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第二話『商品の日常』

 

 双子の1日は館内放送から始まる。

 昔録音されたガビガビの人の声に「朝になりました。起床してください」という号令を掛けられ、寝ていた者達が次々と起き始める。

 基本は同室の子達と行動をするので、起床したら使っていた毛布を洗濯籠に入れて一緒に井戸へ顔を洗いに行く。



「うひぃや〜〜!冷たい!」

「マユちゃんおいでータオルで拭いてあげるよ」

「マユもう拭いてるよ?」

「本当だ、偉いね」

「えへへっ〜、でもお着替えはまだできないの…」

「落ち込む事ないよ!雛菊が手伝ったげる!」

「ありがと!」



 もちろんぬるま湯なんて用意はしてくれないし、する事も許されないので冷たい井戸水のまま顔を洗う。

 私の隣で顔を拭いているのは、マユちゃん。素直な性格の白髪茶目の女の子。

 水が苦手なのでいつもタオルを濡らして拭いてあげていたが、いつの間にか自分で1から準備して出来るようになっていたようだ。



 顔を洗ったら服を白いロンTと長ズボンから全く同種の服に着替える。

 イメージは実験の被験者が着てるようなシンプルなやつ。



「なあー!ひいらぎーこの服ってもっとかわいくできないのー!」

「ずーっと交渉中でーす。諦めた方が早いまである。けど色変えるくらいなら材料さえ手に入れば作れるよ?」

「まじ?!でもその為には材料を買う為の交渉もしなきゃだよね?」

「そういうこと」

「はあー、無理かあー!」

「……ソヒョン、お直し用の赤い糸あるから………お花…刺繍したげよっか……?」

「ルオシー、いいのお!?」

「うん…お直しの時についでにやっとくね」

「マジ天使い!ありがとう!今度ルオシーが困った時何でもするね!」

「…ソヒョン…ありがとう……手貸してもらう」



 ソヒョンは元気で男の子の様に外を走り回る猩々緋色(しょうじょうひいろ)の髪と瞳を持つ女の子。

 ルオシーは大人しくて私と一緒に本を読んでる事が多い、黒髪黒目の女の子。

 全く真逆の2人が何故仲が良いのかと思うけど、実際の性格は逆なのである。

 ソヒョンは天真爛漫で小さい事は気にしない性格に見えるが実は繊細で小さい事で長時間落ち込むし、悪口を言われると直ぐに隠れて泣くような子。

 一方ルオシーは大人しい性格なのは確かにそうだが、小さい事に一々感情を持っていかれる事がない。

 悪口を言われても気にしないどころか覚えてすらいないし、「だから……?」と言い返す程に肝が据わっている。


 因みに2人とも気付いてないけど、服は特に誰のと決まっていないので洗濯したら刺繍された物は別の誰かの手元へ行きます。

 面白いから気付くまで放っておこ。




 着替えが全員完了したら食堂もどきに移動して自分達で食事の用意をする。

 何故もどきかというと調理場はあるけど冷蔵庫などの家電はこの世界では高級品で置いてないし、テーブルや椅子が置いてある訳でもないから。

 みんな朝食は地べたに座って食べてるんだよね。

 私達が勝手に食堂と呼んでいるからもどきなんだ。

 薄い布は敷いてあるから冷たくはないよ。



「はいはい!全員分あるからちゃんと並んでねー!あ、雛菊ちゃんに柊ちゃんおはよう!」

「クルミさんおはよー!」

「おはよ、朝からお疲れ様」



 今日の配膳当番はクルミさん。他にも何人かいるけどメインで回してるのはクルミさん

 名前と同じクルミ色の髪と瞳。

 しっかりとした性格で子供達を纏めるのが上手い、泣き虫だからちょっとした事ですぐに無く。

 イレギュラーにも弱いけど、そこは経験が少ないからだと子供達の管理をしているアグリさんが言っていた。



「今日も半分腐ってるね!昨日よりはマシかな?」

「そうだね、昨日よりは食べるところ多いかも?」

「みんなー!腐ったところは避けて食べてねー!」

「「「はーーい!」」」



 ご飯を食べ終えたら食器は洗い場に置くだけ。

 食器洗いはその日の当番に任せる決まりになっている。

 その後歯磨きをしてそれが終わったら施設長室に行く。

 届いてる手紙の仕分けと部屋の掃除が私達の主な仕事。

 たまに手紙の返信とかもやらされる時あるけど、本当にたまに。子供の私達に任せて貰えるのはこれくらいしかないからね。

 因みに施設長はよっぽどの事が無い限り、午後にならないと起きては来ない。

 重役出勤なんていいご身分で!と思うけど、実際重役だし仕方ないよね。



「柊、この書類どう思われますか?」

「ん?……あー取り敢えず今はどうする事も出来ないから施設長の指示に従って?」

「畏まりました。ではその様に」



 今私に話しかけて来た人は、私みたいな生意気な子供にも丁寧すぎる敬語で接してくれるサイモンさん。

 私達商品の全員の総括をしてくれている。

 たまに施設長の代わりに手紙の返信をしたり、来客の対応も任されている。

 5号棟で生活していて、私と雛菊と同じ古株。

 昔は家名を名乗っていたそうだが、訳ありらしいので今は名乗れないそうだ。

 イケオジって白髪が増えてもかっこよく見えるのなんでだろ? 

 サイモンさん黒髪に白髪混ざってるけど様になってるんだよな。




 書類仕分けと部屋掃除は午前中には終わってしまうので、掃除業務や商品梱包などを行なっている子供達と合流をしてお風呂掃除や洗濯や中庭の手入れなどを一緒にやることが午後は多い。

 もちろんお風呂は施設長や監視役のお兄さん方が使う物で私達商品は許可されていない。

 チッッ!

 目の前に風呂があるのに無念!



 これらの業務作業が終わると自由時間になり各々好きな場所で過ごす。

 子供達のお気に入りは1時間だけ天井が開く中庭。

 施設長に長年ねだり続けてようやく導入された、この地下施設で唯一日光を浴びられる場所。

 はぁ、みんなで駄々捏ねて殴られ続けた甲斐があったってものです…。

 人間は陽の光を浴びないとすぐに具合悪くなるから大事。

 今日も今日とて元気に鬼ごっこやかくれんぼなどをして遊んでいる子供達の声を聞きながら読書をしていると、施設内に取り付けられたスピーカーから施設長の声が聞こえて来た。



『雛菊、柊!仕事だ今すぐ来い!』



 ……はぁ、せっっかく日光を浴びながら読書してリラックスしてたのに不快な声が聞こえて来たよ。



「柊、早く行こ!」

「行きたくないよぉ〜、施設長の顔なんて見たくないよぉ〜」

「もーう!しょうがないよ、早く行かないとまた殴られちゃうよ?殴られる前にさっさと行って早く帰ってこよ!」

「……はーい」



 こういう風に呼び出されるのは毎日、書類整理が甘いとか正しくないとかどーでもいい事を言ってくる上に施設長が増やした書類整理をやらなければならない。

 私達の仕事はもう終わってるんです!残業はしません!

 間違いがあるならやりますけど、書類が少し曲がってるくらいで呼び付けないでいただきたい。







「施設長!雛菊が見参!」

「柊も見参!おまたせー!」

「遅いぞ!ふざけてないでさっさと席に着け!」



 部屋に入るとスーツでビッシリ決めて書類作業をしている施設長が座っていた。

 入って来た私達には目を向けずに指示を出して書類の説明もせずにもう自分の仕事に戻ってる。

 私達はいつも使っている机と椅子には厚めのクッションを置いて座り、机の上に乱雑に置いてある書類に目を通す。

 目を通し始めて数十分だった頃、隣に座っている雛菊に肩を叩かれた。



「ねぇ柊、これって」

「んー?」



 雛菊の方を見ると硬い声と表情で雛菊が見せて来たのは1枚の書類。

 そこにはマユちゃんの売り先が書かれていた。

 名前を見て即座にこいつは駄目だ、子供を甚振って殺す事で有名な男爵じゃんと思った。

 マユちゃんは2号棟に入れられるくらい可愛い子なのは間違いないけど、相場より大分多くお金が積まれている。

 通常は元の値段にちょっと上乗せするくらいだけど、これは多すぎる。

 …この男爵どんだけマユちゃんの事気に入ったんだろ?

 この金額が売る決め手になったんだろうけど、良くないよなぁ。

 男爵に売るのもだけど、雛菊が今にも施設長に噛み付いてやるぞ!って感じで見据えてるのが良くなぁい。



「施設長ー!柊、気になることありまーす!マユちゃんこの人に売っちゃうの?」

「…何の問題がある。マユでは到底積まれる事のない大金が積まれたんだ。売るのは当たり前だろ!……あぁ売った後の事を気にしているなら、どうでもいい事を考えるのはやめろ!死んだら新しい物を売り付けられるだろ?回転率が上がって良いじゃないか!」

「……ふぅ、そうなんだけどぉ〜!もっと高く買ってくれる人いたじゃん?こんな端金の方でいいのかなぁ〜てっ!」

「は?そんな話は出ていない。お前の勘違いだろ」

「あれ?この前来た伯爵夫妻がマユちゃんの事引き取りたいって言ってたでしょ?頭も良くて元気で素直で愛嬌があって好ましいって小切手置いていったでしょ?前金って言って!」



 引き取りの申し出をした伯爵の事は事前に調べてもらったけど貴族では珍しく愛人はいないし、愛妻家としても有名な人だった。

 奥さんの方も穏やかで子供達を見る目がとても優し人で、伯爵家には跡取りの息子さんはいるが、奥さんは娘さんも授かりたかったそうでこの組織を知った経緯は知人に紹介されたと言っていた。

 奥さんは息子さんを産んだ際に危険な状態になり、子宮を全摘してしまったんだって。

 こればっかりはしょうがないよね、旦那さんは奥さんの望みは知っていたけれど命には変えられないもん。

 地球のように医療が発展している世界じゃないから危険になったら全摘が当たり前なんだってさ。

 地球でも難しい問題なのにこの世界では余計に無理なんだって。

 魔法を使ったらまだ可能性はあったと言われてるらしいけど、魔法国は今鎖国状態で金を積んでも出てくる人はいないらしい。



 まぁ、魔法国の事は置いといて伯爵の身辺調査は全く問題なかった。

 領民との距離も近くて交流が盛んらしいから元気なマユちゃんにはピッタリだと思うんだよね。



「何でそんな重要な事を俺に報告しないんだ!!」

「…ごめんなさい。柊に言ってるんだから当然施設長にも言ってるもんだとばかり…」

「何も言われていない!!クソ!この無能がっ!サイモン!今すぐ伯爵に手紙を送れ!」

「…かしこまりました」



 ちゃんと情報共有しましたけど〜まぁ施設長だし仕方ないよね。

 これでマユちゃんの事を大切にしてくれる人に引き取ってもらえるなら、それだけでどんな理不尽もどうでも良くなるよ。

 雛菊の怒りも治って、今は楽しそうに書類整理してるし一件落着。 



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