第三十七話『嘘』
昨日の未明に目が覚めてしまって、その後二度寝をしたから今日は少し遅くに起きた。
朝食の時間はとっくに過ぎている時間で慌てて起き上がる。
雛菊も一緒に爆睡していたので、起こして着替えを済ませ広間に行ってみることにした。
もうとっくに朝食は片付けられてると思っていたけど、まだ片付けられてはいなかった。
ただ、今まさに片付けられる寸前ではあったから慌てて片付けをしている料理人に声をかける。
「あの、寝坊しちゃったんだけど朝ごはん、まだ食べられる?」
「……〜ッ!ぜっ全然大丈夫だよ!もし朝ごはん食べ損ねても、調理場にいる料理人に話しかければ余った物を出せるし、部屋に届ける事も出来るから遠慮なく言って!」
「わあ、ありがとう!そんな事もお願いできるんだね!」
「うん、仕事でこの屋敷に缶詰状態の人も多いから良くやるんだ」
そういうことなら慌ててこなくても良かったな、今度から寝坊したら利用しよう。
正直朝ごはんって、食べ忘れても次のチャンスのお昼ご飯あるから、良いかって食べない事とか結構あったし時間過ぎても食べられるのは嬉しい。
「お待たせ、白菜のミルクスープだよ」
「わあ〜ありがとう!美味しそう、いただきます!」
「おいしそう、いららきあす…」
料理人さんが片付けを中断して私達に朝食を用意してくれた。ありがたいです。
雛菊は相変わらず朝が弱いので寝ぼけて呂律回ってないし、首をふらふらさせながらも綺麗に食べている。
寝ぼけていてもいただきますを忘れないし、こぼさず綺麗に食べてて本当にいい子!偉すぎる。
白菜ってこの世界にもあるんだな、しかもこれはモロ白菜。
色も形状も味も全てが地球と同じだ。
ミルクでとろっとろになるまで煮込まれた白菜が甘くて美味しい。
白菜以外にも小さく切られた鶏肉も入っていてじわっと肉汁が出て来て最高。
この世界の食材って地球とどこまで同じなんだろう、昨日書庫で食材系の本見つけられなかったんだよな。そんなに気にする事でもないと思うんだけど、気付かぬうちにゲテモノ食べてたら嫌だから把握しておきたい。
など考えながら食べていたらあっという間にスープが無くなってしまった。
考え事しながら食べていると無くなるの早く感じるよね。
「ごちそうさまでした!」
「美味しかった!満腹!」
「うん、じゃあお皿もらっちゃうね!」
私達が食べ終わる頃に丁度片付けが終わった料理人さんにご飯のお礼を言うとお皿を片付けてくれるらしいので渡そうとしたら、雛菊が自分の皿を強く掴む。
「雛菊も一緒にお手伝いする!食べ終わるの待ってもらったし、運ぶのだけでもやりたい!」
「…そうだね!お片付けしたい!」
「うーん、えっと…じゃあお願いしちゃおうかな?」
私達の突然の提案に料理人は困った顔をしていたけど、提案を渋々飲んでくれた。
雛菊は昔から変わらずにこんな感じ、手伝うのは自分の意思で、自分だけが手伝えればいいと思っているから、私達って言葉使わないんだよね。
自分がやるなら、当然柊もやるのが当たり前って思考にならないのはとても素晴らしい考えだけど、私は、雛菊がやるなら可能な限り全部一緒にやりたい。
「お兄さん名前なんていうの?雛菊は雛菊だよ!お姉ちゃんです!」
「柊は妹!」
「僕は笹木朔太、料理人見習いだよ」
「そうなんだ!だからお片付けしてたの?」
「そう、片付けは通常見習いの仕事なんだよ、調理場が忙しい時は黒子さんにおまかせしちゃうんだけど」
「へえー!いつか朔太お兄さんの料理食べたい!」
「朔太お兄ちゃんの料理、絶対美味しい!」
「嬉しい。2人に食べてもらえるようになる為に頑張るよ」
調理場に着くまでお互いの好きな食べ物や嫌いな食べ物の話をしたり、好きな本の話をしたりと色々な話をした。
距離がそんなにないから長々と話したわけじゃないけどね。
「笹木戻りました」
「今日もお邪魔します!」
「おそよー!」
朔太さんが戻った事を私達がお邪魔する事を伝えると、奥から銀次郎さんが素早く近づいて来た。
朝食を食べるのが遅くなってしまって、全体の片付けも遅くなっちゃったので、自分で皿洗いをする事を伝えるとそんなことは気にしなくていいと皿を取り上げられ、いつものように頭をグチャグチャに掻き回された。
今回は朔太さんも一緒に掻き回されていた。
結局片付けは手伝わせてはもらえなかったので、大人しく部屋に戻ろうと廊下を歩いていると後ろから声がかけられる。
振り向くと京さんが手を振りながら走って来ていた。
「2人ともおはよー!こんな所で会うなんて奇跡が過ぎるね!」
「おはよ!京お姉さんもここに住んでるの?」
「ううん、違うよ!検査の結果が出たからサイモンさん達に知らせようと思って来ただけ」
「おおー!もう出たんだ!」
「早ーい!」
京さんはサイモンさん達を探していたようで私達に会ったのは本当に偶然でついでに声を掛けたようだ。
どうやら迷子っぽかったので、サイモンさんのところまで案内してあげることにした。
京さんの方がこの組と長い付き合いの感じがするのに、部屋の場所とかを把握しているわけではないんだな。
それか、把握はしてるけど方向音痴で辿り着けないだけか。
「サイモンさんにマイロくんの検査結果も渡しておくね!」
「ありがとうございます」
「この検査結果で体に何か入っている事が分かったよ、でもそれが何なのかはまた詳しく調べて見ないと分からないから、あと数日もらっても良い?」
「異物が入っていると分かっただけでも有難いのに、ご苦労をおかけします」
「全然!むしろこういうの大好きだから!」
今回の検査で全てが分かるわけじゃないのか、それでも入ってると分かったことが凄いよね。
京さんは頭の中の物も心配していたけど、サイモンさん達の栄養失調もかなり心配していた、ただ栄養失調以外の目立った病気とかが無かった事を驚かれた。
施設では不衛生な生活を余儀なくさせられていたけど、その限られた中で手洗いやうがいは皆、頑張ってやってたからね。
その努力の成果です。それでも病気になってしまい、手の施しようがなく亡くなった人もいるけど。
「そうだ、柊ちゃん」
「なぁに?」
「仁美さんに聞いたんだけど、背中に火傷の痕があるんだよね」
「……うん!あるよ!それがどうかしたの?」
京さんがとても深刻そうな顔をして聞いてくるからもっと大変な事があったのかと思ったけど、そんな事か。
いくら薬を持っていると言っても、背中全体に広がっている火傷痕を見て仁美さんも心配になったのだろう、でもなんで京さんに言ったんだろう。
この人は研究者で医者さんじゃないのに……医者じゃないよね?
「火傷の痕って専門のお医者さんに見てもらったことある?」
「ううん、ないよ!」
「…そっか、でもお薬は貰ってるんだよね?それは誰から?」
「ん?時々来る白衣を着た人に貰った!」
「それってどんな人かな?髪の色とか喋り方とか?」
「うーん、フード被ってたからよくわかんないけど声が低くて、乱暴な口調の人だった!だろ?とかあ?とかよく使ってたよ!」
火傷痕を専門の人間に見せた事はない。
この世界に皮膚科なんて居ないから、総合的に見てくれる町医者に何回か掛かっただけ。
その人も感染症を何とか防ぐことが出来ただけでそれ以外のことはされていない。
私の話に京さんは終始苦しそうな、悲しそうな顔をしていた。
私が見ているのが分かってたから、いつも通りの笑い方に戻ったけど。
気遣いができるいい女性だ。
「白衣の人は専門のお医者さんじゃないんだよね?」
「うん!自分で発明家って言ってたから違うよ!でも、お医者さんの免許は持ってるって言ってた!」
「そうなんだね、柊ちゃんありがとう!いろいろ教えてくれて」
「いえいえ!」
真実に嘘を混ぜると真実味が増す。
白衣の人が来ていたのは本当、その人が医者の免許を持っていることも本当。
診察もしてくれるし、薬を持って来てくれるのは嘘。発明家っていうのも嘘。
薬に関しても私が管理している畑から薬草だけを摘んで来てくれてるだけで、その人が調合してくれてるわけじゃないし。
京さんに言った内容だと、白衣の人はルゥっぽいけどルゥじゃない。ルゥは一応医者の免許持ってるけど、施設に来た事は幸太郎さん達の一件だけだし、医療行為をする事って稀なんだよね。
目の前で人が死にそうになってても、発明の方が大事って見捨てるタイプだし。
私達の診察にこっそり、来ていたのはオリバーさんなんだよね。
オリバーさんマジで忍びの者ですか?ってくらいの気配がないから、私の薬が無くなるタイミングで施設に忍び込んで届けに来てくれていたんだ。
その薬のついでに、みんなの診察をしてくれてたわけ。
オリバーさんは中性的な人なので、声低くないし、口調丁寧な人だから荒い口調に関しても嘘ついた。
因みにオリバーさんは医者としては世界トップレベルで最っ高の腕を持ってるけど、発明はからきしです。
まぁ、どっちか分かんない方が特定されづらくて、どういう関係か聞かれなくて楽だからこの嘘は良く使っている。
ルゥって知る人ぞ知る人物!じゃなくて、特徴を言ったらある程度特定のされちゃうくらいには、有名人だし。ルゥ自身の事をベラベラ喋ったこと知られたらルゥに怒られるからいつも混ぜこぜで話してる。




