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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第三十六話『未明の訪問鳥』

 昨日と同じように食器を片そうとしたんだけど、目を離した隙にまた消えてしまい、黒子さんに先を越されてしまったと雛菊が嘆いていた。

 お礼をする為にまだ配膳をしていた文哉さんに近づき、お礼を言うと態々私たちの目線に屈んでこちらこそと言ってくれて、この後の予定を聞かれたので特にすることもなくのんびりする予定だと言うと書庫に行ってはどうかと提案をされた。

 書庫の出入りは自由で誰でも使えるので行ってみるといいと言われたので早速向かってみる。



 

 書庫は見上げるほどに高い本棚がたくさん有り書庫というよりは図書館みたいだった。

 様々な種類の本が置かれていて、絵本から分厚すぎる歴史書まで幅広くあり、他国の歴史書も置いてあって本当に豊富だった。

 ただ、本棚の上の方にある本はどんなに頑張っても取れないし、ローラーが付いたドデカイ階段を移動させて取るシステムになっているけど、それも重すぎて動かせないので上の本が読めなかったのが心残りだ。

 今度来る時は暇そうな大人を1人連れて来た方が良いかも。

 どんな本を読んでいるとか知られたくないから出来れば組の人じゃなくてサイモンさん達の誰かを誘おう。

 マイロくんとか本大好きだから直ぐに飛びつきそう。



 書庫には夕食の時間なるまで雛菊と2人で本を読み漁った。

 主に雛菊は絵本、私はこの国の歴史書と他国の歴史書を中心に見て、この国の常識や価値観などを学んだ。

 

 夕飯は卵とじのお粥で優しい味付けの心が休まる料理だった。

 夕飯を食べ終えたらお風呂に入る。

 今日は施設の人達だけじゃなく、実さんの奥さんである仁美さんもいた。



「あら、朝ぶりね!」

「仁美おばちゃんこんばんわ!」

「初めまして!雛菊です!」

「挨拶できて偉いわね!私は仁美よろしくね」

「仁美おばさんよろしく!」


 

 昨日は移動して来たばかりで緊張してしまうだろうからと施設から来た人達だけの貸切状態だったが、今日からは組の人達と慣れるためともう一つ、昨日は普通にお昼時に入ったから貸切状態だっただけなのもあって、これからは一緒に入る事になるそうだ。

 昨日の今日で早すぎない?って思うけど大浴場は男女で2つしかないので、施設の人達が出るのを待っていたら組の人達が入り終わるのが夜中になっちゃうのでそうなった。

 しょうがないね、見た感じみんな特に気にしている様子もないので対処はしない。



「柊、背中の火傷痕何があったの」

「ん?これ?これはお父さんに付けられたの!」

「っ!」

「小さい頃いっぱい殴られてて、死ぬかもって思った時に抵抗したらかけられた!」

「いたいけな女の子に酷いことするね」

「お母さんがすぐに病院に連れて行ってくれたからこれくらいの傷で済んだんだよ!あと、火傷痕が無くなる薬をくれた人がいてこんなに薄くなったんだ!」



 火傷痕は母親を庇った時に出来た物。

 元々は私たちが殴られていたんだけど、母親がそれを庇って代わりになってくれた時、相当腹を立てていたのか父親が母親に向かって熱湯が入った鍋を投げつけた。

 その時に咄嗟に庇って出来た痕なんだけど、母親を探してもらっている今、この事実を言うと総一郎さんがまた怒り出す可能性があるので嘘を言っておこう。


 それから薬を貰ったと言ったけど、実は自分で栽培している薬草を使って自分で薬を作っているので提供者は私自身だ。

 これも今言うと大っ変、ややこしくなるので言わないし、今後も言う気はない。


 お風呂から出た後はいつものように雛菊とクルミさんに薬を塗ってもらって、新しいパジャマが準備されていたので、それに着替えて髪を乾かしたら私と雛菊はすぐに寝落ちだ。

 本を読んでたくさん頭を使ったから疲れたのかも。






 しかし早く寝たからなのか未明に目が覚めてしまい、目が冴えてしまったのでブランケットに包まりながら、雛菊を起こさないように庭に出た。

 因みにブランケットは今日の整理整頓で箪笥の中から出て来た。

 服と同じように淡いクリーム色と白色の2種類あったので雛菊と分けた。私は白色を使っている。

 庭に出ると深夜ということもあって昼間の騒々しさがかけらもない、無音が広がっていた。

 1人くらいは夜更かししている人間がいてもおかしくないけど、このクソ寒い中外に出てくる人はいないか。

 1人で静かにゆっくり考え事もしたかったし丁度いいな。



 そんな事を考えて縁側に丸まって座り空を見上げると1羽の鳥がこちら目掛けて飛んでくるのが見えた。

 気づいた時には時既にお寿司……遅し、顔面に鳥が引っ付いた。



「ぶっわっ!もぉー、毎度毎度突っ込んでこないでよ。君のご主人様にそう教育でもされてるの?」



 突っ込んできた鳥はルゥと連絡する為の伝書鳥だった。

 施設にも何度も来ていたけど、その度に突進してくるのでルゥにそう躾けられていると私は睨んでいる。

 絶対におかしいもんね、おやつという名の賄賂あげてるのに突っつかれるし。


 

 この鳥は伝書鳥なので、手紙や小さな荷物以外が入っている時以外私の所に来ることはない。

 案の定、鳥が背中に背負っているカバンが少し膨れていた。



「今回はいつもより随分と返事が早いな。いつもは手紙送っても急用じゃない限り1ヶ月経っても連絡ない時だって良くあるのに」



 さてはオリバーさんに叱られて渋々返事書いたな。

 鞄から手紙を取り出そうと手を突っ込んだら手紙ではない感触が指先に触れる。

 またかと呆れながら硬い筒状の物を引っ張り出すと正体は小さい巻物だった。



「オリバーさん、また変な物にハマってるな。普通の便箋の方が証拠隠滅が楽だから辞めてって言ってるのに……」



 便箋を用意するのは大体ルゥの助手をしているオリバーさんなので、あの人がおかしな本とかを読むと便箋が変わった物に変わる。

 ルゥは研究と発明以外の事は無頓着なので気にせず用意されたものを使うんだよね。 

 こちらが不便だから受け入れないで欲しい、争ってくれよ、巻物なんて書きずらいだろ。


 手紙を隅から隅まで読んだが、内容はいつもとそう変わらない。

 私が突然引っ越したことと総一郎さん達湊崎組についてもっと細かく教えろと書いてある。

 細かくって言っても手紙に書いた以外の情報を私は持っていないから、自分達で調べてくれとしか言えない。

 あ、MRI装置の事は書けるか、書庫で読んだ本の内容はルゥが知らないわけないから書かなくていいでしょう。

 


 私は手紙に一通り目を通すと返事を書く為に鳥を連れて一旦自室に戻り、鳥の鞄に入っていた返信用の巻物に昨日から今日に掛けての事を細かく書いた。

 この巻物、オリバーさんが選んだだけあって意外に書きやすい。

 あの人こういうセンスは抜群にいいんだよな、そのセンスが変な方向に独特ってだけで。


 書き終わったら鳥の鞄に巻物を入れて、カバンに入っていた餌を鳥にあげる。

 本当はパンとかあげたかったけど、こんなに早く来るとは思ってなかったので準備が遅れた。

 今度銀次郎さんにお願いしてパンのかけら貰っておこう。



 餌を食べて上機嫌になった鳥を連れて庭に出るとすぐに飛び立って行ってしまった。

 鳥の後ろ姿に小さく手を振り、その姿が見えなくなるまで見送った。



「無事に飛んでったみたいだし、なんか眠くなったから二度寝しようかな〜」



 私は足音を立てないように、でも小走りで部屋に戻ってあったかい布団で眠った。





「……」



 鳥を見送っている時には眠気が来ていたので私は気づかなかった。

 慣れない気の張った環境の中で、知り合いのルゥの鳥が来た事に、少し気持ちが緩んだのかもしれない。


 鳥を放っているところを見られていた事に私は全く気付かなかった。


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