表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シオンの涙雲(改訂版)  作者: 居鳥虎落
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/76

第十九話『異世界のトラックで移動』

 鳥に別れを告げて保弘達先導のもと地上へと上がって行く。



「すごーい、柊ちゃんが2人いるみたい!隆見た?」

「今見てるだろ、にしても双子ってすげぇな。マジで瓜二つ、どっちがどっちか分かんねぇ」

「はい!こっちが雛菊です!」

「はい!こっちが柊だよー!」

「だから分かんねんだよ」

「分かんなくても全然良い!2人とも可愛いぃ〜!」

「「ありがとう!」」


 

 さっきは2人とも子供達に揉みくちゃにされていたので私達を認識していなかったけど、上がってる最中は暇な様でマジマジと見て来た。

 一樹さんは興奮を隠しきれずにずっとテンション高いし、隆之介さんも興味深そうに私達を見ている。

 そんなに見ても違いはないから見分けるのは不可能だよ?

 


「お兄さん達は雛菊達みたいな双子見た事ないの?」

「しっかりは見た事ないかな?知り合いにもいないね」

「仕事でたまに見るくらいだ。お前らほど同一人物レベルでそっくりなのは珍しいな」

「そんなに珍しいんだ!」

「雛菊達も雛菊以外の双子見た事ない!」


「おーい、お前さんらもう着いとるぞ!早く出んかい!」

「あっ、ごめんなさーい!」



 話に夢中になっているとリフトはとっくに地上に着いていた様で周りの人達は移動を始めていた。


 外に出ると数台のトラックが止まっており、トラックの側には2、3人のヤクザが付いて意外にも丁寧に施設のみんなを誘導していた。

 保弘さん達はピッシリスーツを来ているけれど、トラックの側にいる人達は派手な柄シャツを来ている。

 あら、ヤクザ全員がスーツ来てるのかと思ったけどそうでもない…瑞生さんが外に若衆を待機させていると言ってたから柄シャツの人達は部下ってことかな?じゃあ保弘さん達って結構上の立場の人達なのか…一樹さんとか全然上司に見えんけど……



「はいはーい!皆さんゆっくりトラックに乗り込んでくださいねー!」

「全員乗れるから押すなよー!おら!そこのガキ共!どれに乗っても変わらねぇからとっとと決めろ!」



 柄シャツのチャラチャラガチャガチャしてるイケイケの兄ちゃん2人が施設のみんなをトラックの荷台に誘導している。

 怖そうな2人だけど口調優しいし、優しくない方も子供の扱いに慣れてるのかサクサクと子供達を荷台に入れている。

 その光景だけを見ると子供攫ってる様にしか見えないのが面白いよな……ここが街中で誰かがふざけて助けてとか言ったら一発で警察呼ばれそう。


 しかし、荷台に人を乗せるのは法律的に良いのかと思ったのでトラックに近づいて荷台を見てみると、どうやらトラックの荷台は改造されている様だった。

 荷台には一面にクッションが敷いてある様で触ってみるとフワフワと触り心地抜群だった。

 これなら多少揺れてもお尻が痛くなさそう。

 お腹で止めるタイプのシートベルトも着いていたので転がり落ちる事がなさそうで取り敢えず一安心かな?

 前世の物ほどしっかりはしていないけど、ないよりはましだろう。



「柊!すごいね!本物のトラックだよ!」

「本当だね」

「大きいね!あの小さい…タイヤ?で走るんだよね?みんなを乗っけて走れるんだって!不思議だね!」



 この世界のトラックも前世と特に変わりはない。

 強いていうならガソリンなどは使っておらず魔法石を用いて動かしてる所が違うかも、この世界には魔物なんかもいるそうなので、その魔物から落ちると聞いたことがある。

 実際に見た事ないけどね。


 私は前世を覚えているからトラックはよく見ていたし、なんなら車とか通勤で使っていたので割と馴染みがある。

 雛菊は幼い頃に施設に売られたのであまり外の事を学ばずに育ったから見るもの全てが新鮮なんだろう。

 施設に置いてあった本などで学ぶ事が多かったし、私も多少は教えていたけど、私自身この世界の常識に疎いので下手に教えてしまうとこの世界の非常識を常識として教えてしまいそうで怖かったので教えたことは少ない。

 教えてしまいそうと言うか、もううっかり教えてしまった後だったけど……出鱈目な本読んだって言えば誤魔化せるかなって…思う事にした。

 雛菊は知らない事がたくさんあるから、これからは自分の目で耳で肌で色々なものに触れて楽しい事を知っていって欲しいなって思ってる。



「2人はトラック見るの初めてなの?」

「うん!初めて!」

「車ってお金持ちじゃないと買えないものでしょ?」

「雛菊達が住んでた所はひんみんがい?って所だったから見た事ない!」

「そうか……おまえ貧民街なんてよく知ってるな」

「本で読んだ!」

「お母さんにも教えてもらったよ!」

「2人のお母さんは色んな事を教えてくれたんだね」

「「そうなんです!お母さんは頭良いんだよ!」」



 隆之介さんは同情とも違う…苦労したんだなと言う目線を向けて私達を見た。

 貧民街って殆どスラムみたいなところだからそんな目を向けられるのも分かる。

 その後私達が貧民街を知っている事に驚いている様だったし、一樹さんもとてもいい事を言ってくれた。

 そう、私達のお母さんは離れ離れになる前に色々な事を教えてくれたんだ。

 それを基に雛菊に常識を教えたりもしていた。

 お母さん、様々だね!ちょっと足りなくて変な事教えちゃったのはごめんね。




「おい、柊達以外全員乗ったぞ。早く乗れ」

「はい!直ぐに!」

「お前らここに乗れ」

「「はーい!」」



 保弘さんに注意されて2人は慌てて私と雛菊を抱えて荷台に乗っけてくれた。

 ……あれ?保弘さん、私の事柊って名前で呼んでた?…さっきから呼んでたっけ?

 初めて呼ばれた気がする。



「出発するぞー!荷台から身を乗り出して落ちても拾わねぇからなー!」



 保弘さん達や誘導をしてくれていた若衆達もトラックに乗り込んだ様で隆之介さんの号令でトラックがゆっくりと動き始めた。

 トラックは結構なスピードで走っているにも関わらず乗り心地が良くて、揺れも程良い揺れで子供達も緊張していた大人達も殆どが寝てしまった。

 雛菊なんかは出発して早々寝てしまったので暇になった私は窓から見える外の景気をぼーッと見る事に専念していたんだけど、いつの間にか寝落ちていた。




「………きて……起きて!雛菊ちゃん!柊ちゃん!もう着いたよー……おーきーてー!」

「…ん〜?もう着いたの?」

「もう着いたのって…出発してから2時間以上経ってるよ?それよりも雛菊ちゃんが全然起きなくて起こしてもらってもいい?」

「えっ!2時間…そんなに寝てたんだ…ごめんなさーい!起こしてくれてありがとう!雛菊の事は任せて!」

「ありがとう、よろしくね!」



 爆睡してしまった、2時間も寝れたなんてトラックの荷台が凄すぎた。

 私が起きた事に安堵した様子の一樹さんは慌ただしく屋敷に入って行った。

 トラックの中にもう誰も残っておらず、荷台から少し顔を出して辺りを見渡すと住宅街が広がっていた。

 わぁ、木しか見えない森の中を出たんだ。

 …本当に施設から出られたんだなぁ。

 あ、雛菊起こさないと。



「雛菊、起きて!着いたよ」

「…う〜ん…あと5分寝かして〜」

「だめだよ、みんな降りて後は私達だけなんだよ」

「……ッうそ?!……本当だみんないない」

「私達が最後なんだって、早く行こ」

「うん!楽しみだなー!」


 

 雛菊はいつも寝起きが悪いんだけど今日は外の世界に興味が優っている様で着いた事を伝えると直ぐに起きた。

 楽しみが行動から滲み出ていて、雛菊はトラックの荷台から軽々と飛び降りて周りをキョロキョロと見渡している。



「柊凄いね!お家がいっぱいだよ!あれ何かな?」

「ん?何だろう、病院…かな?」

「病院?お兄さん達の家の目の前にあるなんて怪我した時に直ぐ行けて便利だね!」



 雛菊は目に映るもの全てが新鮮な様で目をキラキラさせながら色んなものに興味を持っていた。

 その中でもとびきり大きい建物が気になって指を指して聞いて来た。

 その建物は組の向かい側にあって見た目は病院っぽい建物だけど、扉が曇りガラスになっているので中が見えずよく分からない。

 組の仕事をしていると怪我が絶えないから建てた可能性はあるかも。


 そんな事を考えていると雛菊の楽しげな声が聞こえなくなっている事に気づいた。

 さっきまで隣に居たのでそっちを見てみると雛菊は忽然と姿を消していた。

 グルっと辺りを見回すとダッシュで湊崎組の屋敷に入って行く雛菊の後ろ姿が見えた。

 早すぎる…今さっきここで病院もどき一緒に見てたのに……見失う前に追いつかなきゃ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ