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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第三十話『美味しい朝食』

 チュンチュンと小鳥の鳴き声が意識の遠くから聞こえる。

 まだ微睡の中にいる頭の中に心地の良い鳴き声が聞こえたかと思えば、直ぐに騒々しい音がダイレクトに耳に入って来た。



「野郎ども起きなさーーい!何時だと思ってんのーー!」

「ひ、仁美さん、勘弁してください〜」

「あと5分だけ、許してくださいぃぃ」

「何言ってるの!君達の上司はもうとっくに起きて仕事してるよ!早く準備して仕事に取り掛かりなさい!」

「「「マジかよ!今すぐ着替えて行きます!」」」



 ここは一樹さん達の部屋も近いけど、若衆達の部屋も近い様で何やら慌てたような声が聞こえて来た。

 布団の外は寒くて出たくはないけど、外の様子が気になるので寝ぼけた頭を振って襖を開けて廊下に顔だけ出し、音のする方を見ると寮母さんの様な女性がフライパンとお玉を持って廊下の真ん中に立っていた。


 すごい、ドラマとかで良く見る定番の起こし方をしている。

 それにフライパンを持っているあの女性は昨日虎徹さんと一緒に施設のみんなの部屋案内をしてくれていた人だ。

 私が女性をガン見していると視線に気付いたのか振り返りこちらを見た。



「あら?とびきり可愛い子がいるね!」

「おはようございます!」

「はい、おはよう!見ない顔だね、施設から来た子?何ちゃんかな?おばさんは田代仁美(たしろ ひとみ)

「仁美おばちゃんよろしくね!柊だよ!もしかして実おじちゃんの奥さん?」

「なんだ、実ともう会ってたのか。そうだよ私は実の奥さん」



 実さんって結婚していたのか、子供もいるのかな?私を肩車した時の動作がやけにスムーズだったんだよね。雑そうなのに。

 それにしても仁美さん綺麗な人だし、紫さんも綺麗だったしもしかして、ヤクザの奥さんって美人だらけなのか?



「実おじちゃん結婚してたんだね!」

「ふふ、独身っぽいでしょ?ああ見えて父親でもあるのよ」

「やっぱり!」

「やっぱり?」

「うん!肩車してもらった時に上手だなって思ったの!」

「そうなの?肩車なんて子供が大きくなってからやってなかったと思うけど、体が覚えてるのかな?」



 本当に子供がいるとは、私考察力抜群じゃない?

子供が大きくなってからって事はもう成人してるのか。

 


「あら、もうこんな時間。柊も広間に行きな?もう朝食用意されてるよ」

「そうなんだ!分かった、雛菊起こしたら行く!柊とお喋りしてくれてありがとうね!」

「こちらこそありがとう」



 仁美さんは若衆達起こしに戻って行った。私は雛菊を起こしに部屋に戻った。


 着替えが何処にあるか分からないので、取り敢えず寝巻きのまま広間に行く事にした。

 そんなに直ぐ朝食が下げられることはないと思うけど、万が一があるので雛菊の目が覚めるまでゆっくりしていられず、まだ寝ぼけていてふらふらしている。

 そんな雛菊の手を優しく引っ張って広間を目指す。

 昨日夕飯の時に軽く説明されたんだけど、朝ごはんは胃に優しい物が多いので広間に来て摂るようにと言われていた。

 夜は男性が多い事もあってガッツリした物メインに出されるから体が弱っている私達は食べられない。

 食べられないのに目の前で他人が肉をガツガツ食べていたらストレスに感じるでしょ?だから部屋で食事を摂るシステムにしたんだって。

 これに関して正直助かった。

 ステーキとか食べてる横でおかゆや豆腐みたいなのしか食べられないなんて拷問以外の何物でもないからね。

 それに体調が回復したらご馳走を作ってくれると銀次郎さんは言ってくれた。

 雛菊は大喜びだったし、私も普通に嬉しかった。



「お、雛菊に柊お早いお目覚めだなぁ」

「仁美おばちゃんに起こされた!」

「あぁ〜あのフライパンな。俺らも下っ端の時良くやられたわぁ、うるさくてすまん」

「ううん!施設では無かった事だから新鮮で楽しかった!」

「おめぇは本当にポジティブだなぁ。で、雛菊はモロ寝てっけど飯食えんのかぁ?」

「大丈夫だよ?雛菊食べる事大好きだから寝ながらでも食べるよ」

「寝ながらって…」



 広間に入るとやはり遅かった様で殆どの人が食べ終えて広間にはチラホラ人がいる程度だった。

 そのチラホラの中に秋巴さんがいて私達に気付いて声をかけてくれた。

 どこに座ったら良いかと聞いたら組長の席以外には特に指定の席などはないそうなので丁度話しかけられたし秋巴さんの隣にお邪魔する事にした。

 広間には昨日も来たけど、よく見ていなかったので改めて見回すと宴会場の様になっていてこの広さなら組員が全員座ってもまだまだ余裕がありそうな程広い。

 組員がどれくらいいるか知らないけど。

 辺りを見渡し終えてテーブルに目を向けるといつの間にか料理が置かれていた。


 あれ?ちょっと目を話しただけなのに、いつ置かれたんだろう?

 私が不思議そうに首を傾げている姿を秋巴さんは愉快そうに笑うだけで聞いても特に何も教えてはくれなかった。

 意地悪だね〜私も人のこと言えないから大人しく食べますけどね。


 

「…マジかぁ、コイツ本当に寝ながら食ってやがる」

「だから大丈夫って言ったでしょ?」

「…おい、しぃ〜」

「喋ったぞ」

「寝ぼけてるだけだから気にしなくて良いよ!」

「ははっ、本当に面白ぇチビだなぁ。…っし俺はそろそろ仕事に行くわ、しっかり食ってデカくなれよ」

「はーい!」

「う〜ん」



 雛菊の寝ながら食事をする姿に一通り笑ってから秋巴さんは仕事に行く為広間から出ていった。

 雛菊の返事なのか判断出来ない唸りにも吹き出して笑っていた。

 出会った時はただ怖い人ってイメージだったけど、もしかしたらゲラなのかも?


 


 今日の朝ごはんは焼き鮭と豆腐のお味噌汁だった。

 しかし残念ながら私達は鮭をそのまま食べられるわけではなくお粥の具材として鮭が入っている感じだった。

 美味しいから良いんだけどね。



「「ごちそうさまでした!」」



 ご飯を食べ終える頃には目が覚めていた雛菊と元気に食後の挨拶をして、食べ終えた食器の処理をどうしようかと周辺をキョロキョロ見ていたら目の前の食器が突然姿を消した。

 これは食事が現れた時と同じ現象だ。

 今回初めてこの現象を体験した雛菊はひっくり返るほど驚いて不思議そうにテーブルの下などを探していた。

 私は2度目って事もあってここはもうそういうものなんだなと受け入れる事にした。

 考えたって分からないし、後で教えてくれそうな人に聞こう。


 食器が消えた後、雛菊が料理を作ってくれたお礼をしたいと言うので調理場に足を運んだ。



「「おじゃましまーす!」」

「あれ、2人ともこんな朝早くからどうしたの?」



 調理場に行くと朝ごはんは終わった筈なのに料理人達は慌ただしく動き回っていて静かに入っても気付かれずに蹴っ飛ばされる恐れがあるので大声で来た事を知らせた。

 忙しいのは承知の上だがせっかく雛菊がお礼しに来たんだから甘んじて受け入れてもらおう。

 手短に終わらせる予定だし、良いよね。



「あのね、忙しいところごめんなさい!昨日のお蕎麦と朝ごはんのお礼に来たの!とっても美味しかったありがとう!」

「あったかくて、お腹に優しい物でほっぺた落ちた!」



 一人一人を捕まえて丁寧にお礼を言うと流石に迷惑をかけるので調理場に響き渡るように大声で料理人達に間接的に伝える。

 これなら子供の可愛いお礼に捉えてもらえるし、面倒じゃない。

 これすらも批判する人は私の内心を知っている人か、人間のゴミだから気にしなくて良いよね?



「はぁー、君達は本当に良い子だね。態々お礼を言いに来てくれてありがとう、料理人として嬉しいよ」

「お前ら可愛いじゃねぇか!好きな物好きなだけ言え!今は作れねぇけどお前らが体力取り戻したら作ってやるよ!」

「ぃやったぁー!ケーキ食べたい!イチゴのやつ!」

「柊はお寿司!」

「おう!腹が破れるくらい作ってやる!」



 大声で言った効果はあったようで文哉さんには頭を撫でられて、近づいて来た銀次郎さんには高い高いをされた。

 調理場にいた料理人達にもしっかりと聞こえたようであっちこっちから野太い返事をもらった。

 でも、銀次郎さんの私達の扱いが雑過ぎて服も髪もボサボサになった……

 そんなボサボサにされた髪を楽しそうに雛菊は見ていたけど寝癖より酷いので手櫛で整えてあげた。

 私の髪は雛菊がやってくれていた。

 その状況を見て文哉さんは銀次郎さんを怒っているし、調理場の奥の方には血走った目で見つめてくるロリコンがいてそいつが1番鬱陶しかった。




 忙しそうな騒々しい調理場から静か過ぎる部屋に帰って来て私達は特にすることがないので昨日と同じように絵本を読んだり、いつの間にか置いてあったお手玉などを使って遊んでいた。

 そうして過ごしていると襖の向こう側から元気で明るい声に呼びかけられた。


 

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