第十六話『地下室を隠すなら地下室の中』
「で、こっからそれぞれの棟に言って保護する有無を伝えて周るんですよね?」
「そうだ」
「あっ!みんな部屋には居なくてここより更に地下に隠れてるよ?」
「はあ?」
私の発言に隆之介さんは顔を歪めてこちらを睨みつけて来た。
そんなキレなくても良くない?
「柊ちゃんここより地下ってどういう事?」
「施設長が作ったの!泥棒が来たらみんなで隠れる用で!」
「泥棒…」
「少々マナーのなっていらっしゃらないお客様が来る事も御座いますので、商品が傷つかない様一時的に避難出来る地下を施設長がお造りになったのです」
「地下の地下ってこの施設何階下まで造ってんだよ」
「凄いでしょ!木を隠すなら森のなか、人を隠すなら人混みのなか、地下室を隠すなら地下室のなか!って施設長が言ってた!」
「これ以上の地下室は御座いませんのでご安心ください」
地下室を隠すなら〜の言葉は施設長が得意げに話していた。
施設長は味方も多いけど敵も同じくらい多いから商品である私達も危害を加えられる可能性がある、そんな客から商品を守る為に地下室を作ったって言ってたけど、酒とかタバコが大量に詰め込まれてたから絶対施設長自身が隠れる為に作ったと思うんだよね。
私達安く仕入れられてるから使い捨てが多いし。
てか、地下室でタバコとかいくら換気口が付いていたとしても死ぬと思うんだけど。
「ここだよ〜!ここのチェストと絨毯の下に入り口があるんだ!」
「凄い厳重、これは手動で動かすには重過ぎる……自動で開かないの?」
「大丈夫!自動で開くよ!」
大人達に見守られながら私はチェストの仕掛けを解いていく。
このチェストは商品保管区域の扉を隠していた本棚と違って少し複雑に作られていて、日本で言うところの箱根細工の様な作られ方をしている。
3段3列あるチェストのド真ん中の引き出しを数センチ開いてそのまま1段目の右の引き出しを全開にする。
そして3段目の引き出しの右端と左端だけを半分開く。
この工程を挟んでやっとチェストが自動で横に移動して絨毯を捲れる様になる。
これをやらないとどんなに力自慢の筋肉ダルマが来てもチェストを動かす事は出来ない、仕掛けを解くまでは底がガッチリ固定されているからね。
流石にドリルとか使われたら壊れちゃうけど。
「凄い!こんな細工見たのも初めてだけど、柊ちゃん良く解けたね」
「へへーん!柊こういうの得意なの!…でもサクサク解けるようになったのは最近なんだよ!」
「そうなの?」
「いっぱい勉強した!あと雛菊にもいっぱい教えてもらった!」
雛菊は私と違って地頭が良いのか一度見ただけでサクサクと解いてしまっていた。
本当に天才!そういうところも大好き!
この世界では珍しい技術なのに雛菊があっさり解いたもんだから、施設長が顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていたのは今でも滑稽で面白かった。
絨毯をめくったら鉄の扉が出て来てここでサイモンさんの言っていた私の網膜と声の認証、それからパスワードの入力が必要になってくる。
これも最新、というかルゥが作ってるから世界に数個しか無い代物だ。
お金持ちとかは持っている人も結構多い。
「このガキが必要なのは嘘じゃねんだな」
「サイモンさんは嘘つかないよ!」
まぁ、私の情報だけじゃなくて雛菊、サイモンさん、マイロくん、アグリさん、クルミさんと他にも数人の情報が入ってるから私だけが開けられるわけではないんだよね〜
嘘はついていない!本当の事を言っていないだけ!サイモンさんでも開けられるかって聞かれてないし〜
扉を開けて10段程ある階段を降りると目の前にまた扉が現れる。
この扉は外から開ける事は出来ず、中からしか開けることは出来ない。
「おい、この扉鍵とかねぇぞ」
「はい。この扉は中側にしか鍵がありませんので外から開ける事は不可能な物になります」
「はあ?じゃあどうやって開けんだよ」
「……柊お願いできますか?」
「…柊がやるの?」
「はい、その方がよろしいかと」
「んー?りょうかい!」
サイモンさんの方がみんな開けてくれると思うけど…何で私なんだ?
さっきの仕掛けを解いた事で私を連れて来た意味は見せられたし、ここでも見せる意味ってあんまり無い気がするけど……まぁ、いいか!
「みんなー!柊だよ!あーけーてっ!」
「合言葉をどうぞっ!」
「えぇ〜柊って分かってるのに?」
「決まりでしょ!合言葉、雛菊の好きな食べ物は!」
「……わたあめ!」
「大正解ー!今開けるね!」
扉の向こうに話しかけると雛菊が返事を返して来たので直ぐに開けて欲しい事を伝えたが見事に却下されて2人で考えた合言葉を言うように要求して来た。
合言葉の雛菊の好きな食べ物はわたあめ以外にも色々あってりんご飴とか生姜焼き、麻婆豆腐なんかもある。
どれもこの世界には無いもので、私がどうしても食べたくて突貫で作ったモドキ達だ。
前世の味とはだいぶ違うけど、それでも無いよりは満足出来る、そんな代物。
合言葉を言わない限り永遠に開けてはもらえないので答えると楽しそうな明るい雛菊の声が聞こえて、扉がゆっくりと開き始める。
この扉は比較的新しく造られた物なので不快な錆び付いた音はしない。
「今のやり取り何だ?いるか?」
「隆うるさいよ?良いじゃん可愛いしぃ」
「可愛いとかじゃねぇだろ。お互い誰か分かってんのにやる意味あんのかって言ってんだよ」
「全然無いよ?合言葉は柊達が勝手に作って遊んでるだけだから無くてもオッケー!」
「だとよ」
「ぎぃぃ、そのドヤ顔やめろムカつくな!」
私に喧嘩を売ってきた隆之介さんは最終的に一樹さんにまで喧嘩を売って私を放置して二人で喧嘩を始めてしまった。
仲良いんだなぁ。
「……わたあめって何だ?」
「ん?わたあめはお母さんが作ってくれてた、あま〜いお菓子だよ!」
「菓子なのかどんな味だ?」
「どんな味か?うーん……味はすっごく甘くて見た目はふわふわしてて雲みたいで口に入れると一瞬で溶けちゃうの!とっても美味しいよ!」
「…そうなのか、作り方を知っているなら今度教えてくれ」
「いいよ!」
意外だ、保弘さんは甘い物が好きなのかな?
作り方を聞いてくるって事は自分で作ったりも出来るのかも、全然想像出来ないけど。
保弘さんと話している間、隆之介さんと一樹さんはいまだに言い争いをしていた。
必要かどうかはもうどうでも良いよ…遊びだって言ったでしょ。
「柊ーー!無事で良かったよ!怪我は…してないね!」
「わぷっ!ととっ、うん約束したからね!」
保弘さんと話しているとまだ開き切っていない扉から雛菊が飛び出して来てそのままの勢いで私に抱きついて来たので、少しよろけた。
私の口調がいつもと違うのに気付いた雛菊はじっと私の顔を見た後にニコッと笑ってまた力一杯抱きついて来た。
「雛菊紹介したい人がいるから1回離して?」
「紹介したい人?」
そんな可愛い雛菊には申し訳ないけど、背中を軽く叩いてゆっくりと自分の体から離しながら言うと雛菊は離れながら首を傾げた。
「このお兄ちゃん達だよ!柊達を安全な所に保護してくれるんだって!」
「保護……それってもう売られたり買われたりしなくなるってこと?」
「そゆこと!お家にも帰れるんだって!」
私の話を聞いた雛菊は、キョトンとした後にふわっと花が満開に咲いた様に明るい笑顔を見せた。




