表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/76

第二十六話『言わない』

 え、幸太郎さんが総一郎さんの弟!?

 びっくりするくらい似てない、柔らかくて明るさ全開の幸太郎さんと色気ムンムン影多き男総一郎さん。

 字面でさえも似ていない。

 ……この人が幸太郎さんの家族なら雛菊が幸太郎さんの死を伝えた事に落ち込んじゃうな。

 あー、最初っから私が伝えれば良かった。



「総お兄さんごめんなさい」

「何がだ、謝られる様な事はされてないぞ」

「家族が死んじゃった事、軽く伝えちゃった…」

「…そんなことか、気にするな。俺がお前らに教えて欲しいと言ったんだ。それに連絡が取れなくなった時点で覚悟はしていた、死んだ事が分かっただけでも良かったよ。だからお前らが気に病む事じゃない」

「……うん、ありがとう」



 やっぱり気にしてた、謝ることはない。

 私がもっと慎重になるべきだったってだけの話。

 総一郎さんが良いフォローをしてくれて良かった……ありがとうございます。



「2人とも教えてくれてありがとな、助かったよ」

「お役に立てたなら良かった!」

「いっぱいお話しできて楽しかった!」



 総一郎さんは私達に気を使わせない様明るく振る舞ってくれているが、無理矢理作った笑顔が余計に悲しく感じてしまう。

 今直ぐにでも泣き出したいだろうに私達がいるから下手に泣けないよね。




「総お兄ちゃんって幸くんとあんまり似てないんだね!」

「はあ?」



 重い空気の中私が軽く発した発言に健剛さんが怒りを露わにして、今にもボロカス言われそうな雰囲気を醸し出している。

 雛菊はニコニコしてるけど。



「お前は、ストレートに言うな?似ていないのは母親が違うからだ。それでも両方父親に似ればそっくりだったかもしれねぇが、あいにく俺は父親似で幸は母親似なんだよ」

「そうなんだ!お母さんが2人ってなんか不思議な感じだね!」

「なんだ?柊達は違う国出身なのか。この国は一夫多妻制が基本だぞ?その逆も可能だしな」

「逆?いっさいたふ?」

「雛菊よく知ってるな!それだ。一妻多夫はもちろん一夫一妻もありだし、男同士女同士もある。こうやって説明してみるとこの国は基本的になんでもありの国だな」

「へぇー凄いね!」



 総一郎さんの言う通り本当になんでもありの国だな。

 異世界では一夫多妻制って良くあるし、一妻多夫もあるけど、同性愛ってタブーみたいに扱われがちだけどこの世界……は大きく取りすぎか、この国ではオッケーなんだ。

 面白い国だなぁ〜、色んな国の文化が混ざってる感じで知れば知るほど変な国。



「ヒナギクはぁ〜一夫多妻制の意味ぃ分かってんのぉ〜?」

「うん!1人の旦那さんにいっぱいの奥さんがいる事でしょ?本で読んだことある!」

「なんでそんな本読んでんのよ」



 しょうがない、施設には子供向け用の本なんて数冊しか置いてなかったし、自分達で買ったりすることなんて当然出来なかったからね。大人向けの本は子供達の勉強にとても役に立ってたんだよ。

 エロい物以外ね。

 雛菊がどこで一夫多妻制の本を見たかは分かんないけど、この国で暮らしていくならいずれ知らないといけないルールだったし良いんじゃないかな?

 


「総お兄さん、幸くんとは仲良かった?」

「ん?そうだな〜仲が良いの定義は分からんが、そこらの兄弟よりは仲が良かったと思うぞ?幸太郎は俺を良く支えてくれた。俺は事務系はてんでダメなんだが幸太郎は率先してやってくれたな。その中で施設の仕事は珍しく率先してやりたいと言った仕事だった」

「そうなんだ!」

「自分が行くと聞かなかったんだよ?辛い事もあっただろうに、手紙ではいつも明るくてね」

「お手紙?」

「あぁ、幸太郎とは伝書鳩でやり取りをしていたんだ、中庭の天井が開く事を知った幸太郎が開く時間を狙って伝書鳩を飛ばしていたんだよ」



 え、幸太郎さんも中庭で伝書鳩のやり取りしてたの?危ない、私も同じことしてたから鉢合わせるところだった。

 木の影で隠れながらやってたとはいえ、自分と同じ行動をしている人って余計に目に付くからバレなくてよかった。

 幸太郎さんにバレたら絶対湊崎組に報告されちゃうもんね。



「ある日予定時刻を過ぎでも伝書鳩が到着しなくて、次の日もそのまた次の日も伝書鳩が来ることは無かったんです。それで心配になった総一郎様が僕を潜り込ませたんだよ。最初のうちは施設全員に警戒されていて動きづらかったけど、2人と仲良くなった途端に動きやすくなって、僕の問いかけにも嫌な顔をせずに素直に答えてくれる人が増えた」

「そうなの?知らなかった!」

「幸太郎の事を聞いても全員に知らないと言われたけどね。長くから勤めている護衛の人間に聞いたら来てすぐに辞めたって嘘をつかれるし、でもあの頃にはもう死んでいたんだね」



 あ、話を逸らしたのにまた幸太郎さん死んだ話に戻って来ちゃった。

 死んだって伝えてから全員苦しそうな顔をしているし、総一郎さんなんて顔は柔らかい表情をしているけれど、ずっと血が出るほどに手を握りしめている。

 総一郎さんは幸太郎さんを大切に思っていたんだろうね。

 殺した相手を…施設長を殺したいと思っている……のかな?

 殺されて悔しい、悲しいとか?

 総一郎さんの気持ちは分からないけど、大切な人間が殺される気持ちは痛い程よく分かるよ。




「2人とも色々とありがとな!重たい空気にして悪かった」

「全然!お話できて楽しかったよ!」

「うん!またお話してね!」

「あぁ、またな。お腹空いただろ?もうすぐ夕飯が出来るからそれまで部屋で休んでな。この環境に慣れるまでは飯も部屋に運ばせるから」

「わあ!ご飯楽しみ!」

「お寿司だといいなぁ」

「寿司はまだ無理だな。粥から健康を取り戻せ」

「「はーい!」」



 そうして私達は組長室を後にした。

 閉まる襖を何となく見つめていると隙間から総一郎さんが見えた。

 総一郎さんは俯いて片手で顔を覆い肩を震わせていた、海斗さん達も目に涙を浮かべていた。





「幸くんがヤクザなの意外だった!」

「ね!ほわほわ優しい幸くんしか知らなかった!」

「…普段は優しいが仕事をしている時の幸はおっかないぞ」

「そうなの!?」

「怖い幸くん!見ていたい!」



「幸くん…どこかで生きてないの?」 

「お前達は遺体を見たんだよな?なら望みは薄いだろ」

「でもさ、遺体を見て調べてみたら違う人だったってあるかもしれないでしょ?」

「……そうだな。施設は押収できた…調査する過程で幸の遺体が見つかったら鑑定に出すか」

「うん!別人だったら総お兄ちゃんも嬉しいかも!」



 白々しい事この上ないけど、この人達に幸太郎さんが生きている事を私の口から伝える事はない。

 みんなの共通認識で死んだとされている幸太郎さんを私が生きていると言った場合、どうしてお前だけが生きている事を知っているんだとなる。

 たまたま逃げるところを見たとかは言えない、だって地下に居たはずの私が地上で逃げている幸太郎さんの動向を知っているわけがないんだから。

 幸太郎さん隠しにはルゥも協力しているから尚のこと言えない。

 湊崎組の面々がいくら悲しんでいたとしても、私は雛菊の幸せを第一に考える。

 今幸太郎さんの事を伝える事は雛菊も巻き込む可能性があるから絶対にしない。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ