第十話『完璧な潜入者』
サイモンさんは湊崎組に異様に詳しかった、元々貴族だったから、もしかして知り合いとかもいたのかな?
そんな感じでゆるゆるお喋りを楽しんでいる間も施設長はキツめの尋問を受け続けていた。
「てめぇがやってる事の証拠は全部揃ってんだよぉ!」
「ヴガッッッ!!」
「貴方が大人しく隠している商品の所に案内して下されば苦しまずに済むんですよ?」
青髪でガタイの良い男性が施設長の胸ぐらを掴みながら顔面を容赦なく殴り、その横でセミロングの黒髪で中性的な男性がにこやかに微笑みながら施設長を脅している。
「怖、肉体的にも精神的にも追い込まれるやつだ。普通の人なら壊れちゃいそう」
「流石ですね。尋問に慣れていらっしゃる」
「…あれって讃えて良いやつなの?」
「通常は讃えてはいけない行為ですが、この場においては素晴らしい技術なのでは?……柊がお作りになっている物と同様に素晴らしい物ですよ」
「おっと…それを出されると何も言えません」
サイモンさんの言う通りヤクザ達の尋問はとても的確かつ人の弱点を良く理解しているやり方だった。
施設長の腕が変な方向に曲がっているから一本骨折られてるね。
でもそれ以外の骨は無事、一本折って恐怖を煽り、もう一本折ると脅して自分達の欲しい情報を得る、なんとも心踊るやり方だ。
今度機会があったらやってみようかな…
まぁ、施設長は何本折られてもゲロルことないと思うけど。
「なっ、何のことか私にはさっぱり分からない!商品なら先程お見せしたではありませんか!私が扱っているのは絵画や焼き物などの骨董品です!…貴方達は何か勘違いをしているようだッ」
やっぱりあのカモフラージュの骨董品を見せたのか、このヤクザ達が見たのは一応本当に取り引きされている物だ。
私達人間を買う時に疑われない為カモフラージュとして骨董品もセットでお客さんには買ってもらっている、もし調べられても誤魔化せるようにね。
でもこのヤクザ達が言っている商品は私達人間の事だろう。
あの怒り様ならどんな商売をしているか知っているに違いない。
この施設の商品が人間だと言うことがこの人達にはバレている。
てことは情報をこの人達に与えた人間がいる。
幸太郎さん達…ではないだろう。
幸太郎さん達が知らせたのならばこの人達が今幸太郎さんを探している意味がわからない。
施設長は乱暴な人間だけど超慎重で用心深い人だから人身売買の件は徹底的に隠している。
酒に酔っても喋っている事を見たり聞いたりした事はない。
世話する人間も監視する人間も護衛する人間ですら最低限しか雇っていないし、身辺調査も怠らないし、施設職員全員の弱味を何かしら握って裏切らないようにしていると昔言っていた。
客も極僅かな人しか受け入れないからその全てのお客が訳ありの人間なんだよね。
「骨董品見せたのにあれって事は確かな情報持ってるんだろうね」
「そうですね。何処からの情報でどれくらい信憑性があるのか気になるところですが、堂々と乗り込んで来たところを見るに相当確かなところからの情報なのでしょうね」
「だね〜……施設長が拷もっ、んん"っっ尋問されている間に誰からの情報が推理バトルする?」
「ふふっ意地が悪いですね。推理などしなくとも貴方はもう分かっているのでしょう?」
「バレたか〜……とか言ってるサイモンさんも把握済みでしょ?あの人が居なくなるまでずっと目を光らせてたもんね」
「おや、私の方こそバレバレだったようですね。私もまだまだの様だ、あの方はこちらに害なす人間か
分からなかったので少し観察させて頂いただけですよ」
「悪い人とは思ってなかったんでしょ?」
「どうでしょうね?」
この人が味方で本当に良かった…敵とかだったら私みたいな小娘はすぐに始末されてたよ。
これからも味方でいてくれると有難いんだけどね。
「はぁ、往生際が悪りぃな〜今更しらばっくれても意味ねぇよ。てめぇの命がある内にとっとと案内しろよ」
「そもそも、この施設が立っているここの土地は国が管理している場所です。貴方に使用の許可を出した覚えはありませんよ?不法侵入に違法使用に違法建築、それ以外にも貴方には両手では数え切れないほどの罪状の疑いがあるんですよ」
「そ、そん、な」
「てかさ?こんな場所に隠す様に建築物建てて、その倍はある地下施設まで造っといて骨董品しか扱ってませんって流石に俺達の事、馬鹿にしてるよね?そう思わない?隆」
「ああ、こんなんやましい事してますって言ってる様なもんだな」
「……俺達はコウを探しにここに来た、ついでに国王の依頼もやる為にここに来たんだ。依頼内容はお前を確保する事と拉致監禁されてる人間の保護だ。今更誤魔化しても遅い」
「…え」
ヤクザ達が勢い良く施設長を追い詰めて行き、赤髪のヤクザがトドメを刺して施設長は完全に魂が抜けたようになってしまった。
そんな施設長なんてお構い無しにクリーム色の髪のヤクザが手に持っていた書類を施設長の顔面目掛けて投げつけた。
その散らばった書類を虚ろな目で見た施設長は血相を変えて床にばら撒かれた書類を隠すように掻き集めた。
「なっ!何故これがここに!?私はあの時確かに処分させた!処分するところもしっかりと見ていたはず…」
施設長が青褪めた顔でぶつぶつと言葉を発しているとクリーム髪のヤクザが軽蔑の眼差しを向けて見下ろしていた。
「他人に見せられない物はお気に入りの部下であっても任せない方が良いぞ、処分するのを監視するだけじゃヌルい。自分の手でしっかり処分しないと何に使われるか分かんないぞ」
「その通りです。新しく雇い入れた人間の素性はしっかりと隅々まで調べないといけませんよ?」
「そうだぜ?偽の情報かもしれねぇから、よぉーく調べねぇとな?特に監禁されてる人間に積極的に話しかける、やたらコミュ力が高い野郎とか…な?」
「秋巴って本当に意地悪だよね〜。よぉーく調べたって本当の情報なんて見つからないのに!」
「あ、あ、あり…えない……。うううそだ、まさか……あいつが……?…………クソッぉ!!やっぱり見つけ出して殺しておけば良かった……!!!」
裏切り者が誰なのかヤクザ達の会話で理解したのだろう、施設長は髪の毛を振り乱しながら殺しておけば良かったと取り繕う事なく口にした。
口にした瞬間部屋の温度が一気に上がったような感覚がしてサイモンさんを見ると警戒度を少し上げたような…目付きが少しキツくなった気がした。
私の視線に気づいて直ぐに柔らかい雰囲気に戻した器用な人だな。
当の本人である施設長は自分を囲んでいるヤクザから出る重苦しい殺気にはまるで気付いていないようでまだ文句を言っている。
いや〜人の感情に無関心な人間って羨ましい限りだよね〜。
殺気の事は気にしないようにして、潜入していた人が私の推測通りでやっぱりなと思ったし、サイモンさんも同じ考えだったので納得したような顔をしていた。
当時も思ってたけど、あの人は1年もせずに施設長のお気に入りになっちゃうし、仕事も完璧にこなしててめっちゃ忙しそうにしてた。
なのに情報収集まで完璧にしちゃうなんて有能な人だよね。




