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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第三十一話『呼び出し』

「雛菊ちゃん!柊ちゃん!いるっすか?俺っす虎徹っす!」

「虎徹お兄さん?」

「はーい!今開けるね!」


 虎徹さん、っす多用しすぎじゃない。ちょっとコッテリだったよ。

 頭の中でツッコミながら襖を開けると満面の笑みを浮かべた謎に楽しそうな虎徹さんが屈んでいた。



「虎徹お兄ちゃんどうしたの?」

「突然押しかけてごめんっす!今暇っすか?」



 なんだその下手なナンパ野郎の誘い文句の様な質問の仕方は。



「暇だよ?」

「なぁーにもする事ないからお手玉で遊んでたくらい暇!」

「それは良かったっす!」



 とても暇な事を虎徹さんに伝えるとただでさえ上がっている口角が数センチまた上がった。



「実は組長からお話があるらしいっす!」

「え?昨日お話したよ?」

「そうらしいっすね!でも昨日のお礼がしたいから直ぐに来て欲しいそうっす!」



 虎徹さんの用件は総一郎さんの伝言だった。なんだ、てっきり遊びのお誘いでもしてくれるのかと思った。

 てか、昨日の今日で呼び出しってスパン早過ぎない?もうちょっと間隔空けてくれても良いよ、面倒だから。



「行きたいんだけど、雛菊達パジャマしかないよ?」

「昨日洋服回収されちゃったから着替えない!」

「あれ?あそこのタンスに新しい服入って無かったっすか?」

「「え?」」


 

 虎徹さんが指差す方には備え付けの箪笥。

 その箪笥に近づいて1番下を開けてみると引き出しいっぱいに子供服が溢れそうなほど入っていた。



「わあ!全然気付かなかった!」

「すっごい大量…」



 昨日箪笥を調べた時には何も入っていなかったのにいつこんな大量の服を入れたんだろ。



「召使いの方がいるんっすよ!その人達が色々準備してくれるんっす!部屋の隅のあの籠に洗い物入れとくと次の日には綺麗になって帰って来るっす!」

「凄い!」

「黒子さんだ!」

「こういうの、テンション上がるっすよね!」

「「うん!」」


 びっくりしている私達に虎徹さんは丁寧にこの現象について教えてくれた。

 黒子さんは絶対に人前に姿をさせることはなく、姿を見せるのは湊崎組の組長家族だけなんだって。

 黒子さんは洗濯も回収してくれるけど、部屋の掃除なんかもその人たちがやってくれて配膳などもやってくれるそうだ。

 朝食の時料理が現れて、食べ終わった食器が勝手に片付けられていたのは黒子さんの仕業だったのか、それで秋巴さんはニヤニヤしていたんだな。

 教えてくれれば良いのに…無駄にびっくりしないといけなくなったじゃん。


 それから余談で若衆達の洗濯や掃除は基本的に本人達がやる決まりだそうで、黒子さんが動くことはないんだって。

 虎徹さんも仕事を覚えるまでの数週間はやってもらってたらしいけど今は全部自分でやってるらしい。

 黒子がかっこいいと3人で盛り上がっていると虎徹さんの背後に急に人影が現れて、雛菊が教えようと後ろを指差そうとした瞬間凄まじい勢いの拳が虎徹さんの頭を直撃した。



「いったぁぁぁぁあーー!!雨音!?なにするんっすか!?」

「お前こそ何やってんだ、組長待たせてんじゃねよ」

「はっ!話に夢中になってすっかり忘れてたっす…」

「取り敢えず2人を連れて行くぞ…お前は後で健剛さんから説教あるから」

「うそ!?健剛さんだけはいやっす!」

「はい!雛菊達まだお着替えしてないから待ってて欲しい!」

「あぁ、パジャマのままなのか。いや急に来た俺達が悪いんだ。ゆっくり着替えてくれ」

「ありがとう!」

「優しい!」



 虎徹さん、健剛さんの説教が待ってるのか。御愁傷様です。

 2人が急いでいるところ申し訳ないけど、流石に寝巻きのまま人様の前で過ごす事には抵抗があるので、ゆっくり着替えさせてもらおう。

 お許しも出たしね。

 雛菊はもう箪笥の前にいてどれにするか選んでいた。



「いいのあった?」

「うん!これ!」



 そう言いながら雛菊が見せて来たのはパステルカラーのオーバーオールだった。

 可愛い、こんなのがこの世界にもあるんだな。

 箪笥の中を良く見ると同じく形の服が色違いで入っていた。

 色違いだと都合がいいこともあるからこれはありがたいかも。

 雛菊も喜んでるしね。

 オーバーオールは桃色と水色の2色があったので、雛菊は桃色、私は水色を着ることにした。



「じゃん!可愛い?」

「めっちゃ可愛いっす!」

「かわいい容姿にスポーティな服が良いバランスで合っている」

「ありがとう!」

「じゃ!着替えが終わったところで組長の所に行くっすよ!」

「「はーーい!」」



 虎徹さんの反応は予想通りだったけど、雨音さんの反応は意外だった。

 無愛想だから、しっかり感想をくれるとは思わなかったよ。

 アマネとは大違いだな、アイツ服とか可愛いって言ったとこ見た事ないし、メイクもどう?って聞かれても良いんじゃない?としか言ってなかった。

 同じなようで同じじゃないんだな。





 虎徹さんは怒られるのが嫌なようで早足で組長室までの廊下を歩いていたけど、私達子供の足では到底早くはいけないので途中で諦めて普通に歩いてくれた。

 足が遅いのは本当に申し訳ないけど、健剛さんの怒りがこっちにまで飛んで来るのは勘弁願いたいな、めんどくさいし。

 


「組長、雨音虎徹戻りました」

「2人をお連れしたっす!」

「おぉ、入れ」

「失礼します!」

「失礼しますっす!」


 

 雨音さんと虎徹さんは保弘さんと違ってしっかりと挨拶をして入室の許可が出てから襖を丁寧に開けた。

 保弘さん、見ていますか?これが正しい上司の部屋の入り方です。



「雨音、虎徹ご苦労だったな。俺の手が空いていれば自分で迎えに行ったんだが、丁度立て込んでてな。助かったよ」

「いえ!何なりとお申し付けくださいっす!」

「組長自ら行かれるなんて辞めてください。下の者はビックリしますし、健剛さんがブチギレます」

「ははっ、それもそうだな。健剛がキレるとおっかないからお前らに頼んで正解だったよ」



 部屋に入った瞬間から健剛さんに怒鳴られるのを待っていたけど、今日はいないみたいだった。

 改めて3人のやり取りを見て思ったけど、上司と部下の距離が近いんだよな。

 私のヤクザのイメージって映画とかゲームみたいな、フィクションの物でしか見た事ないからもっと完全な縦社会で、舐めた口利こうものなら目を潰されるとか指切られるとか最悪殺されるとかそんなイメージだったんだけど、この世界のヤクザはちょっとイメージが違う。

 やっぱり反社会的組織ではなく、国王に認められてる組織って所が違うからこの認識のズレ?みたいなのがあるのかな。



「雛菊達も急に呼び付けて悪かったな」

「暇だったから平気!」

「お喋り楽しいもん!あ、このお洋服って総お兄さんが用意してくれた物?」

「お、似合ってるな。お前達の服は俺の奥さんが用意したやつだ」

「紫お姉さんが用意してくれたのか!」

「あとでお礼言いに行かないとね!」

「ん?何だお前らもう紫に会ったのか」



 この可愛い服を選ぶなんて紫さんはめっちゃセンスが良いんだな。子供っぽくなくて着やすい。

 紫さんって出会った時に浴衣を着ていたからオーバーオールとかカジュアルな物を選ぶようには見えなかったけど、こういう服が好きなのかな?

 浴衣はパジャマで普段着は違うのかも。


 私達は昨日来たばかりなのにどうやって背丈ぴったりの服を用意出来たかは気になるけど、大人達の下着同様に怖いから聞くのは辞めておこう。


 てか紫さん、昨日縁側で会ったこと総一郎さんに話してないんだな、報告しているとばかり思ってた。



「昨日縁側で会ったよ!」

「とっても綺麗だった!」

「なんだ、紫のやつお前達に会ったなら言ってくれりゃ良いのに」

「忘れてたんじゃ無いっすか?」

「紫さんならあり得るかと」

「あり得るな、しっかり者に見えてぽやぽやしてること多いからな」



 そうなんだ、あの綺麗なクールな容姿で天然っぽい人なのか。これは、ギャップ萌えって感じだね。


 さっきから話が逸れまくってるけど、良いのかな?

 まぁ、いっか今ここにはガミガミ口煩く言う健剛さんはいないからのんびりしているのだろう。

 


「じゃあそろそろ本題に入るか、改めてになるが昨日は弟の話を聞かせてくれてありがとな。お前達にも辛い出来事を思い出させちまってすまなかった」

「ううん、全然!悲しかったけど、コウくんとの楽しい思い出も思い出せたから!」

「辛いこといっぱいだったけど、楽しいことの方が多かった!」

「…そう言ってくれると助かる。……それでだ!俺達が知りたかった事を教えてくれたお前達に何かお礼をしたい。なんか欲しい物あるか?」



 突然お礼をすると言われて雛菊はキョトンと首を傾げていたが……私はチャンスだと思った。


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