第一話 『国王の憂いと双子』
この世界は大森林を中心に複数の国と大海が広がる豊かな世界。
その複数ある国の中でも栄え平和で豊かな王国がありました。
王国は世界で最も大きく歴史のある古い国でしたが、国王はその立場に驕る事なくとても聡明で国民の事をとても大切に慈しんでいました。
そんな国王を近年悩ませている問題がありました。
それは、多くの若者や子供が攫われ他国に売買されている事と銃や刀などの武器類が他国に流れている事の2つの事件です。
国王がいくら調べても騎士団を使って調べさせても組織の尻尾すら掴む事は出来ませんでした。
この2つの事件は国民を慈しんでいる国王にとってとても苦しく許し難い出来事で、最早政党法では解決出来ないと考えた国王は友であり、部下でもある優秀で1番の信頼を置いている人間に組織を探すように依頼を出したのでした。
所変わって王国内北側大森林内部。
その奥深くに苔や蔦が大量に張り付いている小さな建物が1軒ポツンと建っていました。
この建物は一見小さく見えますが、建物内の奥にはポスターなどで隠された扉があり、扉の中には1台のエレベーター……というよりは荷物用の簡易リフトを無理やり箱型にしたような物が隠されていました。
リフトに乗り地下まで降りて行くと外からでは見えなかった、地上に建っていた建物の10倍はあるであろう地下施設に繋がっていました。
何を隠そうこの地下施設こそ国王を悩ませる人身売買を行なっている組織の本拠地なのです。
この施設のルールは、食事や短い自由時間などは施設内の許可されている所のみ、好きに行き来して良い事になっています。
しかし毎日のクソダルな業務時間とうっすい毛布1枚で凌がなければいけない就寝時間はランク付けされた部屋で過ごさなければならなかった。
ランクというのは簡単な話。
1号棟は若くて容姿が整っている人間。
2号棟は若いが容姿が良くない人間。
3号棟は容姿が整っている子供。
4号棟は容姿が良くない子供。
5号棟は売れ残って歳を取った人間。
それぞれ男女に分かれて暮らしている。
このランクって言うのは完全にここのトップ、施設長の好みで決まっているのでドール人形レベルで容姿が良くないと1号棟や3号棟には入れられない。
因みに私達が暮らしているエリアを施設の職員は商品保管区域って呼んでるよ。
実に不愉快だよね、だけど私達は悲しい事に商品なのでこればっかりは受け入れるしかない。
それからここに居る人達の殆どは攫われて来た人達だけど中には自分で来た人達もいる。
金の為に家族に売られた人、家族の為に自分を売った人、借金を返済出来ずに連れて来られた人と自ら選んで来た人、これ以外にも本当に様々な事情を抱えている人が殆ど。
売られて来た人も自分自身で来た人も絶望に満ちた顔をしていて、笑顔の人なんて正気を保てなくなった人くらいのものだった。
だってこの施設は非合法の人身売買組織が運営していて、環境も死なない程度に与えられる腐った食事と清拭すら許されず黒ずんだ肌。
こんな劣悪な環境に訪れる客は良い噂の聞かない貴族や商人達ばかり、そんな環境で希望を持てという方が酷と言うものです。
そんな沈んだ空気を漂わせている施設に常に笑顔を絶やさない双子の女の子がいました。
年頃は5歳程度で綺麗なミルクティー色のロングヘアで瞳の色がそれぞれ違いました。
姉は空色の瞳、妹は蜂蜜色で3号棟に入れられる程見目麗しい双子です。
姉は元気いっぱいで優しい性格。
いつも子供達と遊び、大人達とも楽しげに話しているような、その場をパッと華やかにする子供。
妹は大人しい性格で1人で書物を読んでいる事が多いが、子供達や大人達が話しかけると笑顔で答えるし相談にも親身になって乗ってくれる心の優しい子供。
双子が施設に来た当初は散々であった環境は双子が来てからガラリと変わる。
掃除道具が与えられて、少ないがスタッフも定期的に訪れるようになり、施設全体がピカピカに磨かれ、週に1回暖かいタオルでの清拭が許され、食事も少量だが毎日提供される様になった。
普通に生きている人達からしたら当たり前の権利を商品の人達は少しだけ得る事が出来たのです。
そんな事があり商品の人達はある考えに行き着きます。
双子が来てから環境の改善が始まった。
それはつまり双子が施設長のお気に入りだからなのではないかと。
2号棟の人間が施設長に我儘を言っている双子を見たと言ってからは尚の事その考えが正しいのだと思い始めた。
目敏い者は直ぐに双子に取り入ることにした。
常に双子の付き人のように従い、ご機嫌取りをした。
そうして四六時中くっ付いて周るうちに双子は施設長のお気に入りなどではないと早々に知る事になる。
ある日双子が施設長に何かを話している場面を見かけた。
またおねだりをしているのだろうと、自分も甘い汁にあやかろうと近づくと双子の片割れが施設長に殴られ、遠くに吹っ飛ばされるのを見た。
咄嗟に物陰に隠れ様子を伺うと追い討ちを掛けようとする施設長を殴られた片割れが笑いながら諌めていた。
普通は腹を立てているところに笑顔で対応されたら尚の事頭に血が上ると思うが施設長は落ち着きを取り戻して自室へと帰って行った。
施設長が居なくなった後、殴られた方は失敗してしまったと笑っていてもう片方は心配そうに怪我の手当をしていた。
その状況を見て気づいたのだ。
この双子は決して施設長のお気に入りではない事に…
双子は殴られながらも自分達の境遇を改善しようと働いてくれていたのだ。
施設内が綺麗になったのも、清拭出来る様になったのも、食事を毎日出来る様になったのも……全て双子が矢面に立って自分達を守ってくれていたからなのだと。
そして取り巻きをしていた人間は思った。
自分は何をしていたのだろうかと、双子が来てからの変化をお気に入りだからと片付けて双子を搾取する事ばかり考えていた。
中にはその立場を奪ってやろうと考えている人間さえいたのだ。
まだ5歳程の子供だというのに、情けないと自分達を恥じた。
それから商品の人達は自分でも行動を起こすようになった。
双子のように上手く出来ずに殺されそうになった時、双子に助けられ見極めが大事だと指導を受けた。
この子達は自分達とは出来が違うと落ち込みそうになったが、夜中に2人が書物を読んで勉強したり交渉の作戦を立てている事を知り、また自分達の考えが甘かったと反省をしてひたすら勉強をして努力をしようと全員で決めた。
劣悪な環境を改善してくれた2人に報いれるように、返していこう生きる希望をくれた2人に…。
自分達の命を捧げて。
そんな自己犠牲的な考えを持っている事を雛菊と柊に知られ大激怒される事を皆はまだ知らない。