第十四話『私達には必要ないカードキー』
「サイモンさん、貴方は商品の管理を任されていたんですよね?なら施設の事は1番詳しいはず」
「1番、かどうかは分かりませんが貴方方よりは把握していると思います」
「ならコイツの代わりに我々を商品保管区域に案内して頂きたい」
瑞生さんは施設長を物のように持ち上げてブンブン左右に揺さぶった。
可哀想ー。
「私達を安全保護してくださる……と言うことでしょうか?」
「はい、あなた方の身の安全は保証いたします。ここには不正に連れてこられた人々が多いと聞いました。その方々を以前と同じように暮らせるように最善を尽くさせていただきます」
「………分かりました。今はその言葉を信じて着いて行く事にします」
「…信じて下さってありがとうございます」
瑞生さんに信じて欲しいと言われたサイモンさんは一瞬私の方を見たけれど、特に異論はないので何の話をしているのか分かりませんって感じで首を傾げさせてもらった。
その動作だけでサイモンさんは私の意思を理解して瑞生さんに了承の意思を伝えた。
やっぱ察しの良い人って楽できて良いなぁ。
「ではサイモンさんまだまだ詳しいお話を伺いたいのですが、私はコイツを王城まで連行しなければならないので後ほど組の方でお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、私はいつでも何処でも構いませんよ。逃げたりなどせずに貴方方の保護下に入りますので、ゆっくりと貴方の任務を遂行して下さいませ」
「数々の配慮ありがとうございます。ではこれから施設に監禁されている人々の保護に移ります。私と秋巴は王城に行きます」
「はいよぉ」
「保弘、隆之介、一樹はサイモンさんと一緒に監禁されている人々の保護をお願いします。手が足りなければ外で待機させている若衆達を使ってください」
「了解、遠慮無く使わせてもらう」
「了解しました」
「一樹了解です!」
瑞生さんはこの人達を纏めるリーダーの様な存在なのかな、采配に誰も意義を唱える事なく二つ返事で了承している。
瑞生さんが1番偉いって感じでもないのに役割分担が良く出来ていてバランスが良い。
「組で若衆達に風呂や部屋の準備をやらせています。帰宅したら保護した人々に詳しい説明と部屋分けをお願いします。私達も終わり次第合流しますが、コイツの待遇の話し合いが必要なので早く帰れるかは微妙なところです」
「分かってる、後の事は俺達に任せてゆっくりしっかり決めてこい」
「保弘、助かります」
瑞生さんと保弘さんは他の人達とは違う雰囲気を出している。
なんて言うんだろう、親友…戦友?ぽい感じがする。
「それではよろしくお願いします」
「後よろしくなぁ」
軽く挨拶をして2人は施設長と護衛役を引き摺りながら外に出ていった。
大人数人を軽々と運ぶなんて2人とも力持ちだなぁ。
服捲れて背中出てたから絶対王城着く頃には血だらけになってるよ。
「ではご案内しますね」
「レッツゴー!」
「おい、このガキも一緒に行くのか?」
「何か問題がありますでしょうか?」
「チビが足元チョロチョロしてたら邪魔だろうが、ここに置いてけ」
「1人でここに置いて行くの危なくない?」
「あ?施設職員は全員瑞生さん達が回収して帰ってんだから危なくねぇだろ」
隆之介さんは子供が嫌いっぽいな、初対面の時から睨まれていたけど、ただ目つきが悪いだけだと思ってた。
今の感じみるに目つきが悪いんじゃなくて本当に嫌悪の感情に等しいものを抱いていて向けていた視線の様だ。
嫌がられてるから待機したい気持ちもあるけど、雛菊が私を待ってるから待機は無しで。
「隆之介さんが嫌がっているところ申し訳ありませんが、柊を置いて行く事は出来かねます」
「あ?何でだよ爺さん」
おや?サイモンさんが珍しく怒ってる。
いつもの変わらない丁寧な口調や表情なのに言葉の端々から苛立ちを感じるぞ?
なんでこのタイミングで急に怒ってるんだ?
「実は商品保管区域には柊にしか開けることの出来ない扉があるのです。ですから柊を置いて行く事は出来かねます」
「……パスコードとかなら今聞いとけばいんじゃねぇの?」
「隆、諦め悪」
「パスコードだけではなく、柊の声や瞳を認証させる事で開くものになるので不可能になります」
「…………」
サイモンさんは苛立ちを発散する為にとても良い笑顔で隆之介さんの言葉を否定して行く。
最後には隆之介さんは黙ってしまい、サイモンさんはそれにさらに満足そうに笑っていた。
なんで怒ってたのかはサッパリだけど、隆之介さんをイジメて発散出来たなら良かった…のかな?
犠牲になった隆之介さんには申し訳ないけど、怒らせたのは隆之介さんっぽいから自業自得?
「隆諦めなよー保護する為には柊ちゃんが必要なんだから置いてけないんだって」
「…….分かったよ。おいお前っ邪魔だけはするなよ?大人しく静かにしてろ」
「………」
「りょーかいです!」
「はぁ、言い方最悪…。ごめんね柊ちゃん、言い方キツいだけで悪いやつじゃないから」
「ん?柊大丈夫だよ?お友達に隆之介お兄ちゃんみたいな人いるから!」
「……え、お友達にいるの?大分キツイお友達だね……」
隆之介さんはルゥに非常に良く似ている。
心配していると素直に言うことが出来ずに邪魔だとルゥも良く言っていた。
それで後で密かに落ち込んでいるのを見た事がある。
まぁ、言い方が似ているだけで落ち込む事がこの人にあるとは思えないし、ルゥと違い本当に邪魔だと思ってる可能性大だけどね。
サイモンさんはまた密かに怒っていたから隆之介さんはルゥと同類の人だよと一樹さんとの会話を通して伝えてみた。
私の顔をニコニコと笑いながら見ているが目の奥が全然笑っていない。
しかし一応同類だと納得はしたようでいつもの調子に戻った。
さっきストレス発散してたのになんでまた怒ったのこの人。
「器の小さい隆の事は気にせずに地下に行こうか!」
「あいあいさー!」
「…静かにしてろって言っただろ、大体なんだよその返事」
「自分より偉い人に返事する時の言葉だよ!書庫にある本に書いてあった!」
「変な本読んでんな」
「柊ちゃん超可愛い〜〜!」
移動を始めてから主に一樹とサイモンと柊が会話を弾ませて、たまに隆之介がツッコミを入れ、保弘がひたすらに歩みを進めて行った。
「今更なんだけど、サイモンさんと柊ちゃんってどうやって商品保管区域から出て来たの?」
「どゆこと?」
「あそこってカードキーが無いと出入り出来ないんでしょ?海斗さんが言ってたから、2人はどうやって出たのかなって」
「…よく分かんないけど柊達は自由に移動出来るよ?」
「私は施設長の仕事の補佐を命じられていたので限られた場所ですが出入りが自由に出来ていましたね」
「そうなんだ?じゃあカードキーを持っているんですね」
「カードキーなんて持ってないよ?」
「私もそのような物を待たされた覚えは御座いませんね。カードキーは施設長が持っているマスターキーと監視役の男性でも1名しか持つ事を許可されていなかったので私達は所持しておりません」
私達の発言に一樹さんは不思議そうに首を傾げているし、隆之介さんも怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「施設長が柊達自体がカードキーだから無くても良いんだって言ってたよ?」
「柊ちゃん達自体が、カードキー?」
私達自体がカードキー、その言葉に今の今まで黙って歩き続けていた保弘さんが急に立ち止まって振り返った。
「…お前達ここに連れて来られた日か数日後に何かされたか?体を調べられたとか」
「あー!健康診断とかしたよ!」
「…確かに致しましたね。施設に売られる際に感染症や持病等がないか確認する為に検査と手術を施されました」
健康診断、検査、手術という単語に3人は顔を顰めた。
「病気があるか調べるだけなら手術なんて要らないだろ」
「サイモンさん、もしかして売られた人達は全員手術を受けてたりする?」
「手術が難しい年齢やアレルギーを持っている人間以外は全員例外無く受けておりますね。受けられない方はピアスや首輪などを着けるのが義務付けられています」
「確実に何か仕掛けられてるよ」
「それ以外考えらんないな」




