第二十九話『1日の終わり』
調理場を後にした私達は丁度いい時間なので夕食が来るまで大人しく部屋で待っている事にした。
部屋に戻ったら雛菊は部屋の机にいつの間にか置かれていたお絵描きセットに今日見た景色や物、料理長に貰ったふろふき大根など様々な物を絵にして描いていて。
私は自身が初めから所持していた手の平よりだいぶ大きいメモ帳に今日の出来事を事細かく書き出していった。
今日探検した場所の間取りや、会った人の名前と見た目の特徴、どんな喋り方をする人なのか、会話で得た家族構成、覚えている限りの全ての情報をメモ帳に書いた。
敵がいないとしても武器になる情報がどこにあるかなんて分からないから出来る限り把握しておきたい。
そうしてそれぞれの時間を過ごしてから数十分がたった頃襖の外が騒がしくなり外から声が掛けられた。
「おーい!飯持って来たぞー!」
「あれ、料理長?」
「ご飯やったー!でもどうして?」
「これがびっくりな事にたまたまだ!」
「たまたまなのか!」
「いや、本当にたまたまかと言ったらそうではなく子供達の食事運んだらお前らに会えるかなと思って来た!」
「じゃあ会えたね!」
偶然ではなく仕組まれた再会だったな、てかこの人配膳なんてする立場の人じゃないから自分の仕事部下に…部下(副料理長の文哉さん)に押し付けて来たな。
文哉さんの苦労が伺えるよ。
「ご飯なんだろ!」
「今日は胃に優しい豆乳湯葉蕎麦だぞ!」
「豆乳…」
「わあ!美味しそう!」
「お前らはまだ胃が万全じゃないから当分は胃に負担の掛からない料理だからな!あ、勢い良く掻き込むなよ!ゆっくり味わって食え!」
「かしこまりです!」
「はーい!」
豆乳ってこの世界にもあるんだ、まぁ殆ど日本と変わらないからあって不思議ではないんだけど、いつも思うけど、異世界って感じがしないんだよな。
私達に料理とその食べ方の説明をして銀次郎さんは隣の部屋に素早く移動してまた同じ説明を子供達にしていた。
銀次郎さんの性格的にもっと長居する物だと思っていたのに案外あっさり仕事に戻って行って意外だった。
サボる為に来た訳じゃなくて、本当に仕事をしに来てたのか勘違いして申し訳ない。
「早速食べようか!」
「そうしよう!お腹ぺこぺこ!」
「じゃあいただきます!」
「いただきまーす!」
雛菊と手を合わせて料理を口に含む。
豆乳湯葉蕎麦は前世でも食べた事はなかったけど、豆乳のスープが濃厚なんだけど意外にあっさりとしていて麺の上に乗ってる湯葉が優しい味で口の中で蕩けて、白だしも効いていてとても美味しい。体の底から温まって満足感も感じれる。
見ただけだと簡単に作れそうな料理だけど、出汁や麺にこだわりを感じて、優しい味付けが私達の体を気遣って作ってくれている事が感じ取れて心も温まる。
「あったかくて美味しいね!」
「ね!あったかいご飯久しぶりだね」
「…これ、お母さんにも食べたせてあげたい!」
「そうだね、きっとお母さんも喜ぶ」
この世界の母はあっさりとした料理が好きなので豆乳系の物は気にいると思う。
まだ会う事はないと思うけど、いつか作ってあげたいな。
ご飯を食べ終えたので食器を片そうと部屋から出ると襖の前に丁度銀次郎さんが通った。
「お!もう食べ終わったのか?」
「うん!美味しかった!ありがとう!」
「言われた通りゆっくり食べたよ!」
「そうか、お前ら偉いなぁ!食器もらうぞ」
私達の頭を撫でてから銀次郎さんは食器を受け取ってそのまま帰って行った。素早い…しごできだ。
「はぁ、今日は色々あって疲れたね」
「そう?雛菊は楽しかったよ!施設から出られたし、美味しいご飯も食べれてお風呂にも入れたんだもん!幸せ!」
「雛菊が幸せなら良かった」
「お母さんもここにいればいいのにね!」
「そうだね」
「ふぁ〜あ、雛菊急にねむくなってきた…」
「もう寝よっか、結構良い時間だし」
「そうだね〜、ひいらぎおやすみ…」
「おやすみ」
今日は本当に濃い1日だったな。色んな人に出会って、こんなに気疲れしたのは久しぶりかもしれない。
屋根のしっかりした隙間風の入らない家で、新品の寝巻きを着せてもらって、ふかふかの柔らかい布団に包まれて寝ることが出来てるなんて幸せだけど、不思議な感じ。
何より隣で幸せそうに寝ている雛菊が今日1日嬉しそうに跳ね回って楽しそうに笑っていた事が私は何よりも嬉しい。
雛菊の幸せが出来るだけ長く続くようにこれから頑張ろう。
とある国とある町の外れにある古民家に1匹の鳥が鳥専用の出入り口に勢いよく入って行く。
鳥は部屋の中を見渡して見覚えのあるボサボサの金色の髪の人間を見つける。鳥の巣の様なその髪に鳥は勢いをつけて突っ込む。
「こら、痛いじゃないか。人の頭に毎回突っ込むのはやめろ」
起きた人間の瞳は冷たいベイビーブルーで頭に突っ込んで来た鳥を叱るが撫でている手は壊れ物を扱う様に優しかった。
「柊からの手紙か、あいつから何か送られてくる時は面倒方だと決まっているが今度はなんだ」
そう愚痴を溢しながら鳥が背負っている鞄の中から手紙を取り出す。
手紙を雑に開き、一通り目を通すと人間は愉快そうに笑みをこぼした。
「これはまた面白い事になっているな。柊、お前は昔からトラブルに巻き込まれて私を飽きさせない」
人間が笑っていると部屋の扉が叩かれてゆっくりと開き1人の男性が顔を出す。
「ルゥ様、お夕食が出来上がりましたよ」
「オリバーか、今行く」
人間…もといルゥは鳥を連れて部屋から出て行った。




