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シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

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第二十話『迷子を捜索』

 雛菊から数秒遅れて屋敷の中に入ると私達と一緒に来た施設の人達で玄関が溢れかえっており、若衆っぽい人達は忙しそうに右に左に走り回っている。

 大人だけでも結構な人数いるし、子供達なんて珍しい物に溢れているこの場所に興奮しまくっているので、捌き終わるまでに結構な時間が掛かりそう。

 それよりも私は体が小さいから下手に動き回って蹴り飛ばされない様に気をつけながら雛菊を探さなければ。



「男は僕に着いて来てくださいっすー!」

「女の子は私に着いて来てー!」



 玄関の真ん中で髪がプリンになっている青年と焦茶色のセミロングの女性が混雑している人達を上手く誘導してくれていた。



 そして私は本格的に雛菊を見失ってしまった。


「いや〜困ったなぁ」



 もしかしなくても迷子になってるよね。

 好奇心旺盛だから早く見つけないとどんどん奥の方に行ってしまう可能性がある。

 手の届くところに危ない物を置いてないとは思うけど、大きい物が倒れて来たりしたら危ないので早めに見つけないと…

あ、探しに行く前にヤクザの誰かに雛菊見てないか聞いてから行こう。



「ねぇねぇ!」

「ん、なんだぁ?…おっチビ助俺になんか用か?」

「ちび助じゃないよ!柊だよ!」

「おお!すまんな、柊か!俺は田代実( たしろ みのる)だ。んで?柊はおっさんに何の用だ」

「あのね、柊と同じ顔で同じ髪色の子供見てない?ここを通ったと思うんだけど……」

「うーーーん、いや〜?見てないな!逸れちまったのか?」

「うん、そうなの!教えてくれてありがとう!その辺探してみる!」



 小さいから誰にも気付かれずに通り抜けちゃったんだろうな。

 それにしても困ったぞ、雛菊は良く動くうえに方向音痴だから来た道分からなくなって帰れなくなってるかも。

 雛菊な事だから泣く事なく、陽気に歌って自分が迷子になってる事にも気付いてなさそうだけど、迷子には変わらないから何か起こる前に見つけよう。


 私がその場から歩き出そうと一歩踏み出すとすぐ側から声が掛かる。


「柊!ちょっと待ってろ!」

「…え?」


 

 声の方を向く前に実さんは走って行ってしまい、少し離れたところで黒髪の青年に近づき何かを伝えた後私の側に戻って来た。



「待たせたな!たった今暇になったから俺も一緒に探してやる!」

「…お仕事で急に暇になることは無いよ?…おサボり?」

「違うって!見ろあんだけの若い連中がいんだぞ?俺1人抜けたところでどうって事ねんだよ!ほら行くぞ!早く行かねえと夜になっちまう」

「…うーーん、うん!ありがとう!お世話になります!」


 

 仕事を押し付けられた人には申し訳ないけれど、私が1人で構造の分からない屋敷を闇雲に探すよりは、ここで働いている実さんが着いて来てくれた方が早く雛菊を見つけられるかも。

 葛藤の末そう判断してお礼を言ったら実さんはニカッと笑って私を軽々と持ち上げて肩車をした。



「わあ!びっくり!高い、天井に頭当たっちゃいそうだよー!」

「この方が遠くまでよく見えていいだろ!柱とかに当たりそうになったら言ってくれ、しゃがむからよ」

「はーい!」



 遠くまで見えるってそれは外で何かを探す時限定の話なのでは?

 実さんは身長が大きいから天井が近くて掠りそうで怖すぎる。

 まぁ実際は全然当たる心配とかしなくていいくらい天井高いんだけど、地面にいる時よりは圧倒的に近いからちょっと怖いって感覚なんだよね。


 でも、肩車とか前世振りだから懐かしいしちょっとテンション上がる。








 柊が肩車を懐かしんでいる頃、雛菊はというと。


「えー!あれなんだろう!…あー!これ本で見た事ある!わあ、すごぉい!…………あれ、ここどこだろ?いつの間にか柊も居ないし……もしかして柊、迷子?どうしよう!早く見つけてあげなきゃ!」



 柊は雛菊の事方向音痴って言うけど、そんな事ないと思う!

 むしろ柊の方が方向音痴だよね?今もいなくなっちゃったし!

  

 雛菊は自分の方が迷子であるとは全く思っておらず、柊を探す為に屋敷の更に奥の方に進んでいく。



「ふっふふ〜ん!柊っどっこっかなぁ〜」



 雛菊が鼻歌を歌いながらスキップをして歩いていると、後ろから誰かにヒョイっと持ち上げられて軽く体の向きを後ろに向けられる。



「おろ?」

「おい、柊そっちには危ねぇもんしかねぇから行くんじゃぁねぇ」



 雛菊を軽々と持ち上げたのは、施設で柊とは出会っている秋巴でした。


 ん?このお兄さん柊と雛菊を勘違いしてる…全然違うのに……あっ!そうだった!今は全然違くない、そっくりだった!



「お兄さん!雛菊は柊じゃないよ?」

「あ?どう見ても柊じゃねぇか、柊だよなぁ?瑞生」

「確かにそっくりですが本人が雛菊と名乗っているので、柊ちゃんの双子の姉の雛菊ちゃんなのでは?」

「ぱぱーん!雛菊です!」

「あぁ〜お前が雛菊か」



 お兄ちゃん2人は雛菊をジーッと見て納得したのか頷いて雛菊をおろしてくれた。

 


「お兄さん達は柊に会ったことあるの?」

「はい、先程施設内でお会いしましたよ」

「わあ〜そうなんだ!あのね、柊が迷子になっちゃって探してるんだけど会ってない?」

「申し訳ありません、私達も帰って来たばかりなので会っていませんね」

「そうなんだ、どこ行っちゃったんだろ?」


 

 柊は迷子になっても泣かないけど、寂しい思いしてるかも…早く見つけてあげないと!

 


「あ、お兄さん達のお名前聞いてなかった!お名前なんですか?雛菊は雛菊です!」

「あぁ、名乗ってなかったなぁ。俺は中村秋巴だ」

「私が望月瑞生と申します」

「秋巴お兄さんに瑞生お兄さん!よろしくね!」



 2人の違いは容姿にはないけれど、言動には少しの違いがある。

 柊はお兄ちゃん!と言うけれど、雛菊は兄さん!と言うし、柊は完全なタメ口だけど、雛菊はタメ口なんだけど、時々「なんですか」や「です」を使った喋り方をする。

 それを出会って数秒で秋巴も瑞生も理解して情報として組に回しておくことを心の中で決めた。



「で?柊が迷子なのかぁ?」

「うん!一緒に探してくれる?」

「いいぜぇ、暇だからな」

「それで雛菊ちゃんはどっちから来たのですか?」

「ん?分かんない!気付いたらここにいた!」



 雛菊の発言に2人は一瞬で理解した様だった。

 そもそも2人の柊に対する印象はしっかりした子供という印象だ。

 もちろん極僅かな時間しか対話していないが、勝手に何処かに行く様な性格には到底思えず、迷子になったと聞いた時から疑問しか浮かんでいなかったのだ。

 そして雛菊の分からない発言である。

 2人は顔を見合わせて苦笑いをした。

 絶対にこの子『こいつ』が迷子だと言葉を発する事なく思考が一致した。


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