第十二話『自己紹介タイム!』
「捕まえたぞぉ」
「秋巴、ご苦労様です」
「この爺さんクソ早かったぞ。全力で走っても追いつけねぇし、爺さんやっとの思いで捕まえたらこのチビっこいのが1人で逃げやがって、よけぇな体力使ったぜ」
「おーろーしーてー!」
「あぁ?わりぃ、忘れてたわ」
首根っこを掴まれていて苦しかったので訴えてみると案外あっさり離してくれた。
サイモンさんは腕掴んでるだけなのになんで私は首根っこ掴まれてんだ。
面倒な顔してるだけで逃げた事自体を怒ってる訳ではなさそう。
てか、あっという間に捕まった。
サイモンさんの脚力(私というお荷物付き)で勝てないんだから、当然私が勝てるはずないんだけど、結構柱とか駆使して逃げ回ってたのに数分粘っただけで捕まってショック…
ルゥ並に早かったんだけどこの人、魔法使ってないよね…?
「何捕まっているんだ!!もう一度行って来い!!商品なんていくら死んで構わない!!さっさと行け!サイモン!お前は私の肉壁になれと言ったはずだろ!なんで柊と走り出してんだ!!ッこの役立たずがッ……!!」
「お前もう黙ってろ」
周りの状況など気にする事なくギャアギャアと喧しく暴れていた施設長を赤髪赤目のヤクザが軽い動作で殴っただけ……に見えたのに施設長はあっさり気絶してしまった。
「あーあ、コイツ伸びちゃいましたよ?まだコウの事も商品の場所も聞き出せてないのにぃー」
「…そんな強く殴っていない」
「まぁ良いんじゃねぇの?うざったかったし、どうせ連れてくんだから意識ねぇ方が静かで良いだろ」
「一理ある!でも商品の事はどうする?」
「あ?そんなもん俺が捕まえるのに苦労したこの爺さんとチビに聞けきゃあいいじゃねぇか」
青髪のヤクザ、改めて秋巴と呼ばれていた人がこちらを指差すとまた全員がこっちを見た。
ガタイの良い美形に一斉に振り向かれると怖いからやめてくれますか?
大体知ってても正しい情報を教えるかは別だよね。
「私達で答えられる事なら何なりとお教えいたしますよ」
「はいはーい!柊も何でも教えちゃうよ!」
まぁ、答えないって選択肢はないから素直に従うけどね、殴られたりとか骨折られたりとか嫌だし。
そんな事する人達だとは思ってないけど、万が一があるからね。
大声で元気良く手を挙げる私の側に黒髪の中性的なヤクザがしゃがみ込んで柔らかい笑顔を向けてきた。
わぁー、至近距離美形破壊力半端な。
「こんにちは、可愛らしいお嬢さん。そしてご老人。際程はそこの男が乱暴な扱いをしてしまい申し訳ありませんでした」
「全然大丈夫だよ!むしろあいさつしないで逃げてごめんね?」
「逃亡したら捕まえるのは当然の行いですので、問題ありませんよ。掴まれただけで特に暴力を振るわれた訳ではないのでお気になさらずに」
「そう言っていただけると有難いです。人相の悪い人間が多いですから、逃げるのは当然ですよ。申し遅れましたが、私は望月瑞生と申します。貴方方のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「瑞生さん、よろしくお願いします。サイモンと申します。この施設には設立直後から収容されております」
「はい!柊だよ!施設の中ではお姉さん!よろしくね瑞生お兄ちゃん!」
「柊ちゃんよろしくね。サイモンさんもよろしくお願いします。それでサイモンさんはもしや商品達の管理を任されている方でしょうか?」
「おや、ご存知でしたか」
サイモンさんの事は当然知ってるか。
幸太郎さんともあの人とも良く会話してたから情報が渡っていたんだろうな。
この人達は施設長の敵だし、私達のことも保護してくれようとしている。
でも王の関係者でその依頼で来たっていうのが正直信用出来ない。
この人達が信用出来ないってよりかは、王の方が信用出来ない。
評判の良い賢王だと噂では聞いてるけど、国のお偉いさんは往々にして腹黒いと相場が決まっているので保護意外にも何か企んでるかもしれない……と今考えても仕方がない事を勘繰ってしまう。
よって、信用出来ない人間の前で素は出さない。
出せない。
雛菊のように無邪気で天真爛漫な可愛い子供の振りしとこ。
私が雛菊の真似をするのはいつもやる事なのでサイモンさんだけには意図が通じたようで小さく頷いてくれた。
「はいはい!俺、柏原一樹です!」
「一樹お兄ちゃん!よろしくね!」
「よろしくお願い致します」
「よろしく!んで、こっちの目つき悪いのが多田隆之介」
「おい、勝手に紹介すんな。つか目つき悪いの俺だけじゃねえだろ、全員大差なく目つき悪いだろ」
「この中で1番悪いのが隆じゃん。小さい子に紹介するんだったら見た目の特徴言うのが伝わりやすくて楽!」
「チッ……だったら髪の色とかでも良いだろ…」
「お、それいいな!」
黄色メッシュ髪の一樹さんの紹介に隆之介さんが文句を言っている。
最後の方小声でなんか言ってたし、この人達は仲が良いのかな?近しい関係って感じはするけど。
目つきに関しては瑞生さんと一樹さんは柔らかい印象を受けて、他の人達も目つきは悪いけど顔が整っているからあんまり怖いという印象は受けない。
「あと、この青髪が中村秋巴でそっちの赤髪の人が都築保弘さん!」
「おぅ、秋巴だ。よろしくな。爺さん達さっきは悪かったな」
「……保弘だ」
「……?ううん、気にしてないよ!秋巴お兄ちゃんに保弘お兄ちゃん!よろしくね!」
「よろしくお願い致します。先程も申しましたが、怪我を追わされた訳ではありませんのでお気になさらずに」
なんだろ、挨拶をされた時に保弘さんが私達をガン見して来た。
私達なんか変な事したかな?
特に何かした覚えは無いし、サイモンさんが何かした様子もないんだけど。
私と保弘さんが数秒睨み合って?いると秋巴さんが私を見て首を傾げて見つめていた。
「ちび、柊だったか?お前双子の姉か妹いないか?雛菊って名前の」
「……いる!雛菊は柊のお姉ちゃんだよ!でもどうして知ってるの?柊達秋巴お兄ちゃんに会った事ある?」
うーん、この人達は私達の事を結構知ってるんだな。
サイモンさんの事も何をしている人か知っていたし、名前だけじゃなくて容姿やざっくりとした性格とか喋り方とかも情報として渡ってる可能性が高いかも。
雛菊の情報がこの人達に把握されてるのはとっても不快だけど、容姿は私と同じだし性格も私が偽ってるから同じになってる。
今直ぐに情報を捏造する為に動かなくて良さそう。
私と雛菊の唯一の違いはこの人達には知られていなさそうで良かった。
今はもう違いがないからどっちがどっちか把握されなくて安心だしね。




