていたい気持ちもあるがいつものように仕事を始める。

 施設長室で書類整理をして、処分する書類を焼却炉に運んでいると前から今にも怒り爆発寸前の施設長が早足で近寄って来た。



「柊!お前だろ!?こんな余計な事をするのは!!」

「わあ!なになに?!余計なことって何?」

「知らないとは言わせないぞ!これだ!」

「ん?」



 怒鳴り声を上げながら施設長が手に持っていた1枚の書類を私の目の前に突き付けてきた。

 その書類は食料の追加購入の書類。



 食料はただでさえ足りない上に腐っているものしか用意されない。

 それを最近また減らされていたのだ。

 減らされる事の何が問題って栄養失調もそうなんだけど、大人達…特に5号棟の人達が私達子供に食べ物を分け与えてしまうのが問題なのだ。

 子供達が食べられないのはもちろん論外、しかし分け与えている大人がどんどんガリガリになってふらつく事や倒れる事が多くなっているのだ。

 このままだと5号棟の大半の人間は死んでしまう。

 それを解消する為にコッソリと注文していたんだけど、バレちゃったかぁ。



「んー、これは必要経費だよ!」

「必要経費だと?」

「うん!だってお客さんが来た時にガリガリの商品を見せられても魅力的じゃないでしょ?ある程度肉が付いていた方が売れるかなぁ〜って!」

「これは俺が要らない物として削減したもんなんだよ!!売れ残りの5号棟の連中にくれてやる飯なんて無い!!!必要経費かどうかは俺が決める!お前は俺の言う通りに行動していればいいんだ!余計な事しやがって!!」

「ガッッ!!……うぅ」



 馬鹿正直に言いすぎたな、もっと施設長の為とかスタッフの為とか言っとけば良かった。

 はぁ、最近殴られる事なかったから甘くみてたよ、もっと慎重に言い訳しなきゃね。

 施設長が思いっきり殴るからせっかく積んだ書類がバラバラになったよ、結構苦労してここまで持って来たのに最悪。

 しかも私一応商品だよ?それも結構上等品何だから顔殴るのはダメじゃない?

 顔に傷残ったら売値下がっちゃうのに馬鹿じゃないの。

 売られる予定ないけど、グーで殴んないでくんないかな、せめてパーにしてよ。

 歯が折れたらどうしてくれんの、乳歯じゃ無くて永久歯折れたらお前のも折ってやるからな。

 と心の中では不平不満、怒りをツラツラ述べて少しスッキリしたので仕事しますか。



「うぅ〜ヒック…施設長ごっ…ごめん…な…さい。もうしないから柊を許して…」

「柊……分かればいいんだよ」



 ここはしおらしく謝っておくに限る。

 下手に反抗してもう一発殴られるのも嫌だし、他の人に八つ当たりされても困る、特に雛菊にも矛先が向いてしまう事態は避けたい。



「俺はな柊?お前の事が大切なんだよ。だから間違っている事は間違っていると教育する責任があるんだ。頭が良くていい子の柊は分かってくれるだろ?」

「…うん、分かってるよ!柊に間違ってるって教えてくれてありがとう!」



 施設長はDV人間の典型的なタイプで殴った後は必ず頭を撫でて優しい口調でお前が悪くて俺は正しく躾をしているのだと主張してくる。

 その他にもクルミさんにセクハラ、サイモンさんにパワハラもするし、施設長1人でハラスメントの大半はクリアしてるんじゃないだろうか……。

 ハラスメントを凝縮したような男って本当に存在するんだなと思うほどの天然記念物だ。


 しかし殴られるのも嫌なんだけど、頭撫でてくるのとか抱きしめてくるのとかマ・ジ・で!気持ち悪いから辞めて欲しい。

 洗脳の常套手段なんだろうけど、私はそもそも前世では成人済みの社会人だったわけですよ。

 それなりにハードな恋愛経験も積んでるし…貴方みたいな器のちっさい見栄張り男に良い様に操作される事なんてないから。

 てかこの施設に商品としている人達は人生ハードモードの人達ばっかりだから洗脳される人の方が少ないかも。




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